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相手にあわせた教育を行うべき?

「最近の若い人には、一から十まで教えてやらないといけない。」という愚痴

7~8年前にあったお話。
とある現場系の会社のAさん(当時65歳くらい?)と私(アラフォー)がお話する機会がありました。

A:最近は新入社員を大事に育てろって言われるじゃないですか?
 実際、一から十まで教えてやらないと覚えてくれない。ワタシらが若いころは、人が教えてくれるなんてことはなくて、自分でその人の仕事を横から見て盗んで育ってきたもんです。出来なかったらゲンコツや罵声が飛んでくるなんてのは当たり前で。
 まぁ、今はそんなことをすれば社会的にだめだし、ほめて育てるというか、そういう育て方をしなければいけないんですねぇ。

私:あー。そうですねぇ。
僕は学生時代、飲食のバイトしてたことがありますけど、その頃はまだ大分Aさんのおっしゃるようなことがありました。カウンターの中でゴツッとやられたりとか。

A:その頃でもありましたかぁー

私:えぇ。バイトに入りたての頃とか、何していいかわからないんで突っ立ってたら「そんなところで突っ立ってないで、こっちに来て俺のやること見とけよ。見て覚えろ」って。
 で、しばらく見てたら「いつまで見てんだ、自分でやってみろよ」。見てろって言ったのはそっちじゃないかとw
 それじゃあって言って見よう見まねではじめてみて、目の前に集中してたらペシッって頭をはたかれるんですよね。「やり方が違う、何見てたんだ。こうだよ!!」って。それからも「違うやり直し」とか、何も言わずにゴツッとかがあって、だんだんそれがなくなっていって、あぁ、よかった…みたいなw

A:そうそうw

私:ところでこれ。殴られないとか注意されないってのは、「これでOK」って言うサインなんですよね。
 表現法は違いますけど、誉めるって言うのと同じなんです。誉めて伸ばすとは言いますが、ちやほやすることよりも、「ここまではできている、ここが間違っている」ことを伝えるというのが大事なのは今も変わらないはずです。

A:あぁ…

私:「見て覚える」ってのもねぇ。
子供のころは大人のやることを真似てできるようになっていくんでしょうが、どっかの過程で失敗が怖くなります。それを家庭教育なのか、学校なのか、職場なのかで「見て盗む」ということ自体を教わりなおしてるはずなんですね。最初からできているわけではない。
 先ほどの僕の体験も「見てやり方を覚えろ」「やり方覚えたら試してみろ」という「見て盗む」というやり方自体を教えてもらっていたわけです。

A:…

私:で、間違ったやり方、危険なことをしようとしているときには、先輩が横にいて止めてくれた…まぁ、先に手が出たりはしてますが…これは、なんだかんだ言って、「部下後輩の仕事をよく見ている」ってことです。自分の仕事だけに没頭してたんじゃ見えません。少なくとも「どこを間違うと致命的になるのか」「何をしたら危険なのか」というポイントを踏まえてみてくれてたってことじゃないかと。

A:(下を向き始める)

私:そう思ってみると、「見てろ!」って言われたときも、こちらが見やすいように、ポイントになるところが何なのかを確認しやすいように、作業する角度を調整してたり、ゆっくりとか繰り返しやってくれたりしてくれてたことに気づきましてね。おそらく「こいつはこれを忘れることが多い」と、個別の弱点も見抜かれてましたね。
いやぁ、「丁寧に教えてもらったことはない」なんて、親の心子知らずと言いますか、教える側になったときに自分がそれをできてたかと思うと先輩はすごかったなと。

A:………(長い溜息)

時代背景から想像してみる

 戦後で最大の人口を持った世代は団塊世代(1947~1949生)。現時点で75歳前後の方々で、Aさんの先輩はこの世代の方々です。
また、高成長の世の中で、給与は上がるもの、その会社に所属していけば幸せに生活できるものという信仰が成り立っていた時代でもあったはずです。
・経験者の人数が多く、新人を視界の端で見ておくことができる
・十分すぎる仕事量があり、OJTのみでも体験を重ねる余地がある
・一度就職し、信じて耐えればバラ色の人生が待っているはずと新人も思っていた
・最速の通信手段は固定電話であり、決断や期限に時間的猶予があった
・時間外労働への認識がおおらかだった
等々の前提があったのではないかと考えています。(地域・業界・個人差は多いと思います)

これらの前提は、現代では崩れてしまっています。
ほとんどの職場が人不足を訴え、新人を受け入れれば、教育をするだけでも手間がかかる。上司先輩が、視界の端でずっと新人を気にかけている余裕がある職場は少数派ではないでしょうか?
だからこそ、先にやり方を一から十まで教えること、マニュアルを整備することで、現場における手間を少なくすることが必要になっているのではないでしょうか。

時代を経ても変わらないこと

Aさんは若いころから、人のやり方を見て盗むことで手順を押さえ、怒鳴られなくなったことで、その手順が正しいことに自信を持ち、失敗体験を積んで経験則に昇華し、他の場面に応用をしてきたはずです。
やり方は違えど、人が仕事を覚えていくことに関して、根幹はおそらく大きく変わっていません。
教える側が注意しておくべきだと思うことを列挙してみます。

・「見て盗む」ことを教える
人のやり方を観察し、まずは真似してみる。その上でイメージトレーニン グしたり、自分のやり方との違いを確認することで、なぜそんなやり方をしているのかを考えて、合理的な方を身につける。

・正しい形や手順を伝える
結果として間違っているとしても、「どこまでできていて、ここが間違えている」という指摘の仕方が大事です。「どこまでできているのか」がわからないと先に進むのは難しくなります。
  また、マニュアルや先に説明をしておくことで、「正しい形や手順」を示し、それを行動に移させることで身に着けやすくなります。

・「普通」だけと比べない
 作業上「普通はこれくらいできる」というのは、「労働者一人当たりここまでできる」、または「何年目の経験者ならここまでできる」という目安です。できて「当たり前」ではなく、目指す目標であることを忘れてはいけません。できていない人だから、教育が必要なわけですから。

  • この人にできてほしい(次の)目標はどのラインか。

  • この人の今の技量はどのラインか。

  • この人に、どのような教え方、訓練を施せば目標ラインまで行けるか。

最後に

数十人の採用を一度にする場合を考えます。
一人一人に合わせた教育を施すのは難しいでしょう。教育の仕方もマニュアル化してしまい、それでうまくはまらない時には適性を考えて別の部署に移す…というのは大規模な組織ならばできることです。そうだとしても一人一人の育成に関しては、直属の上司先輩の影響は大きくなります。

中小企業の場合、適性を考えて別の部署に…というのはベースの人数が少ない以上難しいことです。作業適性を採用時に見抜くというのも、かなり難しいかと思います。
育成対象者の状況や個性を見てそれに合わせた教育をする方が効率が良くなるはずです。

おまけ

後日、Aさんの会社に用件があって電話してみたところ、「Aは朝から新入社員を連れて機嫌よさそうに現場に行きました。」とのことでした。
自分が手に入れた仕事のコツを後継に教える、社会環境や技術の発達を経ても、自分の経験で伝えられる、伝えるべきことがあるというのはきっと楽しいことです。

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