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技術系英文を書きたい人に読んでもらいたい1冊

特許翻訳にたずさわり16年ほどになりますが、その間、数多くの技術系英文(英文テクニカルライティング)の本を読んできました。

それらのなかには、専門用語ばかりで書かれている本も数多くあります。

たとえば、技術英語で使われる不定冠詞 “a”と定冠詞 “the”について、200ページに渡って説明する本や、技術英語のキーフレーズを数百以上も載せている本もあります。

わたしのように元々英語が好きな人にとっては、そのような本も苦にはなりませんが、技術系英文を書こうと思う人が、すべて英語好きな人だとは限りません。

そこで今回は、技術系英文を、正しく、明確に、簡潔に書くことを希望する人に読んでもらいたい1冊を紹介します。

その1冊は、「技術系英文ライティング教本」。

この本は、技術系英文ライティングの学習を始める人から、技術系英文ライティングの実務経験者、さらには技術系英文ライティングの熟練者(ライティング歴10年以上)までを対象としています。

まえがきで著者の中山裕木子先生が書くように、技術系英文ライティングにたずさわる人全般に役立つ良書です。

中山裕木子先生は、工業英検1級を首位で合格し、文部科学大臣賞を受賞しています。日本弁理士会の“月刊パテント”に記事を寄稿することもあり、わたし自身も中山裕木子先生の著書をいつもそばに置き、必要に応じページを繰りながら翻訳しています。

この本には、技術系英文を書くうえでのルールや表現方法が、分かりやすく解説されています。

技術系英文ライティングのキーワードは、

Correct (正確に書く)
Clear (明確に書く)
Concise (簡潔に書く)

この“3つのC”が基本であることは、技術系英文ライティングにたずさわる人であれば知っているでしょう。

本の内容は、この“3つのC”を満たすように、正確に、明確に、簡潔に書かれており、読者が迷子になることがありません。さすが技術系英文ライティングを説明する本です。

また、ほかの技術系英文の本と違い、大きめの読みやすいフォントで書かれています。明快な文章で、技術系英文ライティングのポイントを絞って解説しています。

英語は好きではないが、仕事上どうしても技術系英文を書かなくてはいけない、そんな人にとっても、フレンドリーな1冊だと思います。

例文や練習問題も数多く載っており、そのすべてが技術系例文なので、実用的かつ実践的です。

初めてわたしがこの本を読んだときに特に印象に残り、また、今でも時々読み返すページがあります。それは、【前置詞】を解説しているページです。

たとえば、次のような例文があります。

試料を真空下においてください。

“真空下に”の『に』を、どの前置詞で表現すべきか。”in”を使うのか、”under”を使うのか。どちらがより適切なのか。

Place the sample in a vacuum.
Place the sample under vacuum.

このような疑問が浮かぶと、【前置詞】を解説しているページを読みます。

そこには、それぞれの前置詞が本来もっている基本の意味が、イメージ図で表されています。

たとえば、日本語で“Aの上に”と書いてあったとします。その『上に』が、”on”なのか、”over”なのか、”above”なのか。

そんな疑問も、このイメージ図を見れば一目瞭然です。

このように、「技術系英文ライティング教本」は、実務上感じる何気ない疑問を明快に解説してあり、実用的です。

でも、なにか目新しいことが書いてあるのでは?と期待して読むのであれば、少々物足りないかもしれません。

そういう意味では、技術系英文ライティングの熟練者にとっては既知のことが書いてある、それも事実です。

熟練者にとって、この本は、基本に立ち返る教科書のような位置づけになるでしょう。

技術系英文を、正しく、明確に、簡潔に書くことを希望する人へ。

1冊目の教科書・基本書として、まずは「技術系英文ライティング教本」を活用し、必要に応じて他の参考書を読む、このスタイルをお勧めします。

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