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理容室にて

 何十年かぶりに高い理容室を利用した。いつもはタイムサービスの¥798の安い美容室に行くのだが、フェードカットを理解してくれなかったことと、久しぶりに床屋でマッサージを受けたかったことなどが理由である。
 ヘッドスパなる大きな頭巾を被せられ、それをしている間に、髯を当ってもらい、耳掃除と耳毛を剃ってもらった。そのあと、足裏とふくらはぎをマッサージ器で揉んでもらった。
 作業をしている最中に、床屋のお姉さんが、といっても50過ぎだろうが、いろいろ声を掛けてくる。コミュニケーションのつもりだろうが、どちらかというと、僕は黙って作業して貰って、マッサージを堪能したいのだが、許してくれない。
「今日は仕事は休みですか」「いえ早期退職です」「いいですね、早期退職、理容師は定年がないので、いつまでも働かないといけない」そうでもないだろう。引退は自分で決めればいい。と、ふと横で別のお客の髪を切っている理容師を見れば、どうみても70歳は超えている女性だった。
「終わりがわかっていたら、逆算しておカネが幾らいるとかがわかるから、仕事も辞められるんですけどね」なるほど、確かにそうだが、余命宣告ということになる。
 年金がアテにならなくなったこのご時世。いつまでも働かないといけないということか。
 自分の事を翻って考えてみる。お陰様で、仕事もせずにプラプラしている。病気のせいもあるのだが、経済的には成り立っている。ありがたいことである。
「でも仕事を辞めて1日、何をしているんですか。することあるんですか」
 確かに暇を持て余している。僕の特殊な事情を話す気にもならないので、「そうだね。することなくて、暇してる」とだけ答えた。相手にすれば羨ましい限りだろうか。それは何ともいえないか。
 フェードカットもすっかり決まって、精算である。¥5,500。いつも行くところの7倍である。次行くかどうかはその時考えよう。

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