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141話 3人のお茶会

新人墓守のドムは、再び目の前に置かれたカップに老婆との楽しいお茶会を思い出した。しかし今は違う。それは賑やかで楽しいものではなく、音一つでも響き渡るほど静かなものだった。

※ ※ ※

古びたローブを着て頭には王冠が乗った白髭の老人は、ドムと少女を見つめにっこりと笑顔になった。

「おじいちゃんって、王様なの?」

少女が老人に向かって声をかけた。

ハハハ、と老人の笑い声が暗闇の中にまるでボールを弾いたかの様に軽やかに転がっていった。頭上に乗せた王冠が少しずれ深く頭に沈み込んだ。老人は姿勢を立て直すと、王冠のズレを直しながら苦笑いを見せた。

「正確にはだった、だけどね」

老人はカップを手に目を細めて紅茶を啜ると、静かに置き…さて、と話し始めた。

「古い友人を訪ねてきたんだけど、彼女は何処かへ行ってしまった様だ。君達は何か知っているかい?」

古い友人とはあのお茶会にいた老婆の事だろう。ドムは静かにカップを手にすると同時に首を横に振った。老人は少女に体を向けていろいろ話していたがドムの耳には届いていなかった。目の前にあるこの、不思議な人物をじっと観察し考えを巡らせた。

王様って、赤の国の王様だろうか。それとも黒の国の王?

しかし、ドムはどちらも8人会議で出会っている。赤の国のラヴィ王に黒の国のシーカ王。ここまで歳を取った人物はあの会議には来ていなかった。となると、どちらかの父親だろうか。そう考えたが老人はどちらにも似ていないな、とドムはその優しそうな顔を見ながらカップを置いた。

「ドムよ。私の顔に何かついているかね?」

急に名前を呼ばれてドムは小さく飛び上がった。

「い、いえ。それより僕の名前、どこで?」

「教えてくれたんだよ。この子たちに」

そう言って老人はテーブルの上で灯る星の子たちの頭を人差し指で優しく撫でた。

「声が聞こえるんですか?」

「あぁ。皆んなの声が聞こえるよ。でも彼女の声が無いという事は…そういう事なんだね」

王だった者は、少し寂しそうな顔をすると小さく息をつき暗闇へと目を向けた。

皆んなとは誰のことだろうか。
ドムはこの暗闇の中に他に誰かいるのだろうかと耳をすましたが、風一つ吹かない空間に音など無かった。

つづく

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