過小評価されていると思う私立男子校

 今年の中学受験も一段落し、少し落ち着いて中学受験に関連する様々な記事に目を通しております。その中で、面白いと思う記事について書いていこうと思います。

 まずは、2月4日に配信された『AERAdot.』の記事からです。首都圏の中高一貫校の難関大学の合格率をまとめた記事です。その記事の冒頭に、「ひと口に大学合格実績と言っても、さまざまなデータがある」とあるように、「大学合格実績」の見方は様々です。それは絶対的数値ではなく、切り方によって見え方が変わります。
 たとえば、この記事の「合格率」の切り方も、注記されているように浪人生を含んでいます。「現役合格率」という切り口になればランキングが変わるでしょう。そのときに「現役合格を目指したい」と考えるご家庭には印象が変わるかもしれません。また、一人で多くの合格数を稼いでいる生徒もいるかもしれません。そこら辺は、学校ごとの進路指導のやり方によって大きく変わるはずです。その点でも、「合格者数」から算出される「合格率」にどこまでの価値があるのかは見る人に委ねられます。
 学校によっては「進学者数」を公表しているところもあります。それは、合格者数で表現されるよりも、より何かしらの真理に近づいているような気もしますし、誠実さを感じるところです。

 ゆえに、こういった統計データが学校の価値を絶対的に表しているとは言えません。とはいえ、良い学校はどんな切り方をしても良い学校です。この記事の切り口で上位に上がってくる学校は、総じて偏差値表の上位の学校と変わりません。そう考えると、このデータから見えてくるものにも、大きな価値があると考えます。

 そんな心持で、このデータに目を通しますと、ひと際輝いて見える学校があります。それは、攻玉社中学校です。

 国公立ランキングでは20位、早稲田ランキングでは12位、慶應ランキングでは4位となっています。早慶のランキングは、1人で複数の合格を取れるので安易には考えられません。上位校に早慶を目指さない医学部志望者が多いことも考えると一概には語れないです。しかし、合格実績のページで「都内の中高一貫の進学校として国内でもトップクラスの進学実績を誇ります。」と自負していることにうなずけるデータではないでしょうか。

 このデータの中で攻玉社に注目する理由は、その順位だけではなく、そこに指導力の高さが見えてくるからです。

 攻玉社は、SAPIXの偏差値表を見ると、1日はSS45程度に位置する学校です。2日の日程では非常に高くなります。2日ではSS50を超えてきますが、それは1日に最難関を受験した子が抑えとして受験し、かつ1日に受けた子に有利に働く問題になっているからだと考えられます。
 「合格実績を出している子は、最難関を受験できるレベルの子だけなのでは?」と思われる人もいると思いますが、そういう子の多くは、やはり最難関に合格していることが多いでしょう。また1日の受験日も、3日の浅野などの抑えとして受験されることが多いです。そのため、1日の上位層も必ず攻玉社に入っているとはかぎりません。
 だからこそ、そのようにして上位校の抑えに使われやすい中で、中学受験の時のミドル層の子達をしっかりと育てて、大学受験の時に花開かせているのが攻玉社という学校だといえないでしょうか。「攻玉」という言葉は、『詩経』にある「他山の石」から引用したとありますが、まさに「玉を攻くごとき教育」なのでしょう。

 そんな攻玉社の指導力の高さは、部活動にも見ることができます。それは、サッカー部の実績です。ここ2年、サッカー部は全国高校サッカー選手権東京予選で、ベスト16、ベスト32という成績をあげています。

サッカーを知っている人であれば、これがどれほどの偉業かが分かると思います。東京はサッカーの激戦区で、全国出場を目指している強豪校が非常に多いです。そういった強豪校は高校受験の段階で、中学校3年間クラブチームでサッカーに打ち込んでいる子達から優秀な選手をセレクトしてチームを作っています。当然、サッカーで頑張ることにモチベーションのある子達ばかりのチームです。そういった学校が多いからこそ、ベスト32に入ること自体が至難の業になるのです。
 もちろん、くじ運が良ければ、一回ぐらいベスト32に入ることはあるでしょう。しかし、2年連続でベスト32以上を成し遂げることは、実力無くしてはありえません。それを高校受験の無い学校が、高校からサッカーエリートを入学させている私立とも互角に渡り合って達成しているのですから、賞賛せずにはいられません。
 これだけの進学校が、どうやってサッカーのモチベーションを維持しているのかが不思議でなりません。中学入試の段階で所属選手が決まり、そこから補強をすることができない中で、育成だけで東京予選を勝ち上がるというのは、とても凄いことです。もちろん、「サッカー部の子は勉強していないのでは」と勘繰ることもできます。ただ、それであっても、優秀な指導者がいなければ、補強無しの育成だけで出せる結果ではありません。その指導力は、きっと学習指導と密接に繋がっているのではないでしょうか。
 スタッフ紹介を見ても、先生の名前が並んでいます。私立学校には、その競技専門の外部指導者を雇って強化しているところもあります。しかし、攻玉社はそうではないようです。子供の向上心やモチベーションを保つ指導は、勉強だけに限らず、全ての競技に通じるものがあると考えています。ゆえに、このような部活の実績からも、攻玉社の先生たちが優秀な方々であることが見えてきます。

 細かく見ていけば、攻玉社が素晴らしい学校である可能性を証明するポイントは多いです。しかし、世間の攻玉社に対する評価は、それほど高くないように感じます。特に、昨今の共学志向、大学付属人気の中で「攻玉社?」と思われる方も多いように感じます。大手学習塾時代の進路指導の雰囲気を見ていても、なかなか第一志望の選択肢に入ってくる学校ではない印象です。どこか、偏差値表が生み出す価値観で、その指導力が過小評価されているように思います。

教育理念を見ると、現代風の趣は感じられません。分かりやすい文言は無く、とても古風で悪く言えば「古臭い」と感じられてしまうところもあるのでしょう。しかし、そんなところに100年続く芯の強さを感じるところです。

 ゆえに、この仕事をしていている者として、攻玉社はもっと世の中に高く評価されるべき私立学校だと思っています。個人的には、その指導力は最難関の男子校に匹敵する評価を得てもいいのではないかと考えています。

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