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真実の眼5(快傑サッソー)

 アメリカ合衆国大統領はこの報告を受け、急遽、ザブ島の首長と話し合いを持った。ドク・クレージーのいうことが本当なら、世界はアメリカのものになるといっても過言ではない。さいわい他国は嗅ぎつけていない。
 丁寧に専用機でもって迎えにいかせ、ホワイトハウスで会談を持った。
「是非、真実の眼は我が国に譲っていただきたい。勿論それに対する代償はお好みのままだ」
 だが首長はこういう。
「数百年前から拝んできたものをくれといわれても国民感情というものがある  。実際、あの石がきてからわが島は潤った。津波もこなくなった。おいそれと渡す訳にはいかん」
「津波については高い堤防を作ろう。もしそれでも被害があるようであれば、真っ先に駆けつける。カネに関しては毎年遊んで暮らせるだけのカネをおくろうではないか。むしろ貴国は国連にも参加していない。いっそ我が国の一部となられてはいかがかな」
「我々はあの石の危険性を十分に知っている。それを使ってはならないし、使うような脅しをかけてもいけない。やはり我が島で静かに保管しておくのが世界の為だと思う」
 会談は堂々巡りだった。大統領の甘い誘惑に首長は乗らなかった。乗る必要もなかった。あれがあれば金がいつでも手に入るし、ある意味防衛力も巨大なものになる。妙にアメリカの一部になって、腑抜けに暮らすよりもそっちのほうが、いいに決まっている。
 ただ、現在真実の眼はアメリカが持っており、返すのを拒否すれば、小さな島国としてはどうしようもなかったのである。
 会談はとりあえず平行線を辿り、明日また会談を設けることにした。
 これにはマスコミも主要官庁でさえも極秘の会談であったために、新聞やニュースで取り扱われることはなかった。
 
「そういう訳で、まだあなたたちの任務は終わっていないってことね、わかる」
 李麗春がサッソーとホウにいった。ここは李麗春の隠れ家である。セントラルパークの部屋は完全に当局に監視されている。
 確かに真実の眼を奪い返して、島に戻すことを約束はしたが、結果的に、2つともアメリカに奪われる形になってしまった。
 守護神を倒した後、アメリカ軍隊のものすごい数に囲まれて、宝石を2つとも奪われてしまったのだった。
 たとえザブ島に帰ったとしても、アメリカは執拗に真実の眼を狙うことは自明の理であった。だから無理矢理、厳重な警護体制を崩して奪い返したとしても、解決にはもはやならないだろう。
「どうするべきかな。今、両国で話し合いをやっているのでしょう。それでどうなるかだろうね」
 サッソーがいった。
「アメリカは絶対に手放さないさ。このさいはアメリカのいいなりになったほうが身の為かもしれないね」
「サッソー、それでいいの、見損なったわ」
「そういわれてもなあ。取り戻しても禍根は残るよ。いっそあの真実の眼がなくなってしまいさえすればいいんだけれど」
「なるほど、サッソーのいう通りだ。あの宝石を消してしまえばいいんだ」
 ホウがいった。
「それじゃあ、誰も得をしないじゃない」
「でもそれが地球を守る賢いやり方だと思うけどな」
 サッソーがいった。
 確かにそうだった。ザブ島が取り戻したとしてもアメリカはどんな手を使っても奪いにいくだろう。もし強硬に兵を送り込んだら、数百人しかいない国だ。数分で決着はつく。あの石の奇跡を使う時間さえ与えてくれないだろう。
「でも真実の眼がないと、ザブ島は金も産出できなくなるし、やっていけなくなるんじゃない」
「それは仕方ないね。漁業でも農業でもやっていくしかないだろう」
「それは既にやっているけれど、それだと貧乏な田舎町と一緒になるだけだわ。それは絶対にできないと思っているはずよ」
「それならアメリカのいわれるままにすればいい。それから宝石を2個とも奪い葬りさるしかなかろう。それだったら、たくさんカネを出す国が出てくるはずだぜ」
 サッソーがいった。
 奇しくもザブ島首長が選んだ道と同じであった。

 アメリカは遂に真実の眼を2つとも手に入れた。これから実験を通して、どれだけの能力があるのかを確かめる段階に入る。まだ極秘事項であった。
 サッソーとホウは各国の特にアメリカに敵対する国の諜報機関に情報を流し、その計画の抹殺の依頼を取り付けた。
「何百ドルってカネになるぜ」
 ホウがいった。
「さてどこに今、真実の涙があるのか探すのが先だな」
 サッソーがいった。
 もはやエリア79にはないはずである。
「最近妙に秘密っぽくやっている基地はどこだ」
 ホウがいった。
「実はもう情報は入ってきてるの。首長のたってのお願いで、ザブ島で研究をする予定になっていて、機材とかを今たくさん運んでいるの。あれじゃあすぐばれるわね」
「なるほど灯台下暗しってやつかな。そこなら味方もたくさんいるだろう」
「早速我々も現地に向かうとするか」
 サッソー、ホウ、麗春は一路、ザブ島へ向かうのであった。
                       <つづく>


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