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海を見に行く-県境を越えない旅

海に囲まれた千葉県の生まれながら、その海から最も遠い野田市で育ったこともあって、昔から海に対するあこがれは強かった。疲れた時には無性に海を見に行きたくなる。海風に吹かれながらぼーっと寄せては返す波を見る。それだけでいいのだ。それだけで、つまらないことは自然と流れて行ってくれる。

また、疲れてしまった。海を見に行きたい。どこへ行こうか。いろいろ考えたのだが、そういえば東京都には緊急事態宣言が出ていた。千葉県もまん延防止等重点措置が出ている。県境を越えた移動は慎むようにと知事が言っている。では仕方がない。一歩も千葉県を越えることなく、海を見に行ってみようではないか。そんなわけで、県境を越えずに海を見に行く、そんな、小さな旅に出てみた。

出発は船橋から

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自宅の最寄り駅である柏たなかから、流山おおたかの森、柏と乗り継いで、船橋まで出た。ここで土休日に走る臨時特急「新宿さざなみ1号」館山行に乗車する。空いてはいるが、それでも一車両に20人くらいは乗っていただろうか。だけど、これだけ乗客が乗っていないのでは、たぶん赤字だろう。取った席は進行方向右側。内房線に行くなら、断じて進行方向右側がいい。

千葉を過ぎ、木更津を過ぎ、君津を過ぎると東京からの快速も乗り入れないローカル区間に入る。昔は特急が1時間ヘッドで走った内房線だが、今は完全に東京湾アクアラインを抜けてくる高速バスや自家用車にやられてしまい平日の昼間はほとんど運転されなくなってしまった。しかし、それでも上総湊付近から随所で見える海の風景は、ロングシートの普通列車でなく、クロスシートの特急列車から見るのが素敵だ。

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ちょっと雲は多めだが、それでも晴天下の海の色は最高だ。汚いと言われる東京湾も、ここまで来れば実にきれいだ。窓枠に頬杖をついて、ぼーっと海を眺めながらの旅。あぁ、清々する。

富浦駅→原岡桟橋

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10時ちょうど、列車は終着・館山のひとつ手前の停車駅、富浦に到着した。降り立った乗客は私を入れて2人だけ。ほとんどの乗客は館山まで乗り通すらしい。

南国らしいパームツリーがでんとそびえる富浦の駅前。ひと気はほとんどない。ときどき車が行き交うだけで何とも静かだ。ここからは歩きとなる。駅前通りを進んで国道へ出て、そしてすぐに路地を曲がる。駅から歩くこと10分。到着したのは原岡桟橋だ。

原岡桟橋。一部木製の細い桟橋は、夕刻には富士山と街灯と夕暮れが織りなす幻想的な風景を撮ることができるインスタ映えスポット。富士山は見えなかったが、それでもまっすぐ伸びる桟橋、思いのほか美しい海。そして気持ちのよい海風。これでいい、これがいい。イヤホンからは笹川美和の物悲しい歌声が流れ、それがまたこの風景によく似合う。思い思いに置かれている椅子に腰かけながらぼけっと海を眺めた。

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15分くらいはそうしていただろうか。4~5名の団体さんがやってきたのをきっかけに原岡桟橋を後にした。

富浦⇒上総興津

元来た道をたどり、富浦駅で列車を待つ。駅のホームでは、列車を見に来たのだろう、親子連れがホームを散歩していた。いいなぁ、この風景。車両は写っていないけど、それでも立派な鉄道写真になった。

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次の列車は館山行の普通列車。平日だと安房鴨川を通り過ぎて一気に上総一ノ宮まで抜ける列車があるらしいが、多少お客さんが増える土日は館山まで長編成の列車が走っている。もともと京浜東北線を走っていた通称「走ルンです」だ。房総で最後の活躍を続けている。

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館山で乗り換えた列車は、この春から走り始めた最新型車両E131系だ。新型車両のにおいがして実にきれいだったが、土日に2両編成はきつい。途中から部活帰りの高校生も乗ってきて、車内は結構な混雑だ。

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この列車で、かつては運転系統が分かれていた安房鴨川も乗り通して、私が下車したのは上総興津駅。ここで、もう一箇所立寄りたい海岸があるのだ。

上総興津駅→守谷海岸

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上総興津に降り立った。昔ながらの木造駅舎だが、淡いブルーに塗られた屋根が海を感じさせる。

ここでやっとお昼を食べることにする。駅前にあった中華料理屋さん。どうも見覚えがあると思ったら、このお店、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」第16弾で太川さんたちご一行が朝方休憩した店だ。店内は結構にぎわっていた。昔から地元客に愛されてきた店なのだろう。

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この上総興津から目指すのは守谷海岸である。「日本の渚百選」に選ばれた美しい海岸。渡島には赤い鳥居があって、そこに波が打ち寄せるさまは迫力満点。惜しむらくは天気が持たずに雲が出てきてしまったこと。晴れていたら、きっとこの数倍は美しかっただろうけど、こればかりは仕方がない。何度か波しぶきが上がるタイミングを見計らってシャッターを切り、いい一枚が取れたところで上総興津駅へと戻った。

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旅の終わり

上総興津に歩き着く頃には天気はどん曇り。駅の自動券売機では自由席特急券しか買えなかったが、まぁ、今日の感じならきっと大丈夫だろう。30分くらい待ってやってきた特急わかしお号に乗って帰路に着いた。

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上総興津ではほとんど空席で、難なく窓側の席を取れたが、大原、上総一ノ宮、茂原、大網と進むにつれて多くの乗客が乗ってきた。高速道路が発達してバスも多い内房と比べて、高速道路が並行していない外房線は、それなりに特急の需要があるようだ。

そうそう、県境を越えない旅である。特急わかしおは蘇我から京葉線に入って、海浜幕張の次は終点東京だ。当然、都県境を跨いでしまうので海浜幕張で下車。南船橋で武蔵野線に乗り換えて、南流山経由で最寄りの柏たなかまで帰ってきた。

こうして旅は終わった。内房線と外房線を乗り継いで房総半島を一周しただけなのだが、車窓から見る海、原岡桟橋や守谷海岸での海と、存分に潮風を浴びた旅になった。それからは少しずつ体調も回復しつつある。また疲れてきたら海に行こう。その時には、もう少し移動をしても白い目で見られないような趨勢になっているといいな。

(掲載写真はすべて筆者撮影)

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