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EBPを学習するときに学ぶべき68項目

こんにちは。
BRAINの針谷です。

今回は「EBPを学習するときに学ぶべき68項目」をテーマにお届けします。

近年、 “Evidence Based Practice(以下、EBP)” や “Evidence based Medicine” という言葉をよく聞かれるようになったのではないかと思います。

私は理学療法士なので理学療法の関連学会によく参加するのですが、ここ2年ほどは大きい学会では毎回と言っていいほど「エビデンス」「EBP」「EBPT」といった言葉を聞くようになりました。

一方、海外では20年以上前からEBPの重要性が認識されてきています。

例えば、研究調査によりアメリカでは2000年の時点で90%、またカナダでは2003年の時点で93%のの理学療法士が『EBPの重要性を認識している』と報告されています。

一方で、日本はどれくらいの理学療法士がEBPの重要性を認識しているかというと、2018年の時点で83%という報告がなされています。

単純に比較するのは考えものですが、データからは「日本のセラピストのEBPへの意識は20年前のアメリカやカナダに届いてない」とも捉えられます。

こういった「海外とのギャップ」を埋めるべく、理学療法士協会などの国内の主要団体は「EBP」を推進しようとしているのかもしれません。

ただ、現状、国内にEBPを学ぶための教科書がありません。

そのためEBPを学習しようとしても「何から勉強すればいいの?」という問題が生じます。

● 文献検索の方法を勉強する
● 統計学の本を読む
● 各リハビリ方法のエビデンスを教えてくれるセミナーに出る

…など、色々な勉強方法を試されている方もいらっしゃると思います。

実は、海外には「EBPを学ぶならこの項目を押さえましょう」という指針が存在しています。

これは2018年にAlbarqouni L氏が中心となって世界中のEBP専門家とともに共同研究を通して発表されたものです。

「EBPにおけるコア・コンピテンシー」とされており、68項目から成っています。

言い換えると、「コア・コンピテンシー68項目を学べば、世界的に求められているEBPの知識・スキルが身に付く」ということです。

これは私たちEBP学習者には心強い指針になります。

今回は、この68項目から3つの項目を紹介します。

EBPの4要素

EBPは

● 利用可能な最善のエビデンス
● 患者さんの価値観・嗜好
● 臨床家の経験
● 資源

の4要素から成り立ちます。

EBPは「エビデンスの押し付け」ではありません。

「エビデンスをもとに、患者さんの価値観や療法士の経験に基づき、置かれた環境の中で患者さんにとって最適な治療を行う」ものです。

例えば脳卒中患者さんの上肢リハビリではCI療法、課題指向型訓練、ミラーセラピー、電気刺激が主要な4大リハビリです。

これらは豊富にエビデンスがあり、有効性についてコンセンサスが得られています。

したがって、これらの4大リハビリの中からリハビリを選ぶことによって、患者さんがよくなる可能性が高いです。

しかし、これらが患者さんにとって好ましくない場合もあります。

例えば、筋トレが大好きな患者さんで「筋トレをしてほしい」というケースです。

脳卒中患者さんの上肢の筋トレについてはエビデンスの側面からは懐疑的な見方が強く、近年のエビデンスでは「発症3〜6ヶ月の抗重力位で全可動域動かせる人にしか有効といえない」とされています。

その上、筋力は向上してもそれがリーチ動作やグラスプ動作の獲得につながるかも不明確な状況で、4大リハビリを押しのけてまで筋トレをする理由が(エビデンスの側面からは)見当たらないのが現状です。

しかし、このようなエビデンス、筋トレのメリット・デメリットを理解された上でそれでも「筋トレがいい」と思うのであれば、それは患者さんの自由です。

このように、エビデンスの側面から見た「最善の治療」は4大リハビリですが、患者さんの価値観から見た「最善の治療」は筋トレ、ということもあり得ます。

セラピストは「エビデンスを押し付ける」のではなく、「エビデンスをもとに患者さんにとって最適な治療」を探していくのがEBPの大事なポイントです。

臨床疑問

私たちセラピストが臨床で感じる疑問のことを「臨床疑問」と言います。

臨床疑問は

● 脳卒中ってなに?
● 運動麻痺ってなに?
● 課題指向型訓練ってなに?

といった基本的な知識に関する疑問から、

● 脳卒中患者さんの運動麻痺に対して課題指向型訓練は有効なのか?
● 脳卒中患者さんの運動麻痺の評価バッテリーは何を使うべきか?

のような実践的な疑問までさまざまなものがあります。

臨床疑問は「後景疑問(Background Question)」と「前景疑問(Foreground Question)」の2つに大別されます。

EBPではこれらの疑問を解決するために文献検索を行なっていくわけですが、そもそも自分が解決したい疑問が「後景疑問なのか前景疑問なのか」を分けることが求められます。

なぜなら、後景疑問と前景疑問を解決するための情報の入手先が違うからです。

後景疑問を解決するためには後景疑問を解決するための情報収集方法が、前景疑問を解決するためには前景疑問を解決するための情報収集方法があります。

まず「自分が何を知りたいのか?」を明確にし、情報収集を進めていくことが必要です。

Shared Decision Making

近年、Shared Decision Making(SDM)という言葉をよく聞くようになっていませんか?

SDMはざっくり言うと「セラピストと患者さんが一緒にリハビリを決めていく」意思決定モデルです。

私たちセラピストはインフォームド・コンセントモデルを採用していることが多いですが、近年、SDMが新しい意思決定モデルとして注目されています。

SDMも、EBPにおけるコア・コンピテンシーの中に含まれています。

研究者の意見のひとつですが、「EBPはSDMによって完成された」とまで言われることがある大事な要素です。

SDMを通して、エビデンスを患者さんに説明し、患者さんの価値観を取り入れた上で「どのようなリハビリをしていくか」を決定します。

なお、近年ではGoal-Based SDMという新しい考え方も出てきています。

これは患者さんの目標に基づいてSDMを行なうということに重点を置いた考え方です。

Goal-Based SDMをすることにより、

● 4週間後に、自宅のダイニングテーブルで普段使っているお茶碗を麻痺手で持ち上げ、夕食をとる
● 3ヶ月後に、日中、自宅から最寄りの公園まで(200m)をひとりで歩いて移動することができるようになる
● 4週間後に、病室で昼食を食べる際、半固形物をむせずに飲み込むことができるようになる

…のような患者さんの価値観を反映した具体的な目標設定が行えます。

「麻痺手の運動機能改善」「歩行自立」などざっくりした目標設定から卒業することができます。

こちらの方が、患者さんも安心ですよね。

まとめ

今回は、EBPにおけるコア・コンピテンシーの一部を紹介しました。

下記の文献情報から本文にアクセスしていただくことが可能です(有料論文になりますのでご注意ください)。

全68項目を学び終えた時、自信を持って「EBPを行える!」と言える状態になっていると思います。

なお、脳卒中EBPプログラム第3期ではこれら68項目を全て詰め込んでおります。

※EBPベーシックコースに56項目、EBPアドバンスコース(脳卒中上肢リハビリコース、脳卒中歩行リハビリコース、脳卒中言語聴覚コース)に12項目です。

68項目の中には「ワークショップを行うべき」とされている項目がいくつかあります。

例えば、文献検索のスキルやSDMは知識だけ持っていても仕方がなく、実際に検索できなければ、あるいはSDMを行えなければ意味がありません。

これらの「スキル」が求められるものについてはワークショップを通して学習するよう定められています。

脳卒中EBPプログラムはこのコア・コンピテンシーに従い、コースの中でワークショップを実施するカリキュラムになっています。

6ヶ月の学習でEBPを身につけていただくことができますので、ご参加の検討をいただけますと幸いです!

<文献>

Albarqouni L, Hoffmann T, Straus S, Olsen NR, Young T, Ilic D, Shaneyfelt T, Haynes RB, Guyatt G, Glasziou P. Core Competencies in Evidence-Based Practice for Health Professionals: Consensus Statement Based on a Systematic Review and Delphi Survey. JAMA Netw Open. 2018 Jun 1;1(2):e180281.

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