現実

 ある日の朝のこと。

 僕は大学の友人が来るのを家で待っていた。

 仕事ばかりなので、たまには泊りがけでどこかに旅行にでも行きたい。そんなことを思ったのか、僕は荷物を準備していた。

 数日分の衣類や洗面用具。懐中電灯と地図。スマホの充電器など諸々の大量の持ち物を、リュックサックが大きく膨らむくらい詰め込んだ。

 ここ最近は旅行に行けていない。ましてや泊りがけの旅行となると、学生の時以来になる。

  思い切り息抜きをしよう。久々の友人との旅行に、僕は胸を躍らせていた。 

 唐突に玄関のチャイムが鳴った。

 扉を開けると、友人が玄関前に佇んでいた。どうやら荷物の準備に夢中になるあまり、集合時間を忘れてしまっていたらしい。

「何してんだ、まだかよ。」

 しびれを切らしたようで、友人は口を尖らせた。。

「悪い、もう少し待っててくれ。あともうちょいで荷物がまとまるから。」

 大方、準備は終えたがハンカチなどの細々したものを、まだ入れていない。友人を宥めながら、僕は急いで荷物をまとめた。

「せっかくの旅行なんだから、早めに準備しとけよ。」

 忙しなく動いている僕の様子を見て、友人が呆れ口調で窘める。

 強い口調で僕を窘める友人だったが、口の端から笑みがこぼれていた。彼もこの旅行を楽しみにしていたらしい。

「色々と行きたい場所もあるんだからさ、さっさと荷物まとめて、早く行こうぜ。」

 急かす友人を宥めながら、衣装ケースの中からハンドタオルやハンカチを数個取り出してリュックサックに詰め込んだ。

「待たせてごめん、今終わったよ。」

 そう言って、玄関の方を振り向いた。

 しかし、玄関で待っているはずの友人の姿は見当たらなかった。どこへ行ったのだろうか。

 玄関の方をよく見てみると、大きな鉄の塊のようなものが見える。恐る恐るそれに近付いて行った。

 近づくにつれて、その鉄の塊に輪郭が明確になっていく。自動車業界で働いている僕には、見覚えのあるものだった。

 フロントドアとリアドアを隔てる柱のような部品。消えた友人の代わりに佇んでいたのは、センターピラーだった。

 そのセンターピラーは、何の支えもないのに微動だにせず直立していた。

 突然消えた友人と唐突に出現したセンターピラー。そして、相当な重さのはずのそれが直立不動で佇んでいる。

 なんだこれ。不可解な状況の連続に僕は困惑した。

 状況を整理しようと目をつむり、考え始めた。しかし、答えが見つからない。挙句の果てには、思考を遮るかのように、けたたましい音が頭の中に鳴り響き始めた。

 

 目を開けると、僕はベットの上に仰向けになっていた。

 妙な夢を見てしまった。少し不快な気分を抱えていた。

 スマホのアラームが鳴り響いている。スッキリ目覚めたいと思い、海外のバンドの曲をアラームに設定していた。

 ベッドから起き上がるのが億劫だった僕は、寝転んだままそれに手を伸ばし、アラームの音を止めた。

 夢の中に出てきた友人は、大学の時に何度か遊んだことがあった。今は疎遠になっていて、どこで何をしているのかは知る由もない。おそらく、向こうは僕のことは覚えてないだろう。

 お前には仕事しかない。

 そう言われているかのような夢だった。

 どこか不快な気分を抱えたまま、一階へと降りて行った。

 

 

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