人生で2回あった『運命の出会い』には、スポットライトが当たっているように見えた

スポットライトが射しているのを見たことがあるだろうか?

お芝居やライブなどステージの話ではない。あなたの人生に、だ。

日常生活の1コマにスポットライトが当たっている。そんなシーンを見たことがあるだろうか?

スピリチュアル系に疎いわたしは、おそらく鈍感タイプだ。そんな鈍いわたしだが、不思議な体験をしたことがある。その体験は脳にピタッと貼りついて、今でもありありと思い出すことができる。

なぜなら、その不思議なシーンにはスポットライトが当たっていたから。

スポットライトが射しているシーンを、人生で2回見たことがある。2回とも、ありふれた日常で。

他のひとに話しても『意味が分からない』というような顔をされるけど、あれは間違いなくスポットライトだった。たぶん、わたしにしか見えないスポットライト。

1回目は、社会人2年目のころ。

社会人になって数年は、会社の寮に住んでいた。寮は男女別々の建物だったが、メインエントランスは共用。

エントランスを入ってすぐの共用スペースに、テレビやソファが置いてあった。自分の部屋に戻る前に、居合わせた人とちょっとおしゃべりするような場所。

ある休日の昼間。スーパーで買い物をすませ、そこを通り過ぎようとした。何人かの先輩たちがソファでおしゃべりをしていた。同じ部署や違う部署の先輩たち。

そのときだ。

1人の男性にだけ、スポットライトが当たっていた。窓際でもないのに、パーッと明るい光がその男性にだけ降り注いでいた。まるでその人だけが陽だまりにいるみたいに、周りの景色からくっきりと浮かびあがっていたのだ。

そんな経験は初めてで、わたしはスポットライトを思わず見入ってしまった。

スポットライトが当たっていた男性は、同じ部署の先輩。もちろん後輩のわたしから挨拶するのが礼儀だが、内心嫌だなと思っていた。わたしは、その先輩が大嫌いだったから。

同じ部署になってから、冷徹で“すかして”いて気取ってる奴、とずっと思っていた。背が高く見栄えのする人で、仕事ぶりも優秀。周囲からは一目置かれていた。でも本人はそれをすべて分かっているようなフシがあり、そういうところが大嫌いだった。

幸か不幸か、その男性もわたしのことを嫌っていた。仕事の話をしているだけなのに、いつも口論になる。その男性とわたしの気が合わないのは部署内でも有名で、課長が気を遣い、お互いのデスクを遠く離し、出勤シフトもずらしてくれていた。それくらい、公然の『犬猿の仲』だった。

だから、気づかないフリをしてササッと通り過ぎようとしていたのに、スポットライトに目を奪われた。そんな状況は初めてで、これはなんだろうと、しばらく阿呆のように立ち尽くした。

その男性が、その時にどんな服装で、どんな姿勢で、どんな表情だったのか。どの角度からスポットライトが当たっていたのか。30年近く経った今でも、はっきりと覚えている。そのときに挨拶したかどうかは、全く思い出せないけれど。






そのときの男性が、オットだ。

2回目は、1人目の子どもを出産して転職活動をしていたころ。

当時は、今から思えば信じられないほど前時代的。母親が子どもを保育園に預けて働くなんてけしからん!子どもが3歳になるまでは子どものそばについていないとダメ!があたりまえ。

それを声高に主張しても咎められない。働く母親に冷ややかな視線が送られる。そんな時代だった。

わたしたち夫婦はお互いの実家から離れて住んでいたので、実家のサポートは全く見込めなかった。そんな状況でわたしは0歳児を保育園に預け、働こうとしていた。オットは、仕事好きなわたしをいつだって100%支えてくれた。

わたしは英語が大好きで、前職も英語を使う仕事だったので、一生英語を使って働きたいと思っていた。でも、世間の風当たりは強く、転職活動は思うようにいかなかった。

英語を使う仕事をどうしてもあきらめきれず、雑誌【翻訳ジャーナル】【通訳ジャーナル】を買ってきては、こんな仕事したいなぁと思っていた。

ある夕方、黄昏泣きをし、眠そうにしている子どもをあやしているとき。

子どもを抱っこしたままキッチンの床にぺたんと座り、翻訳雑誌を読んでいた。ページをパラパラとめくっていると、ある翻訳学校の広告が目に入った。

『特許翻訳を学びませんか?』

特許翻訳、その言葉を見たのは生まれて初めてだった。これ、なんだろう?と雑誌に顔をグッと近づけたそのとき。

自分とその雑誌がスポットライトを浴びているような感覚になった。

これが本当に不思議な感覚で、今でも忘れられない。夕暮れどきのキッチンは薄暗かったのに、わたしとその雑誌にはスポットライトが射していた。

その瞬間、『これだ!』と。

英語は大好きだったが、翻訳の知識は皆無。特許翻訳には科学技術の知識が必要と書かれていて、わたしはバリバリ文系だったのに、本能的に『これだ!』と思った。

その特許翻訳コースの資料をすぐに取り寄せ、1年通学し、紆余曲折を経て、特許翻訳者になった。特許事務所で16年特許翻訳の経験を積み、先月からフリーランス翻訳者になった。

人生の折り返し地点をとっくに過ぎたけど、スポットライトが射しているのを見たのはこの2回だけ。鈍いわたしなのに、本当に不思議。

その2回のスポットライトを振り返ると、あぁ、両方とも間違いなく運命の出会いだったんだなと。

最初は大嫌いだった男性が人生のパートナーとなり、ありがたいことに、居心地のいい関係をずっと築いている。

特許翻訳なんて聞いたこともなかったド素人のわたしが、特許翻訳者になった。

どういう経緯でわたしの人生にスポットライトが射したのか。今でもそれは全く分からないけれど、なにか見えないチカラに導かれたんだろう。

スポットライトの神様に、今でもただひたすら感謝している。

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