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94話 魔法の歌

無事回復したシイナ。元気に起きたが、ドミノがシイナの為にと作ったフルーツタルトを見つめ涙してしまう。それは、誕生日が生まれて初めて「幸せな日」と繋がったからかもしれない。そんな泣くシイナを、ドミノは優しく抱きしめた。

※ ※ ※

ドミノに抱きしめられたシイナは驚きの余り涙が止まってしまった。流れる鼻水をすすり、何が起きているのか考える。しかし、不思議と嫌では無かった。子供の頃に欲しかった両親の温もりを今ここに感じている。少しの時間でいいから…と、シイナな子供に戻ってドミノの優しさを独り占めした。

ドミノはシイナの背中でリズムをとりながら短い歌を口にした。

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小さな 小さな (シイナ)
泣くな 泣くな さぁ笑え
笑えば光るよ 夢の子よ

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この歌は、大人が泣く子供をあやす時に口にする歌だった。小さな、小さな〇〇と、泣く子供の名前を言ったり「歌の子よ」や「可愛い子」「賢い子」など様々な種類がある。
ようは、子供の数だけこの歌は無数にあるという事だ。
かつてのドミノも父や母、村の兄弟たちに歌ってもらった。この歌は不安な気持ちを溶かす魔法の歌だった。

ドミノは歌い終えるとシイナの頭を撫でて、大丈夫、大丈夫、と呟いた。しかし、その言葉は彼女の為に言ったのではない。ドミノは自分自身の為に言った気がした。

「も、もう大丈夫です」

シイナはドミノから離れて、赤い鼻でニカっと笑って見せた。その笑顔にドミノも笑顔になりさぁ、食べましょう、とシイナをフルーツタルトの前へと座らせた。

目を輝かせるシイナの隣に、同じく目を輝かす風の子・マロンが行儀よく鎮座する。

「今、切り分けますね」

ドミノは笑顔でナイフを手にフルーツタルトを器用に切り分けていった。露店で買ったリンゴやオレンジ、他にもモモが乗って美味しそうである。
シイナの視線を感じたドミノは、どうしましたか? と仕草で伝えた。

「い、いえ、ドミノさんってお母さんみたいだなぁって」

「お、おかぁ……?」

ドミノは思いもよらない言葉に手を止めてしまった。

「せめて、そこはお父さんにして欲しい所ですね」

ドミノは気にしないフリをして再びナイフを動かし始める。しかし、その手は若干震えていた。内心ショックを受けたのだ。

その様子に気がついた風の子・シロイトがドミノの首に優しく巻きつき、長い尾を背中まで伸ばしトントン、と慰めた。

ドミノはシロイトの気遣いに苦笑いしながら、シイナの前に切り分けたフルーツタルトを静かに置いた。

「どうぞ」

「い、いただきます!」

シイナは大きな口でドミノお手製のフルーツタルトにかじりついた。それは、今まで食べたものの中で1番美味しい特別な味がした。

「お、美味しい!」

「おかわりありますので沢山食べてください」

部屋に笑顔と笑い声が戻った。
ドミノとシイナの様子を静かに見守る影が1つ。守護柱・リスのラルーは笑顔で過ごす2人を笑顔で見つめていた。しかし、内心は決して穏やかでは無かった。
それは、これまでの歴史を生きてきた者としての胸騒ぎがそこにあった。

つづく

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