見出し画像

新世界(ショートショート)

 核兵器廃絶を唱え続け、ついに世界から核兵器は根絶した。原子力発電所もなくなった。世界は核を放棄した。
 国連で事務総長が宣言した。
「2度と核兵器や原子力発電は作ることはないでしょう」
 アメリカ大統領も演説した。日本の首相も演説した。お祭りのように国連本部は会った者同士抱き合ったり握手し合ったりした。
「世界はもう核におびえることはなくなった。そして平和が訪れたのだ」
 この模様は全世界に中継され、街中も平和ムードに沸き返った。

「ニューヨークでは盛大にお祭り騒ぎのようだね」
 中国の友人が言った。
「戦争がなくなったんだよ」
 EUの友達がそう言った。
「そうさ国境もない。世界はひとつさ」
 ロシアの友が叫んだ。
 どこからかジョン・レノンの「イマジン」を歌う声が聞こえてくる。合唱しているようだ。
 これまでにどれほどの苦難な道があっただろう。どれほどの犠牲があっただろう。
 人は人同士、国境もない、肌の色も、言語の違いも、宗教の違いも、貧しいものも富める者も、もはや関係ない。理想的な世界が訪れたのだ。
 
「それでは諸君出発しよう」
 世界中にスタンバイされた宇宙船に我々は順々に乗っていった。
 核兵器は全て無意味なものとなり、全て信管を抜かれ、爆発しないようにされた。原子力発電所も全て止まった。そのままほったらかしにしては放射能が漏れる心配があったが、地球に残った者全員が他の惑星に移動することにより、地球は汚染されるかもしれないが、新しい土地で綺麗な空気のもと暮らしていけるのだ。
 既にその場所は確認されており、先発隊も行って報告がなされている。何の心配もなかった。
 地球上では核兵器や原子力発電所を作ることはもうない。ほったらかしにしていくのだから。我々は違う星で生まれ変わるのだ。
 宇宙船団は新しい星目指して出発した。地球を捨てて。
 目指す星は何万光年と離れていたが、ワープすることにより、わずか1年足らずで到着することができた。

 だが到着した星は先発隊がいった時よりも何万年とたっており、先発隊の報告とはかなりの食い違いがあった。土地は荒廃し、放射能の値も大きい。酸素は少なく、二酸化炭素が多い。ところどころに核戦争が起こった形跡がみられた。原子力発電所跡も見つかった。何のことはなかった、もとの地球に戻ってきたのと一緒だった。
「この星では暮らせない。出発した時よりひどい」
 もはや宇宙船団の燃料から食料まで残りわずかであった。
 諍いと罵りあいと、殺し合いが再び始まった。

 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?