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【小説】女子工生㉓《冬休み》

その後の彼ら

 今日から冬休みだが、真白(ましろ)は部活があるので 制服で家を出た。
部活に間に合わせるには、充分すぎるほど早い時間だ。
真白の家から 25分くらいの所にある交差点で
他の人の邪魔にならない様に 真白は端のほうに自転車を停めた。
いつもは右折して学校へ向かう交差点だ。
昨日、徹(てつ)からもらったマフラーに、半分顔を埋めたまま ついニヤニヤしてしまう。

「おはよう。」

真白が顔を上げると、赤信号の向こう側で
徹が小さく手を振っている。
昨日の夜、徹からラ○ンが入り、ここで待ち合わせて 一緒に部活に行こうと言うことになっていた。
真白も胸の前で 小さく手を振る。
信号が青に成や否や、徹が自転車を走らせ 真白の所へやってきた。

「早いね。待たせた?」

“待った?”ではなく、“待たせた?”と言うところに、付き合い始めの気遣いがうかがえる。

「ううん。今来たとこ。」

真白がニコニコしながら首を振る。

「何か、じっとしてられなくて ずいぶん早く家、出ちゃったから。でも、ここで待ち合わせじゃ テツ かなり遠回りじゃない?」

「大丈夫。彼氏らしい事、させてよ。」

「ふふっ、うん。」

2人は肩をすくめて笑った。
実際、徹の家からこの交差点を通っていこうとすると、かなり遠回りになるが、付き合って
初めての待ち合わせだ。
浮かれて距離など 全く気にならない。
真白と徹は、ゆっくりと自転車を走らせながら
学校へ向かった。
お互い 初カレで、初カノだ。
ただの友達の時と全く変わらない様な

「昨日は面白かったね。」

だの

「今日の部活で作るのはさあ。」

だの、何の色気もない会話だったが、2人は
充分楽しく幸せだった。
部活の同級生達には 昨日、随分イジられたので、今日はあまり騒がれなかったが、途中 先輩達に知られる処となり

「え、お前達 今まで付き合ってなかったのかよ。」

「入部した頃から付き合ってると思ってた。」

と、今更感を出されてしまった。
勇介(ゆうすけ)が机で、製図を引きながなら言う。

「今更だって。俺も真白が付き合うならテツだと思ってた。」

聡(さとし)も車型のロボットのモーターをいじりながら、頷いた。

「うん。ただ、テツも真白もニブイから、どうなるんだろうな、とは思っていたけど。」

当の本人達は、何を言ってもイジられる事は、
明白だったので ひたすら自分の作業に没頭していた。
広樹(ひろき)が思い付いた様に、顔を上げた。

「そう言えばさあ、初詣、どうする?また、皆で行く?」

勇介は製図から目を離さず答えた。

「テツと真白は2人でいくだろ?付き合いホヤホヤだし。」

真白は手を止めた。

「皆で行かないの?」

聡は モーターを本体に会わせながら、やはり目を離さない。

「2人は、付き合って初めてのイベントでしよ。 2人で行った方がいいんじゃない?テツは、2人で行きたいんじゃないの?」

「俺?俺は、別にどっちでも・・・」

と 言いながら、2人だけの初イベントを 楽しみにしていたのも 実は本心だった。
でも 真白は友達同士で初詣も 行った事が、無いのだろう。心の広い恋人でいたいのも    
本心だ。

「真白は皆でワイワイ行きたいんだろ?皆で行こうよ。」

2人だけで過ごすイベントは、きっとこれからもあるだろう。
今は、真白のしたい様にさせたかった。
すると広樹が

「じゃあさあ、」

と、手を止めて皆を見た。

「テツと真白は 夜中からでも、朝からでも
2人でまず初詣に行ってこいよ。で、他に集まれる奴は、午後からでも集合して 少し遊んで夕めしでも食って解散ってのは?」

その提案に聡が乗った。

「それ いいね。そうすればテツ達は2人でも会えるし、皆とも遊べる。」

「何か、ごめんね。」

真白は少し、すまなそうな声を出した。
勇介は、笑いながら製図の紙をヒラヒラさせ、
消しゴムのカスを払った。

「いーっていーって、また、その内誰かに彼女とかできたりして、動きが変わるだろうし、その時、その時で考えれば。今年はテツと真白も2人で行きたいだろうし、俺達も皆で遊びたいし、これがベスト。」

結局、次の年は勇介に、3年の始め頃 広樹に
彼女が出来たが、前半は彼女と2人で、後半はその彼女も含めた友達が ワイワイ集まり遊ぶのが、恒例になった。
ただ、広樹は2ヶ月程でその彼女と別れて(振られて)しまったので あまり関係なかったが。
それは、学校を卒業し、社会人になっても 変わる事はなかった。

年が明け、3学期になった。
以前受けた 乙4の合格発表があり、ロボ研1年と清文は、勉強のかいあって、無事合格した。
勿論、クラスの中には、不合格の者もいたが、
ロボ研メンバーと清文は、3年間通して 様々な資格試験に挑み、合格を勝ち取った。

徹と真白は、3年間 全く揺るぎなく安定した
カップルだった。
勇介にも2年生の時に、1つ年下の彼女ができた。
広樹と鈴音(すずね)が、3年も終わりに近づいた頃になって 付き合い出した時は、皆、一様に驚いた。
何で今なのかと、皆からつつかれていた。
どうも、鈴音の勢いに押されて、付き合い出した様だが、既に尻に敷かれている感が出ている。
聡と清文は、3年間 誰とも付き合うことは無かった。
聡は、成績も常にトップ。
生徒会長も務めていたし、清文はバスケ部の
副部長で、更に身長も伸び、他校にもファンがいて、2人ともモテていた。
告白も時々されたが、それらは、全て断わっていた。
真白にまだ少し心を残していたし、真白に何かあったら、力になってやりたかった。
それは、徹の役目だと理解ってはいたが、どうにも割り切れず 高校時代は誰かと付き合うことは無かった。
何となく二人の気持ちに 気付いていた徹は、口に出さず 気付かないフリを貫いたが、全く事情を知らず、この手の事に鈍感な真白は

「2人ともモテるのに、何で彼女 つくらないの?」
などと、よく言っていた。
2人は

「だって、よく知らない子と、付き合えないでしょ。」

と 以前、真白が野崎に告白された時に言っていたセリフを使って言い訳していた。
徹は、近くで苦笑いするしかなかった。

             ㉔<最終話>に続く


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