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ストーカー

 バブルが崩壊し、どこも景気が悪くなり、お店の接客態度がやたらに丁寧になってきたように感じたことがあった。どこも業績が悪くてせめて接客に力を入れようということなのだろう。
 レジで釣銭を渡すとき、店員の若い女性が左手を添えて、右手で渡してくれるのだが、その左手が僕の釣銭を受ける手の甲に当たって、ドキッとすることがあった。触れるどころか握ってきそうな勢いの時もある。思わずポワワワ~ンとなった。これは若い男だったら勘違いしてストーカーになってしまうんじゃないか、とさえ思った。
 実際、ホームセンターに勤めていると、ストーカーまがいの客は多かった。左手を添えたのが原因という訳ではないのだけれど、ガラケー(当時はスマホはなかった)で店員の女の子の画像を撮って逃げる奴、ラヴレターを渡して、断ると、クレームをつけてくる奴、電話番号を無理矢理渡す奴、等々。
 若い女性は怖がってレジに入るのを嫌がる。逃げる場所がないからだ。だからその男が店に入ってくると、誰かがレジを代わってあげて本人はバックヤードに逃げたりしていた。
 あるいは左の薬指に指輪を嵌めてくればいい、と提案したこともあった。大して効き目はなかったようだったが。
 だいたい客と店員が結ばれたなんて今まで聞いたことがない。幸せの黄色いハンカチでもあるまいし。
 こっちはいい迷惑、業務妨害に他ならない。よっぽどたちが悪ければ警察に連絡しようと思ったが、そこまでには到らなかった。
 それでもあいかわらず、釣銭を渡すときに左手を添える。誰がそんなこと教えたんや。
 ところが最近、コロナが流行ってから、釣銭の受け渡しは、釣銭トレーでの受け渡しに変更された。どこの店もそのようである。おかげで、ストーカーは減ったかどうかはしらない。僕は会社を辞めてしまったので。
 個人的には、ドラッグストアコスモスの若いお姉さんが、左手を添えて釣銭を渡さなくなったのが、少し残念ではある。

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