見出し画像

ウズベキスタン代表、ワールドカップアジア2次予選に臨む(完結)

はじめに

 現在、2022ワールドカップカタール大会のアジア2次予選が各地で行われている。本来2020年6月に予定されていたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて丸ごと1年延期。
 ウズベキスタン代表は3試合を残し、3勝2敗の勝ち点9。首位サウジアラビアと勝ち点差5で現在予選D組の2位。首位通過の座を5ヶ国で争っている。なお開催地も当初のホーム&アウェーから、リヤドでのセントラル方式に変更になった。

 試合スケジュールは以下の通り。
 6月7日 対シンガポール
 6月11日 対イエメン
 6月15日 対サウジアラビア

  ウズベキスタンは3連勝すれば突破はほぼ確定。最終節のサウジアラビアは強敵だが、そこに至る2試合に連敗でもしない限りはもつれることはなさそうだ。なお、サウジアラビアに勝てば首位通過も可能で、首位通過チームには2023年のアジアカップ出場権が与えられる。2次予選を軽んじるつもりはないが、ウズベキスタンにとって最大の鬼門はこの次の3次予選。近年は激戦の末、あとわずかのところで力及ばず敗退を繰り返している。真の戦いはこの次に控えているので、サクッと突破したいところ。

ウズベキスタン代表メンバー

 ウズベキスタン代表メンバーは以下の通り。どんな選手か知りたい方は、筆者が以前書いた紹介記事を参考にどうぞ。

GK:アブドゥヴォヒド・ネーマトフ(ナサフ)
GK:ヴァリジョン・ラヒモフ(AGMK)
GK:サンジャル・クッヴァトフ(パフタコル)
DF:イスロム・トゥフタフジャエフ(キジルクム)
DF:イスロム・コビロフ(ロコモティフ)
DF:フスヌッディン・アルクロフ(ナサフ)
DF:ルスタム・アシュルマトフ(江南FC=韓国)
DF:オレグ・ゾテーエフ(全南ドラゴンズ=韓国)
DF:イブロヒムハリル・ユルドシェフ(パフタコル)
DF:ホジアクバル・アリジョノフ(パフタコル)
DF:サンジャル・コディルクロフ(ロコモティフ)
DF:ウマル・エシュムロドフ(ナサフ)
MF:オディル・アフメドフ(滄州雄獅=中国)
MF:オタベク・シュクロフ(シャールジャ=UAE)
MF:オディル・ハムロベコフ(シャバーブ・アル・アハリ=UAE)
MF:アブロル・イスモイロフ(パフタコル)
MF:イクロム・アリボエフ(大田ハナシチズン=韓国)
MF:ジャロリッディン・マシャリポフ(シャバーブ・アル・アハリ=UAE)
MF:ホジマト・エルキノフ(パフタコル)→離脱
MF:オイベク・ボゾロフ(ナサフ)
MF:ドストン・ハムダモフ(ハッタ=UAE)
MF:ヴァギズ・ガリウーリン(ネフテヒミク=ロシア)
MF:サンジャル・ショアフメドフ(AGMK)
FW:エルドル・ショムロドフ(ジェノア=イタリア)
FW:テムルフジャ・アブドゥホリコフ(ロコモティフ)
FW:イーゴリ・セルゲーエフ(アクトベ=カザフスタン)
FW:ファッルフ・イクロモフ(ブニョドコル)
FW:ショフルズ・ノルホノフ(ソグディアナ)

 当初発表されたメンバーから、国内の合宿を経て上記の28人に絞られた。
 GKは不動の守護神スユノフがコンディション不良で開幕から全休しており、昨年大きく成長したネーマトフは開幕直後も不安定なプレーを見せしばしばスタメン落ちするなど状態は万全ではないようだ。一方AGMKのラヒモフもパフタコルでスユノフの代役を務めるクッヴァトフもかなり好調なので、誰がゴールマウスに立つかは始まってみないとわからない。
 特定チームに負担をかけすぎない配慮(パフタコルからの申し出かもしれないが)でサイフィエフを外し、ホルムハメドフが負傷離脱したことで右サイドバックが質・量ともにダウンしたのは痛い。一応アルクロフとコディルクロフがプレー可能だが、前者はセンターバック、後者は小柄な攻撃的MFでパフォーマンスは未知数。
 アフメドフは所属チームで負った怪我明けだがフィットネスは問題ないと判断され招集。そのまま本メンバーにも入ってきたことから、もしかしたら本格的に起用するつもりかもしれない。この国の「伝統」だが攻撃的MFの選手層が異様に厚く、大怪我で戦線を離れているガニエフの不在を感じさせないほど。
 リーグ戦の記事で紹介したノルホノフが久しぶりに代表に選ばれた。総合力で頭一つ抜けたショムロドフとゴールハンタータイプのセルゲーエフとノルホノフ、飛び抜けた能力はないがバランスの良いアブドゥホリコフとタイプの異なる選手が揃い、駒の選択肢が増えた。フォワード陣は過去に例を見ないほど強力で、おなじみのサイドから手数をかけずに突撃する攻撃がうまくハマれば、強豪国を喰らうことも十分可能だ。
 昨年までセンターバックの柱だったクリメーツが所属チームで絶不調のため選外。守りの面でやや不安があるメンバーだが、これまでの中心選手をベースに、今が旬の選手や若手選手をバランスよく組み込んだメンバーという印象だ。アブラモフ監督のなかなかナイスな人選。

 ボゾロフのみ次節のシンガポール戦とその次のイエメン戦は出場不可(2019年のU-23 AFC選手権準決勝でのレッドカードによる3試合の出場停止処分のため)。ブニョドコルの21歳イクロモフが初招集。技術とクイックネスに優れ、全てのプレーを左足で行うウィンガー。

 代表はタシケントでトルクメニスタンと練習試合を行った後、5月27日にセルゲーエフ(カザフスタン国内リーグの日程の都合で31日に合流)以外がドバイに移動し練習。タイ代表との30分x3の練習試合を行い、6月1日にサウジアラビア入り。コンディションを整えつつ、現地の気候にも身体を慣らした。

-----------------------------------------------------------------------------

シンガポール戦(2021年6月7日)

 会心の勝利!

 戦いの火蓋はシンガポールとの一戦で切って落とされた。
 UTC+3の現地時間21時キックオフ(日本時間午前3時)という視聴者にとって超過酷な条件下で始まった一戦。長らく代表の「真剣勝負」がなかったことでメンバーは予測しづらかったが、センターバックにはエシュムロドフとコビロフ、懸案の右サイドバックにはアルクロフが入った。病み上がりのアフメドフもスタメン出場だった。

 試合はというと半分寝ている筆者の目をきれいに醒ましてくれるような展開。序盤から得意のハイプレスをガンガンかけシンガポールを圧倒。浮足立ったところを次々と選手が前線に飛び出していきゴールを脅かす。
 すると6分に早々と先制点。中央からアリボエフが放った芸術的な浮き球スルーパスに抜け出したマシャリポフがボレーシュート。これがニアサイドを破りゴールイン。幸先のいいスタートを切った。
 以降もシンガポールを攻め立てるウズベキスタンだったが追加点は取れず。いつもの「序盤優位に進めながら追加点が取れないうちに守りの綻びを突かれ失点、そのまま負け」が頭をよぎったが、シンガポールも反撃の糸口をつかめない。前半途中にセンターバックを代える対策までしたがフィジカル面で後手を踏み、攻守両面でウズベキスタンについていけず。そうしているうちに2点目が入る。敵陣深くからのフリーキックでアフメドフのロングパスに抜け出したショムロドフがシュート。これはGKのマフブード(この名前に聞き覚えのあるファンもいるかもしれない)が防いだが、こぼれ球を拾ったマシャリポフがエリア内左から打ったミドルシュートがまたしてもマフブードのニアサイドを抜き34分に追加点。
 前半終了直前の45分に3-0となり、実質勝負あり。敵陣が崩れたところからエリア内でハムダモフがクロスを上げるとフリーで待っていたショムロドフへ。胸でボールを受け、迫ってきた相手をいなすと技アリのボレーシュートを決めた。

画像2

 後半になってもウズベキスタンは攻め手を緩めずに攻勢をかけ続ける。50分にはエルキノフが起点となりカウンターを発動。シュクロフが60メートル近く駆け上がり、最後はアフメドフが強烈なパンチをゴールに突き刺した。その後はやや中だるみしたり選手交代などで停滞したが、試合終了間際にオウンゴールで5-0。終始シンガポールを圧倒して勝利を収めた。
 これでウズベキスタンは6試合を終えて勝ち点14。2次予選通過に望みを繋いだ。

(6月12日追記:当初「2次予選通過を決めた」と書いていましたが、まだ全然決まってませんでした。詳しくは下に書きますが、逆フラグを立ててしまったような気がします。goran様、コメント欄でのご指摘ありがとうございます。)

 殊勲はやはりマシャリポフ。格下相手にはいつも敵なしのプレーをするのだが、この試合でもほぼ全ての突破に成功。コンビネーションプレーから2得点を挙げ、文句なしの活躍。
 ショムロドフも抜群の存在感。得点は1つのみだが、何度も相手DF陣を突破した。2点目の起点となった抜け出しのシーンでは見事なボールタッチを見せ、またスルーパスを放つなどセリエAでのプレーで器用さも増している。もうひとり目立ったのはアリボエフ。今季から韓国2部に戦いの場を移しているが、高いパス精度と労を惜しまぬ献身的な動きで存在感を発揮した。中盤が3人の布陣では各選手に求められるものが多く、ピーキーな選手は使いづらい。攻守両面でバランスの取れた能力を持つ彼は重要なピースとなるだろう。
 アフメドフも1点取り、5点目のオウンゴールのきっかけを作ったり高精度のパスを散らしたり目立ったが、病み上がりで動きが悪いのか衰えなのかわからないが、以前と比べ驚くほど運動量が減っていた。シュクロフやアリボエフ、後半入ったハムロベコフの動きで問題なくカバーできていたが、これからはこういうスタイルでいくのだろうか。

画像2

 手放しで喜べる試合内容だったが、怪我人が出たのは残念なところ。人員不足の右サイドバックに入ったアルクロフは想像以上にいいプレー。元がセンターバックなので守備よりのパフォーマンスだったが無難な動きで、センターバックにしては速いスピードがここで活きた。しかし膝を痛めアリジョノフに交代。試合後アブラモフ監督は怪我の程度は軽いとしたが、サイフィエフは選外、ホルムハメドフは負傷で早期離脱でただでさえ層が薄い中、いよいよ本職・バックアッパー関係なくアリジョノフしか人員がいなくなってしまった。彼にかかる普段はかなり大きくなりそうた。
 後半頭から出てきたエルキノフもアルクロフと同じような状況で膝を負傷。こちらはチームスタッフの助けを借りないと歩けない状態で、9日に代表チームから離脱しタシケントに戻った。怪我の状態はかなり深刻かもしれない。最後まで試合に出続けたが、コビロフとアフメドフも試合中に軽く傷んでいる。サウジアラビアの高温でカラカラに乾き切った気候は選手を消耗させ、普段より短い球足と硬い地面は選手の感覚の微妙なズレに繋がる。次節以降も負傷者が出ないか心配である。
 なお、シュクロフが累積警告で次節のイエメン戦は出場停止となる。

ウズベキスタン5 - 0シンガポール
6月7日 キング・ファハド・スタジアム(リヤド)
マシャリポフ(6')
マシャリポフ(34')
ショムロドフ(45')
アフメドフ(50')
オウンゴール(89')
ウズベキスタン:クッヴァトフ、アルクロフ(45'アリジョノフ)、コビロフ、エシュムロドフ、ゾテーエフ、シュクロフ(55'ハムロベコフ)、アリボエフ、アフメドフ、ハムダモフ(45'エルキノフ(61'アブドゥホリコフ))、マシャリポフ(55'イクロモフ)、ショムロドフ
警告:シュクロフ(12')、ハムロベコフ(59')、コビロフ(90')

-----------------------------------------------------------------------------

イエメン戦(2021年6月11日)

 勝ったには勝ったが……

 前節の快勝の勢いそのままに、イエメンも撃破して予選突破に向けて勢いに乗りたいウズベキスタン。なるだけ多く得点して勝つことがミッションだったが、蓋を開けてみれば何ともしょっぱい試合となった。
 エルキノフとアルクロフを負傷で、シュクロフを累積警告で欠いたウズベキスタン。右サイドバックはアリジョノフ、左サイドバックはユルドシェフ。シュクロフの位置にはハムロベコフが入り、右ウイングにはコディルクロフが先発出場した。それ以外は前節と同じラインナップ。

 試合開始から主導権を握ったのはイエメン。組織的な守りで相手を最終ラインかサイドに追いやり、ボールを奪えばカウンターを繰り出し少ない手数でワンチャンスを狙う、いかにも中東のチームらしい戦い方。よくオーガナイズされたプレスで相手を中盤で封じ込め、鋭い出足と気候慣れしているからか球際のファイトに次々勝利。ウズベキスタンはいわば最終ラインやタッチライン際で「持たされている」状態に。
 この日の主審ムハンマド氏は比較的コンタクトを緩めに判定するタイプで、ファールを「もらって」流れを引き寄せることが多いウズベキスタンの選手と相性が悪かったのもアンラッキー。

画像4

 それでも先制点はウズベキスタン。18分に僅かな隙を突いたユルドシェフがアフメドフとのパス交換でペナルティエリアに侵入。倒されてPKを獲得した。これをマシャリポフが冷静にゴール左に流し込んで0-1。
 これで試合展開は変わるかと思われたが、イエメンは大崩れしなかった。我々がよく言う「流れ」は、アラブの民には存在しないのだろうか。ビハインドでも変わらない中東特有の飄々とした戦いぶりで主導権をウズベキスタンに渡さない。ウズベキスタンはその後もゴール前で危ないシーンをいくつか作られるが、GKクッヴァトフのセーブやCBコビロフの鋭い出足で何とか難を逃れる。40分頃からウズベキスタンもやや攻勢に出るが、しっかりブロックを組んで守るイエメンの牙城を崩すことができず、特に何もできないまま前半終了。

 後半も開始後しばらくは両者四つ相撲だったが、65分頃からイエメンに疲労が見え始める。なお、これもまた「中東あるある」なのだが、強固な組織的ディフェンスの代償として足をつる選手がよく出る。この試合でも最終的に5〜6人の選手が地面に倒れ込み、チームメイトの助けを受けていた。ウズベキスタンはイエメンの陣形が綻んだのを見て得意の高速サイドアタックを仕掛けるものの、イエメンも最終局面で必死のディフェンス。ウズベキスタンの拙攻も相俟って、ゴール前までは進めるが最後の崩しがうまくいかずにネットが遠い展開に。
 それでも82分に途中出場のガリウーリンがエリア右端で倒され今日2つめのPK獲得。しかしアフメドフが放ったシュートはイエメンGKムハンマド・アーマーン・ハイルッラーが横っ飛びでセーブ。これ以降明らかにウズベキスタン選手に焦りが生まれ、陣形がボロボロのイエメンを攻めあぐねる間延びしきったウズベキスタンというよくわからない構図に。バイタルエリアを支配したまま、結局試合はそのまま0-1で終了。勝ちはしたが、よくある「中東の格下チームに一杯食わされた」試合となった。

画像4

 負傷者はいなかったのでその点は良かったが、イエメン自体地力のあるチームではないしウズベキスタンがお粗末だっため試合自体はあまり面白くなかった。期待の攻撃陣も不発で、ショムロドフは相手選手4人に囲まれる場面があるなと徹底マーク。スペースを消され、持ち味の豪快な突破は封じられた。終盤にはフラストレーションから無用な警告も受けてしまった。
 3枚と少ない分、仕事量で相手を凌駕し、かつ主導権を握るには各員の距離感が大事な中盤でも、アフメドフの運動量がシンガポール戦に引き続き皆無。攻撃に時折顔を見せ、「崩しの一個前」のプレーではいいところを見せたが、それ以外ではほとんど動かず、相手ボール時にはプレスどころか歩く始末。彼の身体に何があったかはわからないが、アリボエフとハムロベコフが守備に追われトランジション不全の原因を作ったように見える。攻守に「効く」シュクロフを出場停止で欠いたのも痛かった。
 いい動きをしていたのはCBのコビロフ。元からしなやかな身のこなしと読みでボール奪取するクレバーだが迫力に欠けるタイプだったが、この日はハードなバトルに挑み、度々危機を防いだ。ここ2年ほどでかなりたくましくなってきており、代表守備陣の中心に成長しつつある。代役GKクッヴァトフも劣勢の割に見せ場は少なかったものの、安定していた。
 後述するが、勝ってもなお3次予選進出は全く確約されておらず、むしろやや厳し目の状況で最終サウジアラビア戦を迎える。

イエメン0 - 1ウズベキスタン
6月11日 キング・ファハド・スタジアム(リヤド)
マシャリポフ PK(18')
ウズベキスタン:クッヴァトフ、アリジョノフ、コビロフ、エシュムロドフ(46'アシュルマトフ)、ユルドシェフ(90'ゾテーエフ)、ハムロベコフ、アリボエフ(62'イスモイロフ)、アフメドフ、コディルクロフ(75'ガリウーリン)、マシャリポフ、ショムロドフ(90'セルゲーエフ)
警告:アリボエフ(45')、ショムロドフ(77')

-----------------------------------------------------------------------------

画像5

2次予選突破に向けて


 コメントで指摘をいただいたが、まだウズベキスタンは2次予選を突破していないどころか、結構危ない位置にいる。まずは全8組の1位の8チームが無条件で突破、そして各組2位チームのうち成績上位5チームが突破(ワールドカップ開催国カタールがE組首位通過を決めたため、5位チームが繰り上げ。今予選が2023年のアジアカップ予選も兼ねているため、カタールも参加している)。なお各組2位チームの成績は、H組の北朝鮮が参加辞退した影響で最下位チームとの対戦成績は除外される。
 現在突破を決めている(グループ首位を確定させている)のはシリア、日本、韓国、オーストラリアの4チーム。最終戦を前に、ウズベキスタンは最終節にサウジアラビアとD組首位を賭けて直接対決。ここで勝てば文句なしの突破だが、仮に敗れた場合は2位成績上位チームでの勝ち抜けに望みを託すことになる。
 しかし、ウズベキスタンはグループ最下位のイエメンからは取りこぼしなく勝ち点を拾っている反面、現在3位のパレスチナに敗れている。先述の2位チームの成績比較に最下位チームとの対戦成績を考慮しないため、覆水盆に返らずとはいえウズベキスタンにとって痛い敗戦となった。実際、そのせいで勝ち点が伸びず、現時点での他組2位チームは以下の通り。

各組の2位チーム(成績上位順)
❶E組オマーン(6試合、勝ち点12)
❷A組中国(5試合、勝ち点10、得失点差+11)
❸H組レバノン(6試合、勝ち点10、得失点差+3)
❹D組ウズベキスタン(5試合、勝ち点9、得失点差+6)
❺G組UAE(5試合、勝ち点9、得失点差+5)


 前述の通り、2位で突破できるのは成績上位の5チーム。オマーンとレバノンは1試合消化が多いとはいえ、現在ウズベキスタンは突破できるかどうかギリギリの位置にいるのである。
 そして残る試合は最終節のサウジアラビア戦。1位突破か2位突破かという悠長な感じではなく、他組の結果という不確定要素もあるが生きるか死ぬかのデスマッチの様相だ。相手は「勝ちゃいいだけだがや」とは気軽に言えない格上の強敵、そして試合開催地はリヤド、つまりサウジアラビアのホームである。なお、サウジアラビアとは過去11回対戦し、ウズベキスタンの4勝1分6敗(15得点24失点)。最後に勝ったのは2015年アジアカップのグループステージ(3-1で勝利)で、ワールドカップ予選に限っていえば2008年以降勝利がない。決して相性のいい相手ではない。
 厳しい戦いになりそうだが、まさに「絶対に負けられない戦い」。15日に向けて今からドキドキ、もといヒヤヒヤしてきた筆者であった。

-----------------------------------------------------------------------------

サウジアラビア戦(2021年6月15日)

 決戦を前に、最終節でウズベキスタンがどうなるかを整理しておこう。
 まずはサウジアラビアに勝利した場合。これは非常に単純明快で、D組1位が確定し自力で突破。
 それでは、サウジアラビアに引き分けた場合はどうだろう。ウズベキスタンは勝ち点16で2次予選を2位で終了。「2位チームの順位」では、最下位イエメンから挙げた勝ち点6が除外され「勝ち点10、得失点差+6」となり、突破は他組2位チームの勝敗に左右される(以下の欄での勝ち点、得失点差は「2位チームの順位表」での数字)。

Ⓐ中国:対戦相手はシリア。現在勝ち点10、得失点差+10の中国は、シリアに6または7点差で敗れない限り、ウズベキスタンより下の順位にはならない。
Ⓑヨルダン:対戦相手はオーストラリア。勝ち点8のヨルダンがウズベキスタンの上に行くには、彼らに勝利するしかない。
Ⓒイラン:最終節にイラクとグループ1位を賭けて直接対決。イランが勝利した場合、2位はイラクとなり、勝ち点11となりウズベキスタンより上の順位で終わる。イラクが勝利または引き分けの場合はそのままイランが2位となり、勝ち点は最大10、得失点差は最大で+5となり、ウズベキスタンより下の順位となる。
Ⓓウズベキスタン
Ⓔオマーン:対戦相手は最下位のバングラデシュのため、最終節の試合結果は無関係。勝ち点は12なので、ウズベキスタンはどう頑張っても彼らより上の順位で終わることはできない。
Ⓕキルギス:対戦相手は日本。何かの間違いで日本に勝利したとしても、最下位ミャンマーから勝ち点を稼いでいるため勝ち点は7止まり。キルギスが日本に敗れ、勝ち点で並ぶ3位タジキスタンがミャンマーに引き分け以上で終われば、タジキスタンが2位に入れ替わる。しかしミャンマーは最下位チームなため2位チーム同士の成績比較対象ではなく、勝ち点10、得失点差-1。この組はどう転がってもウズベキスタンを上回ることができない。
ⒼUAE:対戦相手はベトナム。勝利すればUAEがグループ1位。ベトナムは勝ち点11となり、ウズベキスタンよりも上で終わる。UAEが勝てない(引き分けまたは敗戦)場合、最大で勝ち点10、得失点差+5となり、ウズベキスタンを上回ることができない。
Ⓗレバノン:一足先に最終戦を戦い、韓国に敗北。勝ち点10、得失点差-3。ウズベキスタンよりも下の位置で全日程を終了する。

 まとめると、ウズベキスタンは引き分けの場合でも「ヨルダンがオーストラリアに勝利できず」「イランがイラクに勝利できず」「UAEがベトナムに勝利できず」のどれか1つでも実現した場合、2位チームでの突破が決定する。

 そして、あまり考えたくはないが、サウジアラビアに敗れた場合。「2位チームの順位」は勝ち点9、得失点差は最大で+5になる。こうなると「UAEが引き分け以上」「イランが引き分け以上」「ヨルダンが勝ち」「F組3位のタジキスタンが2位浮上」の条件の2つが実現した時点で予選敗退が決まる。一応、UAE、イラン、ヨルダン、タジキスタンが全て敗れれば、2位チームの順位表に変動なくウズベキスタンは突破可能。いずれにせよ、サウジアラビアに勝てない場合は他力本願となる。さて、結末はいかに。

感動のフィナーレ

 例のごとく日本時間16日午前3時キックオフ。今のウズベキスタンは正面から組み合ったらわからない。五分五分だが何とかなると(勝手に)意気込みつつ睡魔に抗う筆者の目に飛び込んできたのは、驚きのスターティングイレブンだった。
 システムは従来どおりトップ下を置く4-5-1だが、アフメドフが2011年のアジアカップ以来のセンターバック※、左ウイングにサイドバックが本職のゾテーエフ、トップ下にこれまで左ウイングを務めてきたマシャリポフ、ガリーウリンを2012年以来のスタメン起用。事前の情報は一切なく、今まで見たことのない人選だ。眠気は一瞬で吹き飛び、この「メッセージ」の意味について考えた。(※その後の調べで、アフメドフのセンターバック起用は、2011年アジアカップ以降も2011年、2013年のブラジルワールドカップアジア予選、2016年のロシアワールドカップ3次予選、2019年の強化試合であったことが判明)
 ゾテーエフを一列前で起用したのは「個でダメなら2人で守る」目的か。左サイドバックのユルドシェフの守備難を少しでも補い、または前線からの守備を厚くする狙いがあるのかもしれない。CBは、イエメン戦でバタついたエシュムロドフはさておき、コビロフに代えてまでアフメドフを使う意味は分かりかねる。しかし無理やり考えれば攻撃の起点として彼の配球力を買ったか。マシャリポフを中央に置いたのも、ショムロドフ、ガリウーリンら突破力のある選手と共に少ない機会を活かす目的だろう。ガリウーリンについてはさほどサプライズではない。イエメン線でも途中起用からシンプルで速い縦突破からPKを勝ち取るなどそれなりに活躍した。
 おそらくアブラモフ監督は、サウジアラビアの攻撃に耐えつつ、ドサクサに紛れて1, 2点を取りたいということだろう。しかし、この奇策には試合前から大きな不安を感じた。

画像7

 試合開始とともにホームのサウジアラビアがボールを保持。ボランチの指揮のもと両サイドをワイドに使いウズベキスタンを揺さぶり、前線の小柄だがスピードのある選手がウズベキスタン守備陣のギャップや裏のスペースにどんどん走り込む。防戦一方のウズベキスタンはいつ失点してもおかしくない状況だったが、26分にカウンターから失点。さらにショックの中左サイドを崩され追加点。スピーカーから大音量で流れるアーザーンのようなサウジアラビア特有の応援を聴きながら、ウズベキスタンの行く末は前半45分で決まったと理解した。
 試合は3-0でサウジアラビアの勝利。そしてUAEがベトナムに勝利、イランがイラクに勝利したことで、ウズベキスタンの2次予選敗退が決定した。結果的に緒戦のパレスチナとの試合での敗北が最後まで尾を引いた。
 なお、筆者も意外だったのだが、初めて参加した1998年フランス大会以降、ウズベキスタンがアジア2次予選で敗退したのは史上初である。

画像6

 奇策は、信じられないほどの失敗に終わった。
 決戦を前に浮足立つアシュルマトフにはサウジアラビアの攻撃を食い止めつつ急増CBの相方を統率する力はなかった。そもそも元から守備に長けた選手ではないため仕方ないことだが、アフメドフもサウジアラビアの攻撃に後手を踏み続けた。1点目のシーンは、彼があっさりかわされた時点で勝負ありだった。確かにアフメドフは中盤のプレー時さながらのパスを何度か通して、監督の意図通り攻撃のビルドアップに参加したが、言い方は悪いが「それだけ」だった。
 守備的な布陣にも関わらず負傷によりサイドバックの人材が払底し、監督の意図と真逆のユルドシェフとアリジョノフを起用せねばならなかった。DFにしては技術と攻撃力のある選手だが、当然、彼らが真価を発揮するのは敵陣に侵入した際。不用意なボールロスト、ボール奪取力の弱さ、ライン管理の甘さといった弱点は、シンプルな専守防衛が求められる試合では致命的だ。ここにサイフィエフやシンガポール戦で使える目処が立ったアルクロフを入れることができていたら、戦い方も変わっていたかもしれない。事実、2人は自陣タッチライン際でボールを奪われ、裏のスペースを使われ、いいようにやられた。
 ゾテーエフは攻守両面でチームのブレーキとなった。試合開始から積極的にボールを追うもチェイスの走力もなく簡単にかわされ、ほぼ「無駄走り」に終わった。せっかくの攻撃時には、技術力の低さ、そして不慣れなポジションということもあり、突破もなく効果的なパスもなし。サイドバック時代からの武器である鋭いクロスさえ打てなかった。左サイドの攻撃が使い物にならなかっただけでなく、ユルドシェフとともに左サイドを支配される大きな原因を作った。試合後アブラモフ監督は「サウジアラビアの素早い攻撃に対応する意図があった」と人選について語ったが、少なくとも彼の起用はウズベキスタンに何ももたらさなかった。
 彼に押し出されるようにマシャリポフがトップ下に入ったが、普段の「2倍の広さ」を見ねばならないこと、ゾテーエフ同様慣れない場所でプレーに迷いがあった。サウジアラビアのプレッシングの餌食となり、自慢のドリブル突破や味方とのコンビネーション攻撃も鳴りを潜めた。

 シュクロフとハムロベコフの両センターハーフは奮闘。チームが攻守両面で苦戦する中、ピッチを走り回り何とか相手攻撃を防ぎ、攻撃時には前線へボールを運ぼうとした。残念なことに彼より前方が機能不全に陥っている中、彼らにできることは限られた。ボールを保持しても素早いプレーができずに迷う場面、仕方なくロングボールを選択するもあっけなく跳ね返されてカウンター攻撃を受ける場面が多く見られた。ストライカーは、優秀なアシスト役がいて力を発揮するもの。中盤がそのような状態ではさしものショムロドフでもどうにもならない。サウジアラビアの屈強なセンターバック、アブドゥッラー・マードゥーに封殺された。

画像8

 ウズベキスタンは、サウジアラビアがボールを保持すれば自らスペースを明け渡し、こちらがボールを持てば、ディフェンス、中盤、フォワードを繋いできたリンクが完全に分断されたためパスが繋がらず。無理な突破を試みてはサウジアラビアの網にかかり続け、勝利を求めてはやる気持ちから前掛かりになったところにカウンター攻撃を浴びる……。重要な試合で選手が萎縮してチーム全体が攻守ともに迷子のようになってしまう「悪しき伝統」は今予選でも相変わらずで、奇策が拍車をかけてしまった。シンガポール戦でダイナミックな攻撃とそれなりにちゃんとした守備で圧勝したのと同一チームとは思えない、試合内容は得点差以上に大きく差がついた。よく3失点で済んだとさえ思える。
 もちろん、サウジアラビアの強さも印象的だった。守りは強く固く、攻めは速くうまい。前線にパワーが足りないように見えたが、アジアで戦う上では何の問題もない。しかし個々の選手の出来以上に、チームとしてオーガナイズされているなと思った。トランジションや攻撃の起点、そして中盤の守備とキーポジションを任された2枚のボランチも色々な場面に顔を出し、攻守両面で存在感があった。まだ3次予選は始まってもいないが「こういうチームがワールドカップに行くんだ」と感じた。

 アブラモフ監督は割とこの手の奇襲が好きな人物だが、前半のうちにテコ入れをすることもなく、ウズベキスタンの「未知なるパワーの覚醒」を信じていたのか、45分間機能しないチームを見守った。そしてゾテーエフを90分間ピッチに立たせた。敗戦の責任を誰かに着せるのは好きではないし、いくら筆者の目に奇異に映ったとはいえ、采配の背後には監督の意図があるのだから批判はしないように努めている。「采配で負けた」との意見もあるだろうが、個人的には結果論で多くのことを語りたくはない。実践の場で試してこなかったことには疑問が残るが、これまでと違う戦術で臨み、たまたまうまくいかなかっただけである。
 しかしながら、当然戦力の差こそあれ過去2戦とメンバーを変えず、いつも通りの戦いで試合を圧倒したサウジアラビアのルナール監督とアブラモフ監督。パリパリのシャツとスラックスが破れんばかりに喜ぶスタイルのいいフランスの伊達男と、いかにも指導者然としたジャージ姿で苦い表情を浮かべる小柄な民族アルメニア人。両者は色々な面で対照的だった。

サウジアラビア3 - 0ウズベキスタン
6月15日 ムルスール・パーク(リヤド)
サルマーン・アル・ファラジ(25')
サルマーン・アル・ファラジ(33')
アリー・アル・ハサン(52')
ウズベキスタン:クッヴァトフ、アリジョノフ、アフメドフ(80'トゥフタフジャエフ)、アシュルマトフ、ユルドシェフ(80'ボゾロフ)、ハムロベコフ(54'アリボエフ)、シュクロフ、ガリウーリン(54'ハムダモフ(80'イクロモフ))、ゾテーエフ、マシャリポフ、ショムロドフ
警告:シュクロフ(90')

-----------------------------------------------------------------------------

画像9

画像10

最終的なD組の順位と「2位チームの順位」。あまり意味のない比較だが、タジキスタンより下の順位に終わったことは、現地の人にはかなりショッキングだろう。

 とても残念だが、ウズベキスタンが予選敗退した事実は、いくら恨み言を言ったりアブラモフ監督に罵詈雑言を浴びせても変わらない。見ている側よりも当事者の方がはるかに残念で辛いに決まっている。敗戦を粛々と受け入れる他ない。
 さて、次回の2026年大会(アメリカ・カナダ・メキシコ共催)は参加国が48に拡大し、それに伴いアジア大陸の出場枠も4.5から8に増える予定。ウズベキスタンには追い風となるが、4.5枠でも8枠でも3次予選に進出できない限りチャンスはないため、予選はこれまで通り厳しい戦いなるだろう。
 これまではどんなに調子が悪く不甲斐ない戦いをしていても3次予選までは勝ち進んできたので、今回の2次予選敗退が意味するものは大きい。今頃現地では侃々諤々になっていることだろうが、何が足りずどこをどう改善すかは当事者が決め、実行することだ。4年は長いようで意外とすぐにやって来て、その度にファンは悔しい思いをしてきた。今は、次回こそ悲願のワールドカップ出場を夢見、また祈るばかりである。
 なお、2次予選突破チームはシリア、オーストラリア、イラン、サウジアラビア、日本、UAE、韓国、中国、オマーン、イラク、ベトナム、レバノンの12チーム。

※ウズベキスタンはワールドカップ予選から敗退したが、以降は2023 アジアカップ中国大会の3次予選に戦いの場を移すことになる。もっとも、2次予選を突破していればストレートインだったわけだが。
 6月19日、アブラモフ監督の辞任が明らかになった。3次予選に進めなかった場合に契約を打ち切ることになっていたようだ。後任は未定。候補は年代別代表のカパゼ氏かナサフのベルディエフ氏あたりか。

(細かい部分の修正はしますが、記事の更新は6月16日付で終了しました)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?