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どうなる中国地方のローカル線

鉄道業界の業績悪化が顕著です。長引くコロナの影響でテレワークが進み、出張需要も激減し、これまで都会の通勤電車や新幹線などの幹線輸送で赤字ローカル線を支えてきたビジネスモデルが崩壊しつつあります。そんな中、JR西日本が特に利用が低迷している芸備線の一部区間について廃止も含めた協議の申入れを行ったことがニュースになりました。

中国地方には瀬戸内海側の山陽本線と、日本海側の山陰本線を繋ぐ、いわゆる「陰陽連絡線」と呼ばれる路線がたくさんあります。そのうち、新幹線に接続する岡山から米子、松江方面を結び、特急やくもや寝台特急サンライズ出雲も走る伯備線は幹線ですが、それ以外は地方交通線と呼ばれるローカル線です。その陰陽連絡線に加えて、中国山地を横に走る姫新線や芸備線といった路線もあります。県庁所在地など主要都市の近辺や、特急列車が走る区間こそ多くの乗客が乗っていますが、それ以外のローカル線は山深く人口も少ない地域を細々と結び、極めて厳しい経営環境となっています。

これらの中国地方のローカル線、これまで何度か訪れたことがありますが、びっくりするほど山深いところを走っています。その割には中国自動車道や山陰を繋ぐ高速道路などがよく整備されてきており、中国地方の中心都市である広島との間には高速バスが頻繁に運転され、ローカル線に乗車する人はほとんどいません。高速道路などの整備が進んでいるのは、やはり中国地方に有力な自民党の政治家が多くいらっしゃるからでしょうか。そんな邪推すら感じさせるほど、ローカル線を取り巻く環境は厳しいものがあります。

今回は、2019年度の中国地方のローカル線輸送人員を紐解きながら、過去に訪れた同エリアの写真を少しご紹介したいと思います。

ワースト1:芸備線・東城-備後落合(輸送人員11人/日)

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ワースト1位は芸備線の最も山奥にある東城-備後落合間です。その輸送人員は11人。一日でわずかに3往復しか列車が走っていないこともあって、たったの11人しか使っていないという強烈な少なさとなっています。仕方がないです。何せ、本当に間に街がありませんから。

この区間を走る列車を撮ることも大変なのですが、山深い風景を撮るにはもってこいの場所です。掲載した写真は道後山-備後落合間にある第一小鳥原川橋りょう。ミニ餘部鉄橋ともいわれる高い鉄橋を渡って、列車は木次線やその先の三次方面へと向かう芸備線に接続します。

ワースト2:芸備線・備中神代-東城(輸送人員81人/日)

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ワースト2位は同じく芸備線の備中神代-東城間。陰陽連絡線唯一の幹線である伯備線の新見駅から備後落合方面へと進んだ区間ですが、このエリアは一日6往復の列車が走っています。かつての哲西町と呼ばれた町域で新見市への合併当時の人口は3000人程度。ずっと中国自動車道が並走していますし県境も跨ぐことで通学需要もほぼなく、鉄道で同区間を移動しようという人はほとんどいないのが実情です。

写真は野馳駅。1930年の開業当時の駅舎がまだ残ります。中国地方のローカル線にはこういった開業当時の木造駅舎が残る駅がたくさんあります。

ワースト3:福塩線・府中-塩町(輸送人員162人/日)

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ワースト3位は福塩線の府中-塩町間でした。福塩線とはその名の通り福山と、三次の手前にある塩町を結ぶ路線ですが、このうち山陽側の福山から府中までは、電化もされていて列車本数も多いのですが、それよりも山側へは非電化区間が続きます。6往復の列車が運転されていますが、朝8時台の列車を逃すと次の列車は6時間以上後の15時台までなく、ほぼ通学需要なんでしょうね。一般には少し利用しづらそうなダイヤです。

写真は備後矢野駅を出発した列車。朝から雨が降り続き、濡れそぼる山々やみどりの田んぼが美しかったです。車両は広島支社所属のキハ120系。紫色の帯の車両は芸備線の三次-備後落合間と共通運用のようです。

ワースト4:因美線・東津山-智頭(輸送人員179人/日)

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僅差のワースト4位は岡山県の津山から鳥取県境を越える因美線の東津山-智頭間。因幡国と美作国を結ぶ路線です。かつては陰陽連絡列車の急行砂丘号が走っていましたが現在は廃止。代わりに陰陽連絡は智頭急行が山陽本線の上郡から智頭まで開通して、特急スーパーはくとやスーパーいなばが鳥取との間を結んでいます。実際、この陰陽連絡特急が乗り入れる智頭-鳥取間は多くの通過人員でにぎわっています。

この区間、最後まで国鉄型気動車のキハ58が残っていた区間でもあり、一時期は多くのファンでにぎわったエリアでした。今はキハ120の岡山支社色の車両が走っていますが、写真の藁ぶき屋根の家の前を走る区間など、絶景は変わりません。そういえば、沿線の美作滝尾駅は渥美清さんの遺作「映画男はつらいよ寅次郎紅の花」が撮影された駅として、今でも同駅を訪れるファンが多くいます。それ以外にも随所に古くからの木造駅舎が残る路線でもあります。

ワースト5:木次線・備後落合-宍道(輸送人員190人/日)

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ワースト5は木次線です。備後落合から日本海側の宍道までを結びます。宍道駅は松江駅と出雲市駅の間にありますが、どちらに出るにも中途半端な場所で、それも利用低迷の要因かも知れません。全線で190人という通過人員ですが、木次や出雲横田までの区間列車があり、わずか3往復しか運転されない出雲横田-備後落合間の利用はもっと少ないでしょう。観光列車の目玉として導入されたトロッコ列車「奥出雲おろち号」も老朽化のため2023年度限りでの廃車が決まりました。

写真は最奥部の出雲坂根-三井野原間を走る奥出雲おろち号です。木次線の経営を一気に悪化せしめたおろちループ橋から撮ることができます。三段スイッチバックの出雲坂根駅周辺など、見どころは多いのですが、いかんせん運転本数も沿線人口も少なくて利用は厳しいですね。

ワースト6:芸備線・備後落合-三次(輸送人員215人/日)

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今回、JR西日本が存廃を含めた路線の在り方を申し入れたのは芸備線の備後庄原-新見間と言われています。その備後庄原-備後落合間が含まれるのがこのワースト6位の区間です。備後庄原折り返し列車もありますので、備後庄原-備後落合間の通過人員はもっと少ないと思われます。

このエリア、1970年代に未確認生物「ヒバゴン」で噂になったほどの非常に山深いエリアです。これをモチーフにした小説や映画「ヒナゴン」も制作されました。

写真は備後西城の街を駆け抜ける列車。ひなびた街並みを横切る列車の姿が心に残っています。このあたりは多くの鉄道写真家が訪れていますが、昔ながらの懐かしさを醸し出す西城の街、私も大好きです。

番外編:大糸線・南小谷-糸魚川(輸送人員102人/日)

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これまで、中国地方のローカル線を見てきましたが、JR西日本全体で見るとワースト3位は大糸線の非電化区間です。旧国鉄型気動車のキハ52が走っていたころは多くのカメラマンで賑わいました。今ではキハ120系が走っていますが、大糸線にはやはりキハ52が似合っていたと思います。

まとめ

JR西日本には他にもローカル区間がたくさんあります。ちなみに、芸備線の備後落合-三次の次に少ないのは山陰本線の益田-長門市間の271人、次いで姫新線の中国勝山-新見間の302人など、1000人を下回る区間は22区間にも及びます。

鉄道の存在意義は、心情面はともかくとして、大きく分けて3つあると思います。

まずは都市間輸送。都市から都市へ、あるいは郊外から都市へと向かう需要があり、中国地方の路線でも、陰陽連絡の機能を保っている伯備線や智頭急行・因美線智頭-鳥取間などはその典型でしょう。それ以外の路線も、かつては陰陽連絡の重要な路線だったのでしょうが、高速道路の開通や周辺道路の整備によってその役割は失われてしまいました。

次に地元、特に通学需要。都市間輸送の任を解かれてしまったローカル線はこの通学需要が命脈を保っています。それも県境区間では通学需要が減ってしまうため、うまくいきません。中国地方のローカル線でいえば芸備線の備中神代-東城間や因美線の東津山-智頭間がこれに該当するでしょうか。

そして、都市間輸送の需要もなく、通学需要も乏しいとなると、残されるのは観光需要です。木次線は奥出雲おろち号の運行を地元が補助することで観光客を呼び寄せようとしました。その目論見は概ね当たり、この列車目当てで多くの観光客が訪れていますが、車両の老朽化による引退や、昨今のように急速な旅行需要の減衰が起こると、頼みの綱の観光もうまくいかなくなってしまいます。

今回、芸備線を皮切りにJR西日本が示したローカル線の在り方。正直、都市間輸送も通学需要も観光需要も期待できない中国地方のローカル線の先行きはかなり暗いと言って過言ではないでしょう。大都市圏の黒字で赤字ローカル線を維持する内部補助のビジネスモデルが崩壊を迎えつつある今、必要なのは、ローカル線の維持を民間企業であるJRに任せきりにしてよいのか、欧州のように、公共財産として公費で運営費を負担するような考えを持つ必要はないのか、そのあたりの発想の転換かも知れません。

(掲載写真はすべて筆者撮影)

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