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私は物になりたかった

私が物だったならば
学校にも行かなくてよかったし
人から急かされることも
身の丈以上に期待されることもないのだろう

何もせずただぼーっと物を見つめられること
とても幸せだと思う
どんな時でも物は綺麗で素朴で
ニッコリと笑いかけてくれたり
ただ遠くを見つめていたりする

その姿は
ここに君がいてもいいんだよって言っているみたい
どんなに私が汚い存在でも
それでもいいよって言ってくれているみたいで
優しいなと思う

二人っきりになると
物は話しかけてくる
さっきはびっくりしたねーとか
我慢できて偉かったねーとか
こっそり内緒話しているみたいで嬉しかった

心がぐしゃぐしゃになって
たくさん泣いた後でも
景色は 物は
飽きれるぐらい綺麗だ
今まで泣いていたことがバカみたいに思えるくらい

物と同じぐらい優しくて暖かい存在だった犬が
死んでしまった
物の暖かさを感じられなくなって
世界中で一人ぼっちになった気がしたよ

10年以上一緒にいてくれて
自分の性別を肯定できたのも
どんな私でも信用して愛してくれたことも
本当に嬉しかったんだ 

犬が死んでしまってから3ヶ月間が驚くほど長くて
人が怖くて堪らなくなって
自分の悲しみにも気がつけなくて
ただひたすら何かをすることで自分を埋めようとしていた
心も体もボロボロだった

辛かった事ばかりフラッシュバックして
今までどうやって生きていたのか分からなくなって
人生の何もかもが無駄に思う
でも、ふと見たポストカードがすごく綺麗に見えたんだ

ゴッホの描いたローヌ川の星月夜

心を奪われるぐらいの美しさがあった
この絵が美しく見える限り
生きてゆけると思えたんだ

この絵を描いたゴッホはどれだけ孤独の中で生きていたのだろう
その孤独の中でさえ強い意志を持って絵を描くゴッホに憧れた

それから、これまでよく眠れなったことに気がついて病院へ行った
先生は
「犬が亡くなって悲しいのは、貴方が優しいからです
悲しむのは悪いことではない 悲しみ切ったらいずれスッと大丈夫になります

貴方は作るのが得意だから、亡くなった犬を作ってみたらどう?
きっと気持ちのこもったいいものが完成すると思いますよ」

とのことだった
先生には沢山お心遣いいただいて申し訳ない気がした

先生の言葉で気がつけたことがある
私の中で渦巻くドス黒い過去や感情も物を作ってしまえば薄まっていくということ
この苦しさや寂しさを放置しないで、形に作ってしまえばいい
今まで物を作るのに人目ばかり気にして来たけどもういいやと思えた

単純なことに気がつけなかった
そうか この胸の痛みは
君からの暖かさを失った痛みだったんだと
君が死んでしまったからって、もらった暖かさは消えない

君が信頼していた人を私も同じように信じてみるよ
君が私を愛してくれたから、自分のことを大切にしてみるよ

言葉や歌、絵ではうまく叫べないから
作品を作って叫んでみる
私はここにいるよって

この先にどんなことがあっても
生き続けるよ
君のこと少しでも長く覚えていたいから
君からもらった暖かさを私も誰かに渡せたらいいな



ここまで読んでいただきありがとうございました

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