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封印したドリカムを聴く、年に1度の夜
年に1度だけ、ヘッドホンをつけてドリカムを聴く夜がある。それが、きのう。7月7日、ドリカムの日だ。
7月7日は七夕だが、ドリカムの日でもある。これは、わたしがそう呼んでいるわけではなく、日本記念日協会が正式に認定している。
ドリカムの1曲『7月7日、晴れ』。それが、7月7日はドリカムの日、と認定された理由の1つ。
また、アルバム『SEVENTH OF JULY SUNNY DAY』が1996年に発売されている。かつてファンだったわたしは、このアルバムまで全て持っている。
でも、このアルバムを境に、わたしはドリカムを封印した。
♢
ある曲を聞いただけで、その曲と紐づいた記憶が波のように押し寄せる。そんな経験はないだろうか。
ふだんは記憶のひきだしの奥のほうにしまいこんで、鍵をかけている思い出。
それなのに音楽というものは、その鍵をいともたやすくカチャリと外し、脳内をその時の記憶でいっぱいにする。
メロディーや歌詞がトリガーとなり、その曲と紐づいた感情が、記憶のひきだしのすきまから、モワモワと立ちのぼる。ドライアイスの白い煙みたいに。
いまどこで何をしているかなんて全くおかまいなしに、当時の記憶をよみがえらせるんだ。それも、鮮烈に。
ドリカムは、わたしにとってそんな存在。思い出のトリガーになる。だから封印した。
1988年のデビュー当時から、ドリカム1択だった。でも、1996年のアルバム『SEVENTH OF JULY SUNNY DAY』を最後に、それ以降は聴かないようにしている。
年に1度、7月7日のドリカムの日を除いては。
きのうは、その年に1度の日。ドライアイスの白い煙みたいに、あの恋の記憶が立ちのぼった。
♢
あのころ、あなたと一緒に過ごす時間、いつもドリカムの曲があった。付き合いたてのころ、洋楽好きのあなたは
「え?ドリカム?あんまり聞いたことないな。オレ洋楽ばっかりだし。でもまぁ、カミーノが聞きたいんならいいよ」
そう言ってくれた。
あの日から、いくつもいくつも、二人でドリカムな日を過ごした。
♢
蒸し暑い夜、花火を砂浜でするために二人乗りした自転車。カゴには、ドリカムのCDをセットしたラジカセと、キンキンに冷やしたビールを入れて。
花火と、ビールと、砂浜と、ドリカム。そしてわたしたち。
サンダルに入りこんだ砂は熱を帯びていて、サラサラしていた。花火の煙のむこうに見えたあなたの笑顔が、無邪気だったな。
あなたのアパートで、プレイステーションで遊んだ日。ポテチで口をモゴモゴさせながら、油と塩のついた手でコントローラーを触って、あなたに叱られた。
ごめん・・・とうつむいたら、その気まずさをなんとかしようと、あなたはドリカムを口ずさんでくれたっけ。
夏休みの海水浴。張りきって出かけたのに、道に迷い続けた車の中。車を路肩に寄せ、地図のページをパラパラめくるあなたを見て、やれやれと思ったわたし。車から出て、歩いている人に海への道を聞いた。
戻った車内はクーラーがひんやり効いていて、カーステレオからはドリカムが流れていた。
紅葉ドライブのときは、運転するほうが好きな曲をかけていいルールにしたね。わたしはドリカムが聴きたいから、なかなか運転を交代しなかった。
あなたは助手席をたおして伸びをしながら、「運転しなくていいから楽チンだ」と笑った。わたしが“そら”で歌っているドリカムの曲に合わせて、歌詞カードを見ながら一緒に歌ってくれたね。
そういえば、ほら、あなたの田舎のご両親に会いに行ったでしょ。付き合って2年目の夏と3年目の夏に。あれは長距離だったね。片道10時間くらいのドライブ。
ご両親に会う緊張で口数の少なくなるわたし。少しでも緊張をほぐそうと、ドリカムの曲ばかりを集めたスペシャルなカセットテープをプレゼントしてくれた。曲名も全部あなたの手書きで。
「これを聴けば大丈夫。緊張しないよ」って。
あれ、すごく心強かったな。カセットテープには、12,3曲。あの曲名を見たとき、あなたのことを運命の人かも、って思ったんだから。
だって、たくさんのドリカムの曲からあなたが選んだのは、どれもわたしの『とびっきり』。
あぁ、ちゃんと分かってくれてる。そう思って胸がじんわりしたのを、今でも覚えてる。
あのカセットテープ、まだ持ってるよ。とっておきの場所にしまってる。年末の大掃除のときにとりだして、久々にじっくり見た。あなたの筆跡、懐かしかったな。
でもやっぱり1番忘れられないのは、あの曲。ほら、2回目にあなたの田舎に行ったとき、田んぼのあぜ道から一緒に見たでしょ。二人して首をグッと上に向けて、口もポカーンと開けたまま。
ドーンと空に打ちあがった、大きな大きな三尺玉。
「あれは三尺玉だから、直径600メートルくらいかな。オレの田舎の自慢の花火。これを見せたかったんだよね、カミーノに」
あまりにも大きな三尺玉は、雲のない夜空に大輪の花を咲かせ、そのあとは、静かに降るように夜空から消え落ちた。
その言葉を聞いたとき、大きな花火の輪郭がなぜかジワッと滲んで、上を向いたまま動けなくなっちゃった。なにかがこぼれ落ちそうだったから。
二人で夜空を見上げながらうちわをあおぐと、むせかえるくらい夏草の香りがした。
その夜、大きな大きな三尺玉を思い出しながら、ドリカムを一緒に聴いたよね。お布団に腹ばいになって、イヤホンを片方ずつお互いの耳につっこんで。
人もまばらなあぜ道で、大迫力の花火。その興奮がさめなくて、何度もドリカムをリピートして、あなたを呆れされちゃったね。
♢
あなたと一緒に過ごす時間、いつもドリカムの曲があった。
でも、なにかをきっかけに、二人の思いはキシキシして、かみあわなくなった。
いつからか、二人でドリカムを聴くこともなくなった。
あの花火をまた一緒に見ようって約束したけど、かなわなかったね。
そうしてわたしたちのドリカムな日々は、終わりを告げたんだ。
♢
あの恋が終わったあと、ドリカムを封印した。
ドリカムを聴くと、ギュウギュウに濃縮されたあのころを思い出してしまうような気がして。
でも数年前から、その封印を解いてあげることにしたよ。年に1度だけ、7月7日のドリカムの日に。
7月7日だけ、ドリカムを聴く。
それは、あなたとの約束でもなんでもない。ただの、わたしだけのマイルールってやつだ。
あのころにタイムトリップをしていいよ、っていう日。年に1度のタイムトリップは、記憶のカタチを変えていく。
キラキラとまぶしすぎたあの日々は、やわらかさを纏うようになった。
あのころのキシキシした歪み、ギザギザした感情、トゲトゲした痛み、それらが少しずつ丸みをおびていく。まるで、やすりをかけているかのように。
ドリカムの封印を解くたびに、記憶のカタチが変わっていく。
そして、あのときはあれでよかったんだ、だから今があるんだなって。そう思うんだよ。
あなたもどうか幸せでありますようにって。そう祈ってるんだよ。
もしもいつかあなたと会うチャンスがあるとしたら。もしもそんなことがあるのなら、それが7月7日、ドリカムの日だったらいいな。
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思い出のセットリスト:
うれしい!たのしい!大好き!
Ring! Ring! Ring!
晴れたらいいね
go for it!
薬指の決心
未来予想図
あの夏の花火
7月7日、晴れ
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