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【ハートフル】四番テーブルのストーカー

この記事はオーディオドラマシアター SHINE de SHOWに再掲されています。今後はそちらのアカウントにてご覧ください。

桜は嵐に散りましたが、兎にも角にも春がやってきました。
春は出会いと別れの季節です。そんな季節柄に合わせ、
毎回アクが強めのSHINE de SHOWには珍しい、爽やか系ストーリーをお届けします。

ファミレスでバイトしている希美は、近ごろちょくちょくやって来る女性客を気味悪がっていた。その客はいつも同じ席でコーヒーだけ飲み、なにかと理由をつけては希美にいろいろなものをくれるのだ。
そんな客の正体を暴こうと婚約者の雅樹はファミレスに乗り込むが、思いもかけない展開に……。

結婚とは?家族とは?さまざまなことを問いかける、
ちょっと笑えて心温まるヒューマンドラマです。

★☆★リスナーの皆様へ!★☆★
SHINE de SHOW、地道に続けて春を迎えることができました!
ひとえに聴いてくださる皆様、制作陣の皆様、キャストの皆様のおかげです!
ここからまた心機一転、さらに面白いコンテンツを作っていくべく頑張っていきます!
今後とも応援よろしくお願いします!!

*byプロデューサー 田中見希子

*************
▶ジャンル:ハートフル
▶出演
・希美:田中見希子(東北新社)
・雅樹:白川敏之(ソーダコミュニケーションズ)
・祥子:佐藤恵子(東北新社)
▶スタッフ
・作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)
・プロデュース:田中見希子(東北新社)
・収録協力:映像テクノアカデミア


『四番テーブルのストーカー』シナリオ

登場人物
 希美のぞみ(25)ファミレスのウェイトレス
 雅樹(30)希美の婚約者
 祥子しょうこ(54)

   茶が運ばれてきてテーブルに置かれる。
雅樹「うまいね。このまんじゅう」
希美「で、どう思う? まーくん」
雅樹「どうって? いいんじゃないのー?」
希美「ちょっと気味悪くない?」
雅樹「世の中にはさあ、いろんな人がいるさ。そんなのいちいち気にしてたら仕事なんかやってらんないだろ」
希美「まーくんは、いつもパソコン相手だからそんなノンキなこと言ってられんのよ。あたしはお客様一人一人と真剣勝負やってるのよ」
雅樹「大げさだな。で、その……五十くらいのおばさん? いつも来て何してるわけ?」
希美「その四番の席に座ってるだけ」
雅樹「で、頼むのは?」
希美「コーヒーだけ」
雅樹「ふーん」
希美「黒ずくめの衣装で……そういえば最近ね──」
   ファミレスのざわめき。
希美「ありがとうございました。あ、お客さん、忘れ物!」
祥子「いいのいいの」
希美「はい?」
祥子「あなたにあげる。いらないなら捨てて」
希美「はぁ……」
   ×     ×     ×
希美「──それが、それです」
雅樹「まんじゅう? 食べちゃったじゃん! 先に言えよ先に!」
希美「でも毒とか入ってなかったでしょ」
雅樹「そういう問題じゃないだろ! 気味悪いだろ、なんか」
希美「おいしいって食べてたじゃん。あの人、折にふれてちょっとしたものくれたりするのよね」
雅樹「(ゴクゴク茶を飲んで)ふぅ……」
希美「最初は……飴だったかな。ガムとかも……あ、絵葉書とかもあったかなあ」
雅樹「ストーカーとか?」
希美「は?」
雅樹「最近は女が女のストーカーってのもあるらしいよ」
希美「やだ。なんで? こんなあたしの?」
雅樹「お前はさ、自分の可愛さがわかってないんだよ」
希美「あら結婚してからもずーっとそんなこと言ってくれるのか、し、ら」
雅樹「あ、やべ。また忘れちゃったよ、婚姻届の証人」
希美「また?」
雅樹「親父にはもらったんだけどもう一人がなあ……」
希美「亡くなったお母さんのお姉さん? にもらうんじゃなかったの?」
雅樹「それが先週から海外行っててさあ」
希美「そうなんだ」
雅樹「いっそのこと、その四番テーブルのおばさんにもらうとかね」
希美「もう、適当なこと言わないでよ」
雅樹「だっていろいろ親切にくれるんだろ?」
希美「誰でもいいったって全然関係ない人に頼めるわけないでしょ」
雅樹「冗談だよ」
希美「式挙げないんだからそういうところはちゃんとしときたいの」
雅樹「わかってますって」
希美「あ、そのお茶も」
雅樹「(吹き出す)ブッ! お前どんだけもらってんだよ!」
希美「あとこのテーブルの花ぐらいだよ」
雅樹「ぐらいじゃねえよ! その花に盗聴器かなんか仕込んであるかもしんねえだろ」
希美「まさか……」
雅樹「わかった。今度俺がいっぺんお前んとこのファミレス行って見てやるよ」
希美「まじ?」
雅樹「任せろ。お前のことは俺が守る!」
希美「なんかかっこいい~」
雅樹「なんかが余計だよ」
   ファミレスのざわめき。
希美「ご注文はお決まりでしょうか」
祥子「ええと、ブレンド。……だけでいいわ」
希美「かしこまりました。少々お待ちください」
雅樹「ちょっとすいませーん」
   小走りに来る足音。
希美「(小声で)何よ!」
雅樹「(小声で)普通に頼んじゃいけないのかよ」
希美「(小声)いいけどあんまり話しかけないでよ」
雅樹「(小声)客なんだからいいだろ」
希美「(小声)怪しすぎなのよ」
雅樹「(小声)俺?」
希美「(小声)黒のグラサンに帽子って、店ん中で一番怪しいのよ」
雅樹「(小声)そうかぁ?」
   呼び出しのチャイムが鳴る。
希美「ただいまお伺いします!(小声)とにかくやめてよね、それ」
雅樹「(小声)わかったよ」
   コーヒーを運ぶ音。
希美「お待たせいたしました」
祥子「ありがとう」
希美「失礼します」
祥子「ちょっとお姉さん?」
希美「はい」
祥子「失礼ですけど結婚なさるの?」
希美「え? あ、この指輪ですか? ええ。彼が安物だけどって」
祥子「そう。よかったわねえ。いつ?」
希美「あ、来月……式は挙げないんですけどとりあえず入籍だけすることになってまして……」
祥子「そう。おめでとう」
希美「ありがとうございます」
祥子「じゃあなんかまた今度お祝いをね」
希美「エッ、いえいえいえ、それは困ります」
祥子「気にしないでいいのよ」
希美「そうおっしゃられても、あたしお客様のこと何にも知りませんから、そんなものいただく理由もありませんから」
祥子「いいじゃないの、私、あなたのファンなのよ。ファンだったらファンレターや、贈り物するじゃない?」
希美「まあ……いえいえ、ほんとに困りますので」
祥子「私にもね、昔子供がいてね──」
   呼び出しチャイムが鳴る。
希美「すいません。お客様。(大声で)ただいまお伺いします!」
   小走りに来る足音。
希美「(小声)もう、たびたび呼ばないでよ」
雅樹「なんだって?」
希美「(小声)結婚のお祝いに今度なんかくれるみたい」
雅樹「お、それは一回見てからもらうかどうか決めてもいいんじゃねえ?」
希美「(小声)何言ってんのよ」
雅樹「冗談だよ。で、どうした?」
希美「(小声)断ったわよ」
雅樹「まあいいや、店出たら今日はあとをつけるぜ」
希美「え?」
雅樹「それで本日は会社半休でバイクで来ました」
希美「なんか楽しんでない?」
雅樹「おい、おばさん、立ったぜ」
希美「早いな、今日は」
雅樹「こっち見てねえか?」
希美「見てるどころかガン見してる」
雅樹「おいおい、すごい速さでレジ行っちまったよ! 行くぜ!」
希美「エッ?」
   ドアが開く音。
   駆け降りてくる足音。
雅樹「はぁはぁ……どこに行った」
希美「わかんない。出たばっかりなのに」
   突如、バイクの爆音が通過していく。
希美「キャッ!」
雅樹「バイクかよ! すげえスピードだな。よし追うから乗れ!」
希美「え……バイトが……」
雅樹「わかった。じゃあ俺一人で」
希美「……やっぱり乗る!」
   バイク、エンジン始動。
   発車。
希美「あそこ!」
雅樹「すげえ、あのおばさん。只者じゃねえな」
希美「曲がった!」
雅樹「わかってるよ。しっかり掴まっとけ!」
希美「なんで黒ずくめなのかやっとわかった。ライダースジャケットだったのよ!」
雅樹「見りゃわかるよ」
希美「よそ見しないで!」
雅樹「お前が話しかけるからだろ!」
希美「信号で停まった!」
雅樹「一気に詰めるぜ」
希美「走りだした」
雅樹「すげえ、トラックとトラックの間を泳ぐようにすいすい抜けてくぜ」
希美「感心してる場合じゃないでしょ!」
   トラックの大きなクラクション。
希美「キャッ!」
   ブレーキ!
雅樹「完全に巻かれたー」
希美「あ~……」
雅樹「しょうがねえか……」
希美「うん」
雅樹「次は必ず追い詰めるぜ」
   ×     ×     ×
希美M「ところがそれ以来、あの黒ずくめのスーパーライダーおばさんは来なくなった」
   ファミレスのざわめき。
希美「お待たせいたしました」
雅樹「来ねえなあ……」
希美「もういいよ」
雅樹「来ないってことは目的を果たしたっていうことかな……」
希美「こうなると来てほしくなっちゃうな」
雅樹「結婚祝い気になるもんな」
希美「そういうことじゃありません」
雅樹「はい」
希美「ありがとね、いろいろ。あたしもう上がりだから」
雅樹「うん。俺帰るわ。会社に仕事残ってるし。あ、ひとつ頼みがあるんだけどさ」
希美「何?」
雅樹「俺んち行って婚姻届取ってきてくんない? ついでで悪いんだけど」
希美「明日じゃだめなの?」
雅樹「証人を結局ウチの社長に頼もうと思っててさ、いっつも外出してて今日しか会えないんだ。だから」
希美「わかった。あとでね」
   住宅街を歩いてくる足音。立ち止まる。
希美「ん?」
   ガサッと物音、人が駆け出てくる。
希美「え? 泥棒?」
   逃げて行く足音。
希美「ちょっと待って! お客さんですよね!」
   追う足音。
   もみ合い。
希美「(ハアハア)待ってください」
   サングラスが落ちる。
希美「最近現れないんでどうしたんだろうって思ってたんです」
祥子「……(ハアハア)」
希美「なんで……なんで彼の家の前にいたんですか?」
祥子「……(ハアハア)」
希美「また、お店に来ていただけますか?」
祥子「……(ハアハア)」
希美「すいません。なんか……なんでいつもあたしに会いに来てくれるのかなあって不思議に思ってて」
祥子「……違うの。あなたじゃないの。ごめんなさい」
希美「え? てっきりあたし……」
祥子「あなたを見たくて行ったことは行ったのよ。でも、目的はあなたではなかったの」
希美「……全然意味わかりません」
祥子「一体どんな人なのかしらってね、あなたが。どんな人と結婚するのだろうって」
希美「どんな人? あたしが? もしかしてお客さん、まーくん……雅樹さんの……」
祥子「私、死んでることになってるでしょ」
希美「お母さん? お母さんなんですかっ!」
祥子「私のせいなの。私が過ちを犯して、あの子を置いて家を出て行かなければならなくなったの。全部私のせいなの」
希美「たしかに子供がいたっておっしゃってましたね……」
祥子「忘れようと努力したわ。あの子のことを。でも、ある時ひょんなところであの子が元旦那といるところを見かけてね。立派に育ってた……それ以来、ストーカーよ」
希美「(つぶやく)ほんとにストーカーだったんだ……」
祥子「何?」
希美「いえ、なんでも」
祥子「あの子が結婚するというので、どういうお嬢さんか一回確かめてみたくなってしまってね」
希美「はい……」
祥子「一度だけのつもりだったんだけど。私、あなたのことが好きになったのね、きっと」
希美「え……」
祥子「気味悪がらせてごめんなさいね」
希美「いえ……」
祥子「もうあの子の前に現れないつもり……そんなこと言って何十年か後にまた会いたくなるかもしれないけれど、その時はその時ね」
希美「そんなこと言わないでください。きっと彼、会いたがりますよ」
祥子「もちろんそうしたいけど……いけないの。そんな資格はないの。それが、せめてもの私の償いなの」
希美「そんな……」
祥子「ありがとう。いつもコーヒー美味しかったわ。そしてカーチェイス楽しかったわ」
希美「お義母さん……」
祥子「嬉しいわ。そう言ってくれて」
希美「ちょっと、ちょっと待ってていただけますか?」
   オフィス。
希美「まーくん」
雅樹「おう、サンキュ。わざわざありがと」
希美「はい」
雅樹「早速社長にサインもらわなきゃ。ん? 誰のサイン?」
希美「うん……」
雅樹「三橋祥子……誰だよ」
希美「大人だったら誰でもいいんでしょ」
雅樹「そりゃそうだけど……せっかく社長に……ま、いいけど」
希美「結婚祝いだよ」
雅樹「え?」
希美「だからこれが結婚祝い」
雅樹「何の話……エッ! もしかしてあのおばさん?」
希美「正解」
雅樹「ウソだろ! つか何勝手にサインもらってんだよ」
希美「あの人、悪い人じゃなかったよ」
雅樹「……だろうな。そんな気がする」
希美「なんで?」
雅樹「だって字、きれいだもん」
希美「だね」
雅樹「また来るって?」
希美「うーん、どうかな。もう来ないかも」
雅樹「そっか」
希美「なんか家族みたいじゃない?」
雅樹「え?」
希美「あたしとまーくんと、まーくんのお父さんとこの祥子さん」
雅樹「ひとりだけ赤の他人が入ってるのはどうかなあ」
希美「あら、あたしだって元々は赤の他人だよ」
雅樹「そっか。おれ、母親いないし、ちょうどいいか」
希美「でしょ」
雅樹「うん」
希美「ご結婚おめでとうございます、だって」
雅樹「そう」
希美「よろしくお伝えくださいって言われた」
雅樹「社交辞令だろ」
希美「ううん。すごく気持ちこもってたよ。だからあたし伝えたかったんだよ」
雅樹「そっか。ありがと」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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*番組紹介*
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