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デノミ(ショートショート)

 あまりの物価高に、消費者はクレジットカードで毎度、10万円単位の精算を強いられる。現金で払う人は大変だ。財布の中に10万円入れても、すぐになくなってしまうのだ。
 政府はデノミを決意した。100円を1/100に切り下げて1円にする。端数は銭を単位にする。
 1ドルが138円が1円38銭になる。当然貨幣は全部新しくなる。銀行にて交換される。政府は大慌てで新貨幣デザインを発表した。デノミをすることにより、国民の物価高への不満を少しでも和らげようとする弥縫策である。感覚だけの問題であり、実質は何も変わっていない。
 100円ショップは1円ショップになり、各小売業も売価変更に大忙しになった。社会全体が混乱した。
「デノミか湯呑かしらないけれど、それで経済がどうにかなるのかね」
「まやかしだけですよ。イリュージョンです」
「まあ見た目には値上げした感覚はわからなくはなるわなあ」
「そこで消費税増税を企んどるんだ」
「まじか」
「だって、新NISAとか非課税の投資信託を恒久化しちゃったりして、ただでさえ赤字国家なのに、どうにもならないじゃないですか」
「確かに、感覚で消費税が15%になるとこれまでは100円が115円だったのが、1円が1円15銭になる訳だから、印象が全然違うわな」
「防衛費だって増やさないといけないわけですから。これ以上、建設国債も赤字国債も出せません。もっともインフレで、国の借金も目減りしたようにはなってますけどね」
「確かに。金の価値が下落してるから、貯蓄も借金も目減りするわな」
「このインフレは計画的ではないと思いますけど、政府にとっては渡りに船ですよ」
「そうか。ところで新しい紙幣のデザインなんだが、1000円札が美空ひばりで、500円札が江利チエミで、100円札が雪村いづみってどうなんだろう。雪村いづみはまだ生きてるだろう」
「どっちみちキャッシュレスが主流になってるから関係ないですよ」
「それもそうだな」


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