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されどお前には継がせない

少しくらいは俺の話をしてくれてもいいのに、三人ともバカだから鞄の中身しか気にしてない。
困った。鞄のカネ、ここの路地裏のドブから湧いて出たんじゃないんだよ。俺が銀行襲ってバッチリ揃えた十七億だ。ダッフルバッグに詰めるまで、結構大変だったのに。

「絶対私のモンだから! ビタ1円切るもんか!」
女は銃を向けている。俺ではない男へ向かって。

「るせえ! 俺は約束したんだよ。中まで通して対価に貰うと」
彼のもつ銃は、女と違って新南部。

あともう一人、小僧がいる。
「死人の金だろ。僕に継ぐ権利がある」
「ヒュドラの使徒の息子だっけ? 噂よりもケチなのね」

小僧が口をモゴモゴさせている間、新南部が下衆に笑う。
「なあなあなあ、姉ちゃんはオレのムスコの世話して、月に1万円づつだ。坊やはママの乳でもしゃぶってろ」
「断るわ」「釣れねえ」

女は男に、男は小僧に、小僧は女に。銃口から線を描けば、奇麗な三角形ができている。つまり話す気はきっとあるんだろう。問題は全員嘘つきって事だ。

「銃を下ろせ」
「嫌だ」
「僕は何人も殺してきた。撃ち合いになれば僕が勝つ」
「俺は何人もクズを見た。言う事は同じさ」
爆発の手前で、すかさず女が口を挟んだ。
「ちょっと待って。私以外、カレが死んだのを見てない訳?」
「いいや俺は知っとるぞ。ここまで二本の足で来て、鞄を運ぶ姿をな」
小僧は首を傾げる。
「……ホントかな?」
「なんや、じゃあ坊やはここで何があったか知っとんのか?」
自信満々に頷く小僧。
「待って待って。一番最初にここにいたのは私よ。私が一番詳しいわ」
「いいや僕だ。僕が見ていたし話も聞いた」

俺だけが真実を知っている。
もう一度言うがコイツらが俺の強盗団じゃないってことも、この金の分け前をどうするべきか、も。

だが俺は死んでるし、嘘つき共には直接言えない。

カネの行方も気になるが、俺がどうして殺されたのか。覚えちゃいない。
まだ、彼らの騙りを聞く必要があるらしい。

【続く】

コインいっこいれる