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真実の眼(快傑サッソー)

 とあるアラブの大金持ちの屋敷に場違いな怪しい影が2つ。まるで影だけが動いているかのごとくスルスルッと屋敷の奥へと進む。そしてついに屋敷の中央の中庭に出た。中央には噴水があるが、水は出ていない。影の一つが噴水の頭を右へ左へと動かす。すると不思議なことに噴水自体が地下へと降りていくではないか。
 もうひとつの影も噴水に飛び移り、地下へ地下へと進んで行く。
 噴水が止まったところに扉がある。その扉のノブの上にあるダイヤルを再び右へ左へと動かす。すると重たそうなドアが開いた。
 まぶしいほどの照明が陰に向かって照らされた。
「やはり東洋人は信用できない」
 アラブの服、カンドゥーラを着た数人の男の中のボスらしき太った男がいった。
 2つの影は忍者服を着た2人の男だった。覆面をしているため、顔の表情はわからない。
 突然、忍者服の間から、マジックハンドのようなものがでて、アラブ人たちを通り越し、ガラスのケースを打ち破り、1つの宝石らしきものを掴むと再び忍者の懐に戻っていった。その間0.4秒。
 忍者たちは宝石らしきものを手に入れると、確認することもなく、来た道を戻り始めた。だがすでに噴水は上に上がってしまっており、ドアは閉まっていた。
「無駄なことだよ。ここまでよくきたものだ。だがこれでサヨナラだ」
 アラブの男たちは皆拳銃を持っていた。
 瞬間、ボンという音とともに部屋は煙に包まれ、煙が収まった頃には忍者の姿は消えていた。
「馬鹿な、逃げられるはず等ないはずだ」
「換気扇が取っ払われています」
「換気口をつたって逃げたということか。追いかけろ。外の人間にも伝えろ。そう簡単に逃げられるはずはない」

「これ、本物かな」
 安全なところまで逃げた忍者2人は平服に着替えて車で逃走していた。
「わからんな、偽物を掴まされたかもわからん。いずれにしても俺たちにはわからんさ」
「無駄な仕事にならなければいいのだけれどな」
 忍者2人は30代前半くらいの男性2人組であった。筋骨隆々のわりには、細い体つきの2人は、いかにも修行を積んできたという体つきをしている。無駄な肉がなかった。
 色黒で少し背の低いほうが甲賀忍者の末裔、柘植子猿、コードネーム、ホウである。もう1人の方がマジックハンドで宝石を奪った男、噴水と金庫室のキーを開けた男、コードネーム。サッソー。名前は誰も知らない。さして特徴のある顔でもない。忍者としては最適だろう。
 2人はある場所まで行くと変装して空港まで行き、アメリカNYまでの飛行機に乗った。そしてNY5番街まで行くと、数人のアメリカ人と会って話をして、例の宝石を渡した。既に2人のスイスの銀行口座には今回の報酬は入金されていた。
 相手はCIAだった。これから何が起こるのかはもう仕事を終えた2人には関係のないことであったが、もしあれが偽物であったならば、もう1回取りにいかなければならない。
 セントラルパークに近いマンションの1室で2人はのんびりしていた。奴らからの結果連絡があるはずだった。
 果たして電話は鳴った。サッソーが出た。
「おめでとう、本物だった。君たちの任務は終了だ。また何かあったら頼むよ」
 サッソーは笑顔をホウに見せ、ホウは指でGOODサインをみせた。サッソーも答えてGOODサインを示した。

 NYの高級バーで2人は密かに乾杯した。
「ところで今回の事件、なんで宝石なんかCIAがほしがったんだろうな」
 ホウが聞いた。
「真実の眼」
 サッソーがつぶやいた。宝石の名前である。
「なにかいわくがありそうだけれどな。俺たちには関係なかろう」
「あとはアラブとCIAで話をつけてもらえばいいさ」
 2人がそんな話をしていると、そこへ一人の美女が現れた。チャイナドレスをきた、なかなかなプロポーションの20代後半くらいの女性であった。
「おめでとう、仕事が1つ片付いたようね」
 彼女の名前は李麗春。コードネームはないか不明である。サッソーたちと同じフリーのスパイであるようだが、素性は隠したままで、常に2人に付きまとっている。2人は麗春が美人なので心をゆるしそうになりながらも、警戒は怠らない。
「ありがとう、でもなんでしってるんだい」
「しらないわよ。あてずっぽよ」
 サッソーは莞爾として麗春と乾杯した。2人ともこの店特有のカクテルだった。ホウは酒は飲まなかった。酒は命を縮めると硬く信じている。こんな稼業をしていたら、いつ誰かに襲われるかもわからないではないか。それがためにジンジャーエールを飲んでいた。
 そうしていたら早速お客さんが数人やってきて、2人を囲んだ。だがアラブ人ではない。東洋人だ。
「サッソー、ホウ。聞いてくれる」
 突然李麗春が喋りだした。        <つづく>
 
 
 


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