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『見えない目撃者』を目撃し見えたもの。

たまたまネトフリで見た邦画サスペンス『見えない目撃者』がけっこう面白かったんですが、これが韓国版のリメイクと知り、サイコスリラー好きとしては原初を辿りたい衝動に駆られました。

オリジナル版(11年 韓国『ブラインド』) 
リメイク版(15年 中国、19年 日本)
全3作を視聴し、比較しました。
というか中華版もあったのね…

結論から言うと、韓国版が抜けて良かった。
ついで、日本、中国という所感です。

この記事を開いた人はあらすじなどは説明する必要はないかと思うので割愛します。

※以下ネタバレ含むレビューを、各カテゴリーごと
猟奇サスペンス度 
主要キャラの魅力
物語全体の完成度
犬🐕(盲導犬)
の4つに分けて⭐️の数で簡易的に評価しました。制作、発表順に載せています。

では、しばいていきましょう。


『ブラインド』 (11年 韓国)

猟奇サスペンス度 ⭐️⭐️⭐️
主要キャラの魅力 ⭐️⭐️⭐️
物語全体の完成度 ⭐️⭐️⭐️
犬🐕 ⭐️⭐️⭐️

事故で盲目となった主人公の日々のままならなさや犯人の醸すヤバさ、サイコキラー感、それらを演じ切る俳優たちの力はさすがオリジナルといった印象。
坂を中心とした入り組んだ地形や、猥雑な路地の独特な景観が、暗い閉塞感を醸造し、歪んだ殺人者の精神を映しているようにも感じられる。韓国の風土・環境がいかに猟奇サスペンスに向いているかよくわかる。ストーリーは全作中もっともシンプルで夾雑物がなく、いわゆる見た目こってりのどごしすっきり系の映画となっている。

『見えない目撃者』(中国版 15年)

猟奇サスペンス度 ⭐️⭐️
主要キャラの魅力 ⭐️⭐️
物語全体の完成度 ⭐️⭐️
犬🐕 ⭐️⭐️⭐️

「車を拾うのは天国に行くより難しいの」
この印象的なセリフが際立っていた中国版。原版から新たに出会い系アプリこそ導入しているが、メインプロットはオリジナルに極力手を加えない構成。
美容整形外科が犯人で、整形に狂った姉との悲劇からサイコキラー化したまではいいが、その犯人が忍び込んだ主人公宅(実家)が犯人宅同様、異様な豪邸でケバい印象。なんと弟用の地下スタジオまで完備ときている。元警官とはいえ、主人公ヤン・ミーの謎の身体能力もやや浮いているし、ここらへんにとってつけた感が香った。ハンバーガーを欲しがる犬に対してのブラックジョークはまあまあ評価したいところだ。

『見えない目撃者』(日本版 19年)

猟奇サスペンス度 ⭐️⭐️
主要キャラの魅力 ⭐️⭐️
物語全体の完成度 ⭐️⭐️⭐️
犬🐕 ⭐️⭐️⭐️

日本版はオリジナルに謎解きの楽しさ(ホワイ&フーダニット)を加え、なぜこの連続殺人が行われているか、そして一連の事件を企てた犯人が誰かという点を増補している。
過去の儀式殺人〜それを目の前で目撃した青年が警官となり模倣した事件、という真相だが、オリジナルの世界観を損なわないよう配慮しつつ中華版ほど戯画的に見せない。前2作を見た後でも飽きさせないよう展開は工夫されている。

惜しまれるのは、序盤、放課後の教室で生徒が面談するシーン。ここで担任が、
「レールから外れるのが目に見えてる奴にいちいち構ってるヒマないんだよ」とか面と向かって吐き捨てる。こいつをまずとっ捕まえろよ。と
ここらへんで無理やり不条理アクセルをふかしてる印象を見る側に与えてしまっている。オリジナル版(11年)ですらiPhoneが流通してる時代だ。その後発作品に、この前時代的なクソ教師がいることは微妙だった。
しかし主演である吉岡里帆の正統派探偵的な立ち回りは光るものがあり、終盤戦のギミック(これは全作共通ではあるが)は盲目という絶望的なハンデを背負った者と五体満足の人間との立場が反転する演出がきっちりキマッていて楽しい。もしかしたら韓国版よりもこの日本版のほうを推す人もいるかもしれない。パートナー犬が惨殺されなかったのは時代背景の問題なので、ここらへんはノーサイドとしたい。換骨奪胎とは言い切れないものの、リメイクとして魅力的な仕上がりになっていることは確かだ。


かけ足の比較ではあるので、当然ここに例挙していない重要なポイントがいくつかあるとは思います。これから作品を見ようと思っている、あるいは見返したい人のサブテキストになれば幸いであり、自分もみたび見返しあーだこーだ言うかもしれません。(いきなり全作クソだな、とか言いだす可能性すらある)

繰り返しになりますが、韓国がなぜ猟奇サスペンスを専売特許としているのか、そして日本がどうして後塵を拝しているのか考えさせられる検証となった。この視点を補強するために、過去の韓国映画をおさらいしながら似たようなテーマ性で記事を書くかもしれません。盲人の主人公のように、昼も夜もない• • • • • •人間にとってはコンテンツ消費はいつだって人生の羅針盤なのだ。


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