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コンビニ強盗(超短編小説)

 

 真夜中の2時。フルフェイスのヘルメットにサングラスとマスクをして、その男?は店に入ってきた。一瞬やばい、と思って、奥にいる仲間に声を掛けた。
「怪しい客がきている」
「ああ防犯カメラに映っている」
 仲間の飯塚が答えた。丁度、明日の夜の分の弁当の発注をしていたところだった。
「どうする」
「どうするっていっても、まだ警察に連絡はできないよ。何もしていない」
「でも十分怪しいから、それだけで呼んでも良くはないか」
「あの交番のおまわりは、嫌そうに答えるだろうな」
 店頭に出るのは危険だが、店頭に出ざるを得ない。凶器を持っていたら最悪だ。さいわいレジから1万円札は抜いておいたので、もしカネをとられても僅かしかない。
 1人では怖いので、飯塚と一緒に店頭に出た。そして飯塚は何食わぬ顔で、怪しい人物の近くにより、商品整理をしながら、観察をしていた。
 そいつは総菜パンと冷蔵庫にあるサンドイッチを両方見比べていた。他に客はいない。犯行をするなら今しかないはずだが、こちらが、2人いるので、躊躇しているようだった。
 こんな真夜中にサングラスなんかして、バイクで来店するだけで、どう考えても、強盗に来たとしか見えない。にもかかわらずやつは二の足を踏んでいるようだった。2人いることがうまく抑止力になっているようだ。
 結局やつは総菜パン1つとサンドイッチと野菜ジュースをレジに持ってきた。さあどう出る。
 俺は普通の客に対してと同じように1つ1つ、バーコードをスキャンしていった。
「袋はどうしますか」
 俺が聞いた。
「いらない」
 やつが小さな声でそういった。ビビってやがる。こいつ。どうやら大丈夫そうだ。やつは自分で持ってきたビニル袋にスキャンした商品を順番に入れていった。なんだか震えているようだった。
「548円になります」
 俺がそういった瞬間、やつは、袋ごと持って、ダッシュして逃げた。自動ドア付近にいた飯塚が、奴の足をすくって転ばせた。そして素早く馬乗りになり、腕を後ろで組んだ。
「警察だ」
 そういわれずとも、俺は110番を回していた。その間、飯塚はフルフェイスのヘルメットを脱がした。ついでにサングラスも外れた。
 中年の女だった。やがてすぐパトカーがやってきた。2台、6名来た。俺の電話口の喋り方が尋常じゃなかったのを感じて、本署からきたのであろう。これが、落ち着いていると、近くの交番から来たりする。その辺、いささか芝居がかった声を出して「今、うちの店員と格闘しています」といったので、いつもより早く来た。
「盗られた物はなんですか」
 俺に警官が聞く。俺は彼女から袋を奪い、3点の商品を警察に見せた。彼女はバックヤードに連れていかれ、警察の尋問に答えていた。
「店員さん、この人、おカネ持ってないんですけど、商品はどうします」
「潰れてないので、そのまま売場に戻します」
 飯塚が答えた。
「店長さんは非番ですか」
「この時間はだいたいいません」
「それでは一旦、警察に連れていきます。バイクは置いておいてよろしいですか」
「構いませんが」
 彼女はパトカーに乗せられ、連れていかれた。
 静かになった店で、飯塚が言った。
「あいつカネもってなかったんだって」
「ああ」
「腹減ってたんだろうなあ」
「そうだろうね」
「どんな生活してるんだろうな。仕事をしていないのかな」
「人間いろいろあるよ。俺たちだって貧乏じゃないか」
「けど強盗、というか、万引きか。そこまですることはないはな」
「なんか空しくなるね」
「なんだかなあ」
 
 勤務時間が終り、外へ出ると、バイクはもうなくなっていた。警察から解放され乗って帰ったのだろう。
 何となく空しい気分が残った捕り物劇であった。

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