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あの日、あの街で、彼女は。〜御徒町駅〜

終日、御徒町デー。直行直帰バンザイ。

初見で「オカチマチ」とは読めないよね。御徒町駅北口改札を出ると、お祭りの屋台にありそうな甘い匂いがふんわり漂う。あっ、パンダのやつ!とパンダ型の焼き菓子店の前を通りすぎる。おそらくベビーカステラだ。

一時期、担当のお客さんが御徒町駅に集中していて、山手線で両隣の上野駅や秋葉原駅も含めると、担当社数の1/3くらいを占めていた。移動時間の節約のために、月に1.2回ほど「御徒町デー」を作る。お客さんと日程調整をしながら、理想通りのスケジュールが作れたときの快感は、テトリスのパーツが上手くはまる感覚と似ている。

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10:00〜訪問1社目
カフェ
14:00〜訪問2社目
カフェ
17:00〜訪問3社目
カフェ
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直行や直帰のときは、組織メールアドレス宛に報告する必要があった。件名の【直行連絡 10時 株式会社〇〇 御徒町駅】を見た同期から、「また御徒町かよ」って笑われるほど。2年間くらいは御徒町駅に通っていた。

そのせいもあって、駅周辺のチェーン店カフェはほとんど制覇した気がする。北口を出て右手、りそな銀行の隣にあったタリーズ。道路を挟んで、タリーズの向かいにあったスタバ。コンセントとパスタに救われていたカフェ・ド・クリエ。南口側にあるサンマルク。

3社の訪問と1社の飛び込みを終えて、カフェ・ド・クリエでパスタを食べる。ボロネーゼが好き。セットでアイスカフェラテを頼む。

カフェ・ド・クリエは20時で閉まっちゃうのに、仕事が終わらない。3連休前の金曜日。クリスマス直前の週末。 23時まで開いてる南口のサンマルクに、くたびれた足取りで向かう。

ー22:10
パソコン画面、iPhoneの時刻、アイスカフェラテをひとつの画角に収め、白黒に加工して、右下に小さめの文字を書いて、インスタのストーリーに載せる。

「連休前の華金だっていうのに、顧客対応とキントーンに苦しめられてる、、、直行直帰なのに早く帰れなくて、この時間に御徒町のカフェにいるのほんと謎すぎる、無理、、、」

ー23:05
帰り際、街灯に照らされたパンダの写真を撮って、「御徒町駅」の位置情報だけ載せる。

下から懐中電灯を当てたようなパンダ

2年間ほど通っていたのに、パンダの存在を知ったのはこの日が初めてだった。アイスカフェラテじゃなくて、ハイボールのはしごがしたかった。

甘い匂いで誘惑してくるパンダ、イルミネーションを背に表情が分からないパンダ、記憶は白黒ではない彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


*プロローグ

*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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