なぜ多くの日本人がゴスペルにハマるのか
四十路を過ぎてから、ずっと魅了され続けている。かれこれ9年目になろうか。コレがないと、ちょっとした禁断症状が出るくらいだ。
わたしの人生の伴走者となったコレ。『ゴスペル』だ。
生まれてこのかた、ずっと仏教徒である。ゴスペルを歌っている時点で、敬虔な仏教徒とは言えないかもしれない。でも、節目の行事は欠かさないし、ご先祖様のことも大切に思っている。
仏教徒のわたしが、なぜゴスペル中毒?
クリスチャンではないがゴスペルにハマっている日本人は、あなたの想像よりもはるかに多い。他民族のクリスチャンが、“Why?”と不思議がるくらいだ。
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『ゴスペル』って、聞いたことはあるけど詳しくは分からない。
そんなあなたも、”Oh Happy Day”や”Amazing Grace”といわれたら、なんとなく分かるだろうか。
ゴスペルが日本で有名になったのは、1992年のアメリカ映画【天使にラブソングを】がきっかけだ。
この映画には、聖歌隊が黒人教会で歌うシーンが出てくる。それを見たことのある人は多いだろう。ウーピー・ゴールドバーグ主演の名作。
この映画がきっかけでゴスペルを始めたひとは数知れず。
黒人は遺伝的に、独自のリズム感をもっている。聖書の言葉を、黒人のリズム感をもとにアレンジしたり、作曲したりして生まれた音楽。それがゴスペルといわれている。
ゴスペルは、アメリカの音楽シーンに大きな影響をあたえてきた。ジャズやブルースは、ゴスペルから発展した音楽だし、ヒップホップもR&Bも、ゴスペルの影響を受けている。
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日本国内にはたくさんのゴスペルグループがある。クワイア(聖歌隊)形式のグループもあれば、数人で歌うグループもある。
どのグループも声の高さによって、上からソプラノ・アルト・テナー・ベースのようにパートが分かれていて、パート同士の掛け合いをしながら歌う。
教会のクリスチャンが歌うクワイアから、クリスチャンでなくても入れるクワイアまで。老若男女を問わず、たくさんの人がゴスペルを歌っている。
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なぜこんなにも多くの日本人がゴスペルにハマるのか。
わたしのゴスペルの先生は次のように言う。
「ゴスペルの歌詞はポジティブ。楽しみながら自由に表現すること、それが大事。クラップしたり、踊ったりして、自分の好きなように表現しよう。」
自由に表現できる、これが、多くのひとを惹きつけるのかもしれない。
ゴスペルには、表現力をひきだす“なにか”がある。1度でもゴスペルを歌ったことのあるひとなら、あぁ、あれかなと、なんとなく分かるかもしれない。
ゴスペルの不思議な“なにか”。
それは【心を解き放つ】チカラ。
日常では、だれもが色んな肩書をもっている。
家では、○○の夫や妻、○○の父や母、○○の長男、○○の妹、○○の孫。
地域では、○○君のお父さんやお母さん、○○さんのご主人や奥さん、XXX号室に住んでいる○○さん。
会社では、○○さんと名字で呼ばれ、友達からは下の名前やニックネームで呼ばれる。
確かにどれもあなた。あなたの一面を表す肩書だ。
でも、その肩書だけではくくれない、あなたしか知らない自分を誰もがもっているはず。その本来の自分を、おもてに出す機会はありますか?
ゴスペルを歌っているときには、ある不思議なことが起こる。
これらのたくさんの肩書が、ポロリポロリとはがれ落ちるのだ。
だれにも依存しない、ただの、“素の自分”。その素の自分が、心の奥から顔をだす。
ブラックミュージック独特のリズム感。そのグルーヴに、自然と体を揺らしたくなる。その心地よいリズムに身をゆだね、踊りたくなる。グルーヴの波に乗りながら、リラックスしていく。
ストレートでポジティブな歌詞。ゴスペル特有のなんども繰り返されるフレーズは、ときに強く、ときに優しくあなたを励ます。
グルーヴに身をゆだねる。腹の底から声を出して歌う。クワイアのみんなと一緒に。
命を吹き込まれた歌詞が言霊となり、みんなの口からふわっと浮かび上がる。宙に。
それぞれの音の粒、言霊の粒が宙に舞い、交じり合い、溶けあう。ハーモニーだ。
次のフレーズの言霊が舞い、空気を揺らす。溶けあって、さらなるハーモニーを生む。
この繰り返しで、ハーモニーが空間に満ち満ちていき、音のうねりとなる。うねりとなった音が、そこにいる全てのひとを包みこむ。
心の枷がとれる。感情があふれ出す。あふれ出た想いは全身をめぐる。そして、体のすみずみまで広がった想いが、歌声とともに放たれる。
ゴスペルの響きに刺激され、心の網に絡まっていたものが呼び起こされる。そして、流れ出す。
すると、なにが起こるのか。
心が軽くなる。フラットになる。
両手をめいいっぱい広げたまま山の頂きに立ち、気持ちのいい風を全身で浴びる、その表現が近いのかもしれない。
全身を吹き抜ける風が、心のわだかまりやザラザラしたものを吹き飛ばし、解放してくれる、そんな感じだ。
解放された心に、温かい“なにか”がじわりじわりと沁みわたる。
この温かい“なにか”を言語化するのは難しいのだけれど、あるゴスペル仲間はそれを
「現状を受け入れようと思わせてくれる“なにか”」
だと言う。また別の仲間はそれを
「救われたと感じる」
と表現する。
ゴスペルは歓喜の音楽であると同時に、また、救いの音楽でもある。
心が解放されたあと胸にスーッと沁みこむのは、感謝の想い。海辺の砂浜が海水を吸い込むように、感謝の気持ちがゆっくりと心を満たしていく。
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これが、ゴスペルのチカラの1つ。ストレス解消とはちょっと違う。ストレス解消の2歩も3歩も前をいっている。
だからゴスペルは、多くの人を魅了して止まないんだろう。わたしがゴスペルをライフワークとするように。
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