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肩の亜脱臼に対するリハビリをやめるなら『発症から90日』が目安!

こんにちは。

BRAINの針谷です。

脳卒中EBPプログラム【脳卒中リハビリテーションコース】にて『肩の亜脱臼に対する電気刺激や肩装具はいつ止めるのが良いか?』というご質問をいただきました。

色々と考えたのですが、結論として『発症から90日がひとつの目安』としました。

本記事は、肩の亜脱臼に対するリハビリの中止基準を発症から90日と考えた理由について説明します。

脳卒中EBPプログラム第3期のご案内

本題に入る前にお知らせをさせてください。

2022年3月1日より、脳卒中EBPプログラムのエントリー受付が開始しております。

第3期は5コース編成になっており、EBPの基本や脳卒中リハビリテーションの基本を学べる構成です。

4月〜9月の6ヶ月、少々長い期間にはなりますが、6ヶ月後は自信を持ってEBPに臨んだり、脳卒中患者さんのリハビリに臨めるようになっているはずです!

よかったらホームページを覗いていただけますと嬉しいです。

肩の亜脱臼に対するリハビリをやめるなら『発症から90日』が目安!

それでは本題に入ります。

最初に本記事の結論です。

● 亜脱臼は “悪化” する症状である
● 『亜脱臼に対するリハを止めることで悪化させてしまうのではないか?』という懸念がある
● 介入研究の結果から『発症から90日』が中止基準のひとつになる

以下、詳しく説明します。

亜脱臼は “悪化” する症状である

前提として押さえておきたい2つの基本的な知識です。

ひとつは『亜脱臼に対するリハビリは脳卒中患者さんに対する中心的なリハビリではない』ということ。

もうひとつは『亜脱臼に対するリハビリをやめた結果、亜脱臼が悪化してしまう懸念がある』ということ。

亜脱臼に対するリハビリは脳卒中患者さんに対する中心的なリハビリではない

脳卒中患者さんは、発症後、運動障害やADL障害など様々な症状を呈します。

急性期や回復期のリハビリでは、主に患者さんのADL向上を目指してリハビリを行います。

そして、退院する頃には自立した生活を送れるように支援します。

この目的に向かってリハビリを進めていく上で課題になるのはADL障害や歩行障害、バランス障害、運動障害などです。

これらの障害が重度だと、ADLの自立度が低下しやすく、自立した生活を送ることが難しくなりがちです。

ですので、脳卒中患者さんに対する中心的なリハビリはADL障害や歩行障害、バランス障害や運動障害に対する介入になります。

一方、肩の亜脱臼はどうかというと、『亜脱臼があってもなくても日常生活の自立度にはそれほど影響がない』症状です。

亜脱臼があってもADLは自立できます。

したがって、肩の亜脱臼に対するリハビリの優先順位は下がります。

『亜脱臼に対するリハを止めることで悪化させてしまうのではないか?』という懸念がある

脳卒中後、運動障害やADL障害など多くの問題は改善していきます。

もし何らかの理由で中断しても、その後悪くなるということはほとんどありません。

一方、肩の亜脱臼は発症後に悪化します。

これは弛緩性麻痺により肩甲上腕関節のスタビライザーである三角巾や棘上筋が張力を保てなくなってしまい、重力に負けて上腕骨以遠が下方に落下するためです。

重力に曝される時間が長い=上腕骨以遠が下方に落下する時間が長い、なので、経過とともに亜脱臼は悪化していきます。

そのため、『亜脱臼に対するリハビリをやっているときは亜脱臼の悪化を食い止められたけど、リハビリをやめてしまうことで亜脱臼が悪化してしまった』ということが起こり得ます。

亜脱臼のリハビリの切り上げ判断が難しい

上記2つの理由から、亜脱臼に対するリハビリを切り上げる判断が難しくなっています。

つまり

● いつまでも亜脱臼に対するリハビリをやっているわけにはいかない
● しかし亜脱臼に対するリハビリを切り上げるタイミングが悪いと亜脱臼が悪化してしまう

…という2つの問題に挟まれながら最適な判断をしなければなりません。

どこかのタイミングで亜脱臼に対するリハビリを切り上げ、運動障害やADL障害へのリハビリや退院支援などに移行する必要があります。

亜脱臼が悪化しないタイミングで切り上げられればベスト!

ベストなタイミングはいつかというと『亜脱臼の悪化が止まったタイミング』です。

脳卒中後、ずっと弛緩性麻痺であり続けることは珍しく、多くの患者さんは痙性麻痺へ移行します。

棘上筋や三角筋など肩甲上腕関節の周囲筋の張力が上がることによって亜脱臼の悪化は起こらなくなります。

このタイミングで亜脱臼に対するリハビリをやめれば、『リハビリをやめたことによって亜脱臼が悪化した』ということを防ぐことができます。

では、このタイミングとは発症から何日ごろなのでしょうか?

ランダム化比較試験のコントロール群のデータから判断

図にまとめました。

ざっとお伝えすると、「発症90日以降は悪化しないが、90日未満は悪化する可能性がある」というデータです。

これらはランダム化比較試験のコントロール群のデータです。

Fil A (2011) は発症から2日〜12日の脳卒中患者さんの亜脱臼データを報告しました。

日本だと急性期病院に入院している頃です。

発症から2日では麻痺側肩の亜脱臼が1.62mmほどだったのが、12日では7.33mmほどに悪化しています。

Karaahmet OZ (2019) は発症から35日〜65日程度の脳卒中患者さんの亜脱臼データを報告しました。

日本だと回復期病院に転院する頃です。

発症から35日では麻痺側肩の亜脱臼が9.1mmほどだったのが、65日では14mmほどに悪化しています。

つまり、少なくとも発症65日ごろまでは亜脱臼が悪化することが報告されているということです。

Koyuncu E (2010) は発症から90日〜118日程度の脳卒中患者さんの亜脱臼データを報告しました。

日本だと回復期病院でリハビリを受けている頃です。

発症から90日で麻痺側肩の亜脱臼が10mmほどであり、118日でも10mmほどになっています。

つまり、悪化していません。

注意!
本記事ではなるべくわかりやすくするために詳細な説明を省いています。詳細を理解されたい方は原著論文をご確認ください。

これらのデータから、『発症90日未満であれば肩の亜脱臼は悪化する可能性があるが、90日以上では保たれる可能性がある』と言えます。

最適なエビデンスではないので注意!

注意点もあります。

紹介したのは複数の研究の組み合わせであり、一貫したデータではないという点です。

今回、私が見つけた文献に記載されているデータがたまたまこのような結果になっただけで、一貫して経過を追ってみるとまた違う結果になるかもしれません。

また、肩の亜脱臼に対するランダム化比較試験はバイアスリスクが高いものが多く、情報の信頼性に欠ける部分があります。

現状、信頼できるコホート研究がないため、このように複数のランダム化比較試験をつなぎ合わせてひとつのデータにしていますが、今後の研究次第では新しく公表されたエビデンスを参考にするよう切り替える必要があるかもしれません。

本記事の内容は『あくまでも参考のひとつ』ということでご理解いただけたらと思いますが、亜脱臼に対する電気刺激や肩装具の卒業基準として、「90日」はあってもいいかもしれません。

少しでも皆様のお役に立てましたら幸いです。

参考文献

Fil A, Armutlu K, Atay AO, Kerimoglu U, Elibol B. The effect of electrical stimulation in combination with Bobath techniques in the prevention of shoulder subluxation in acute stroke patients. Clin Rehabil. 2011 Jan;25(1):51-9.

Karaahmet OZ, Gurcay E, Unal ZK, Cankurtaran D, Cakci A. Effects of functional electrical stimulation-cycling on shoulder pain and subluxation in patients with acute-subacute stroke: a pilot study. Int J Rehabil Res. 2019 Mar;42(1):36-40.

Koyuncu E, Nakipoğlu-Yüzer GF, Doğan A, Ozgirgin N. The effectiveness of functional electrical stimulation for the treatment of shoulder subluxation and shoulder pain in hemiplegic patients: A randomized controlled trial. Disabil Rehabil. 2010;32(7):560-6.

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