見出し画像

【小説】メンズエステのめぐみさん③

1話からの続編です。

3話目 めぐみさんと佐藤さん (3/5)

佐藤は激怒していた。
今日2回も不運が訪れたことに。
1回目は朝礼の直後だった。
「社長お疲れ様です。佐藤です。」
朝礼が終わると間もなく、社長からの電話があり嫌な予感がした。
「佐藤君。頑張っているかい?」
社長のひと言目が頑張っているかい?の時は絶対に何かあった時だ。
前回のメールの件は俺のせいじゃないのにこっぴどく怒られてしまった。
弁解したがお前のせいと一蹴されたのだ。
あれ以降何も起こっていないが、慎重に言葉を選ぶ。
「社長いつも目をかけてくださりありがとうございます。お陰様で順調に頑張っております。」
「ほう。順調に。」
社長の不敵な笑みが電話越しにも伝わってくる。
「A社との件をぶり返すつもりじゃないが、順調って言葉を使えるほどのことはしてないよね?佐藤君。」
「失礼しました。」
ぬめっとした汗が額から噴き出す。
「今回の件は来季の年俸にも影響が出るから事前に言っておこうと思ってね。君妻子持ちだからさ。あ、そうそう。言ったと思うけど、君、次はないから。来季に向けて11月と12月頑張ってね。減俸だけじゃすまないかもしれないから。では、頑張って下さい。」
一方的に電話が切れた。
さすがの佐藤でも事の重大さがわかった。
減俸以上・・・?降格する可能性があるってことか?
冗談じゃない。
この会社に30年。やっとつかんだチャンスなんだ。
高城の尻拭いなんかで終わってたまるか。
これは、この後の営業の定例会議でしっかり絞らないとな。
ニヤリと笑うと会議室に向かった。

会議が終わると、石川ちゃんとご飯に行くことができた。

「部長いつもありがとうございます!いただきます!」
石川ちゃんは従順な部下だ。高城と違って。
「石川ちゃん、今日は夕飯も食べに行かない?妻が旅行に行っててさ。ちょうど夕飯は外で食べるから!昼に続いておごっちゃうよ?」
下心を出さないように笑顔は控えめに言った。
「すみません。私今日は大学のサークル同じだった人とご飯の予定があって、、」
「えー。上司の言うことが聞けないのは査定にも関わってくるよ?」
石川の顔は明らかに戸惑っている。
「冗談だから!ジョーダン!ジョーダン!マイケルジョーダンなんちゃって!少し石川ちゃんをからかってみたくなったの!全然気にしないで!」
「お誘いくださったのにすみません。。」
「いいっていいって!石川ちゃんは本当にいい子だな~。でもそんなに謝られると俺がハラスメントみたいになっちゃうから!」
「すみません。そう言ってもらえるとありがたいです。」
じゃあ、ご飯も食べたしそろそろ行くか。
そういうとレジの方へ歩き出した。

「では、日替わり天ぷらが1,100円を2人前で、2,200円です。」
「じゃあぺーぺーってやつで。」
「すみません。うち電子マネーやってなくて、、」
「え!そういうの先に言ってよ。こっちはお金持ってないよ。」
「すみません。各席にPOPは置いてあるんですが、、、」
あたりを見渡すと、各席に

当店現金のみ

という紙がでかでかと貼ってあった。

「えーどうしよ。」
「私財布持ってますよ!」
「ごめんお願いしていい?後で払うから。」
では、2,200円ちょうど頂戴します。
「今後はお客様が来た時は最初に現金だけって言った方がいいよ?」
店員はぶっきらぼうにありがとうございました。とだけ言ってすぐに奥の方へ消えていった。

「全く恥かかされたよ!」
佐藤は会社に戻ると企画部の女性達に偉そうに語っていた。
「普通今の時代ってキャッシュレスでしょ!財布持ってない人もいるんだから現金だけなんてやってんじゃないよってね!全くお客様ファーストじゃないんだから!
それにさっきトイレで見たらワイシャツにも蕎麦汁が飛んじゃったし!本当不快な気分!」
企画部の女性達は苦笑いをしている。
「あ、石川ちゃん!さっきのお金!2,000円だよね?はい!」
2,000円をみんなの前で石川に渡す。
「え、部長奢ってあげたんですか?」
「まあね。」
「優しー!さすがですね!じゃあ、私達これからコーヒーを買うので失礼しますね!」
企画部の女性たちはそそくさと逃げていった。
「優しーだって。全く嫌になっちゃうよ。上司として当たり前のことなのに。」
まんざらでもない笑顔で石川に問いかける。
石川は二度目の我慢をした。200円足りないとは言うことができなかった。

15:00になる。あと2時間で退社だ。
怒鳴り散らしたり、女の子とご飯を食べてストレスを発散したのに。
それでもまだまだイライラが収まらなかった。
こんな日は酒をめちゃくちゃに飲みたい。
今日のご飯は何だろう。あれだなぁ、日本酒が飲みたいな。辛めのやつをかーっと!
日本酒に合う物を嫁に作らせるか。
あいつは俺が食べたい献立を言わなきゃ作れないポンコツだからな。
メッセージをしておくか。
佐藤はカバンから仕様のスマホをとり、嫁とのメッセージを開く。
あ、そうか。あいつは今日いないのか。
つっかえねえな。
さっきまでいないことに大喜びだったのに何故か無性に腹が立つ。
全く。料理まで作ってから旅行に出ろってんだ。俺が稼いでやってんだから。
そういえば、確か、同期の高橋が渋谷に日本酒のいい店があるって言ってたな。
そのままメッセージ一覧を遡り高橋とのやり取りを見る。
「あった。あった。」
店名をコピーしてGoogle検索をすると、見覚えがあるあたりだった。
あ、そういえばこの店の辺は「ナイスなナイト」があるところじゃん。
最近メンズエステに行っていないことをふと思い出した。

財布を覗くと20,000円ピッタリ。今月は結構節約したからな。
給料日は明後日か。居酒屋かメンズエステのどちらかしか行けないな。
よし!決めた!
佐藤はプライベート端末を見ながら、社用携帯に電話番号を入力する。
「はい。こちらナイスなナイトです。」
「すみません、佐藤といいます。今日19:00からみぐみさんで予約お願いします。」

4話へ続く(7月3日公開予定です。)


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?