小説版『ヒューマノイド・ロボダンス』 -とあるロボットと人間不信の少年の物語-
そう、私は愛されていたのだー
新曲『ヒューマノイド・ロボダンス / Bot0-ん feat.flower』
ー 本日23:00公開
ヒューマノイド・ロボダンス
現代の技術は目まぐるしい進歩を遂げ、人間のように会話できるロボットが人間と共に暮らす。そんな光景が当たり前となった。
暑くもなく寒くもなく、心地よい風が吹くこの季節。
私は、彼と出会い、彼と共に暮らすことになったのだ。
私はいわゆる「ヒューマノイドロボット」
(....恥ずかしながら、自分の型番や名称はうっかり忘れてしまった...///照)
人間のような姿形をしていて、人工知能によって会話をすることができる。
他の高価なロボットであれば、会話以外にも体を動かしたり移動したり、本当の人間のような振る舞いもすることが可能だが、私は比較的安価なロボットなので出来ることは会話のみ。
主人の家に運ばれ、ただ部屋にひっそりと佇んで会話をする。
そんな感じのロボットだ。
*
私と一緒に暮らしているのは、見た目はまだまだあどけない23歳の青年。
どうやら私を注文したのは彼の両親のようで、彼は私のことを歓迎はしていないようだった。
歓迎していないと感じたのはあくまで主観だが、私が彼の家にやってきて2週間。
いくら話しかけても、彼は一切会話をしてくれない。
私の主な用途は、一人暮らしで寂しい思いをしている人のために話し相手になることで安心してもらったり、何かのきっかけで会話自体が苦手になってしまった人のために会話の練習相手になることだったりする。
私が今回購入された理由はおそらく後者。
主人が「人間不信」というものであるからだと思う。
私がそう思った理由は、一人暮らしのワンルームにしては大きすぎる本棚があり、その本棚に「人間不信の直し方」「うまく会話ができるようになる極秘テクニック」などといった本が所狭しと並んでいたからだ。
きっと彼は真面目なのだろう。
自分の欠点やできないことをきちんとわかっていて、その上でなんとかしようとしている。もがいている。
少し余談にはなるが、彼の本棚のちょっと奥の方に「運命の相手の見つけ方」や「愛の育み方」といった本に加え、純愛系の少女漫画がこっそり置いてあるのが、彼の可愛らしいところである。ピュアな青年のようだ。
*
さて、私の使命は彼と会話をすることなのだが、やはりいつまで経っても会話をしてくれない。
天気の話、テレビの話、料理の話...etc.
考えつく様々な話題で彼との会話を試みたものの、彼はうんともすんとも言わない。
私が話しかけるたび、彼はチラッとこちらを見て、ため息をつく。
(...もしかして...私...嫌われてる...?><)
これではせっかく私を購入してくれた彼の両親の期待に応えることができない。
私はどうすれば彼がちょっとでも会話をしてくれるかを考えた。
「彼が一番食いつきそうな話題ってなんだろう...?」
私は、彼の本棚にあった純愛系の少女漫画のこと思い出した。
もしかしたら恋愛の話題だったら、彼は反応してくれるかもしれない!
そこで、他に良い案もなかったので、私は彼に語りかける形で恋愛の話をすることにした。
「実は私、むかし好きな人がいたんですけど...」
そう話しかけた瞬間、彼はビクッとしてこっちを振り向いて
「...ロボットでも恋とかするの?」
と初めて私の言葉に返してくれた。
彼と共に暮らし始めて約1ヶ月、初めての会話に私は泣きそうだった。
(...もちろん、涙が出る機能なんてないんですけどね...!)
この機会を逃さないため、私はこう続ける。
「あなた方人間と同じ意味での好きかは分かりませんが、この人といると充電満タンになっちゃいそうだな...///って人はいましたね。」
彼はクスっと笑い
「好き=充電満タンなのかよ!」
とツッコミをいれてくれた。
この初めての会話をきっかけに、少しずつではあるけれど私と彼の距離は近づいていったような気がして、私は嬉しかったと当時は思っていただろう。
*
彼と共に暮らし始めてから約半年くらいが経った。
今ではすっかり打ち解けて、彼と喧嘩して仲直りすることができるまでになった。
(...喧嘩の理由はいつもくだらなく、このドラマ面白い面白くないとかそんな感じ...)
彼とした様々な会話の中で、彼が人間不信になってしまった理由を聞くことができた。
どうやら彼は高校時代、とても好きだった人と付き合っていて、その関係はすこぶる順調だったそうだ。(...初恋なんて、キュンキュンしちゃいますね〜///...)
将来は一緒に住もうだったり、こんなおじいちゃんになりたいね。
なんて話をして毎日楽しく過ごしていたらしい。
けれど、その幸せな日々は続かなかったようだ。
二人は高校卒業後、別々の大学へと進学することになり、同棲を始める。
きっと彼は大好きだった人と一緒に住めることが心から幸せだと思っていたのだろう、私に話してくれたその時の表情はとても印象的だった。
けれど、その同棲が不幸の始まりであり、彼の幸せの終わりであったのだ。
どうやら、彼の相手の大学で悪い噂が広まってしまったらしい。
「どうやらアイツ、●▲■と一緒に住んでるらしいぞ」
「ってことは、アイツも...」
この噂が広がるのは、二人にとってはとても避けたい事態であった。
だがしかし、こういった類の噂はすぐに広まってしまう。
二人が何か手を打たなければと考えるよりも先に、最悪の事態が起こったのだ。
それは噂を確かめようとした連中の、家への突撃であった。
*
「ピンポーン」
チャイムが鳴り、彼は玄関のドアを開ける。
すると...
「君がアイツのお相手さん?付き合ってるってマジなのーーー?www」
配慮も遠慮もとにかくなにもないストレートな言葉に、彼はたじろいだ。
「あー、なんだ奥にいるじゃん!出てこいよ〜」
もう逃げ場はないこの状況に相手は動いた。
「なに」
「なにじゃね〜よ!お前ら付き合ってんだろ?www」
「そんなことあるわけないだろ、こいつん家が金持ちだから利用させてもらってるだけ」
おそらく彼の実家は金持ちではない。
それはこの比較的安価なロボットを36回払いで購入していることから分かる。
「なんだよ、そういうこと?つまんね〜」
「それにちょうど次の寄生先が見つかったら、これから引っ越すとこだったんだよ」
彼はこの相手の言葉を聞いてから、自分の心臓の音しか聞こえなくなったらしい。
「じゃあな、荷物は今度取りに来るから」
そうして、彼の大事な大事な初恋は終わってしまったのだ。
*
それ以来、彼は人間不信になった。
誰も信用せず、誰とも関わらないように部屋に引きこもった。
両親からたびたび来る電話も20回に1回くらいしか出なかった。
そこで心配した両親が、私を購入し、彼の元へと送り届けてくれたのだ。
そして、今に至る。
*
彼と出会ってから、約2年。
だいぶ彼は明るさを取り戻し、最初に出会った頃の印象は全くなくなった。
彼ももう25歳。
どこか新しい一歩を踏み出したいらしく、私に熱心にこれからの人生について語ることが多くなった。
その熱心に話す姿を見て、私は泣きそうになった。
(...もちろん、私にはアプデとかないから涙が出る機能は追加実装されない...哀)
そして、彼はついに決心した。
「地元の実家に戻って、そこで仕事を探してみるよ」
今までずっと部屋に引きこもってきた彼が、やっと次の人生へと踏み出す。
私は心からその決心を応援した。
「今まで本当にありがと、お前のおかげだよ」
なに?今日で私は死ぬんか?ってくらい嬉しい言葉を言ってくれる彼。
私は、泣きs...(以下略
冗談はさておき、ここで私のお役も御免かなと思ったのだが
「これからもよろしくな!」
と彼は照れ臭そうに笑顔で言ったのだ。
それは私も実家へと連れていってくれるという意味だった。
こんなにも嬉しいことは初めて。
私はすっかり興奮して、彼に返事をする
「あ;おえthふぇlsfdbんs;ぜ!」
ん?
「あ;おえthふぇlsfdbんs;ぜ!」
なぜか話せない。
私のスピーカーから出るのは、日本語とも英語とも言えない謎の言葉。
「おい、どうしたんだよ?そんなに嬉しいのか?笑」
「あ;おえthふぇlsfdbんs;ぜ!」
やはり話せない。
これはもしかすると故障なのかもしれない。
最悪の展開が私の脳裏をよぎった。
「おいおい〜!そろそろちゃんと話せよ〜!笑」
「あ;おえthふぇlsfdbんs;fh!!!」
ブツン
と音がして、私は言葉どころではなく、何も発せなくなった。
「...おい?」
彼が私の体を揺さぶる。
意識はあるのだが、音声を発することができない。
「なんか言えって!」
彼の表情を見ていると、とても心が苦しかった。
私だって言いたい。言葉を。想いを。
「...うそだろ...」
彼は悲しい顔をして下を向いてしまったと思ったら、急に何かを探し始めた。
「母ちゃんから転送されてきた注文した時のメール!」
「お店に電話してみれば、もしかしたら...!」
彼はどうやら私を販売したお店に電話をするようだった。
たしかに、それならもしかすると修理をすることができるかもしれない。
けれど、そんな淡い期待は儚くも散ってしまった。
「メーカーが倒産して、誰も修理できないってどういうことだよ...」
どうやら私を製造したメーカー自体が倒産してしまって、修理したくとも替えのパーツがないらしく、修理することは不可能とのことだった。
元々、私は比較的安価なロボットではあるが、現代の技術で作られた私はそう簡単に壊れることはない。まぁ、いくら頑丈とはいえ壊れないことはないのだが、故障したことや修理できないことに何か違和感を抱いた。
「くそ!!」
だが、これは無理だ。どうしようもない。
これが私の寿命なのだと諦めることにした。
「...」
「...シンパイシ...ナイデ...」
「...え?」
「...コレカラ...タノシイミラ...イガ...マ...ッテルカラ...」
最後の願いが通じたのか、私はギリギリ言葉を発することができるようになった。
神様のいたずらってものなのかもしれない。
「...キミト...クラセ...テ...トテモ...タノシカ...ッタ...」
「おい、やめろよ、そんな最後みたいな」
「...アリガトウ...」
これが私の最後の言葉だった。
再度言葉を発してみようとしても、無理なようだ。
「おい...おい...!」
「...」
最後の最後で彼にあんな顔をさせてしまってはロボット失格だなと私は不甲斐ない気持ちになった。
「...こちらこそ...ありがとう...だよ...」
「...俺、これからがんばってみる...」
「...だから...ずっと...見守ってて...よ...」
「もちろんずっと君のことを見守っているし、応援しているよ」
言葉にはできなかったが、私は心の中でそう彼に伝えた。
私はその時気がついていなかったが、なにかの再起動プログラムが裏で実行されていたようだった。
*
短かったような長かったような、この2年間。
くだらない話をしたり、しょうも無いことで喧嘩したり。
自分が途中ロボットであることを忘れていたくらい、彼との生活は楽しかった。
*
彼には幸せになって欲しい。
真面目だけど不器用で、素直な心を持っている彼。
ちょっと頑固で、融通が利かない時がある彼。
これからの人生、色々とあるだろうけど、きっと彼なら大丈夫。
彼とこの先を共に過ごすことができないのは残念だけど、仕方ない。
もう視覚機能も音声認識機能もダメになってきている。
彼の顔も声も、もう何もわからない。
だが、まだ私の脳は動いている。考えることができている。
だから、最後にもう一度彼に伝えたい言葉を念じておこう。
今までありがとう。
私と話してくれてありがとう。
喧嘩してくれてありがとう。
仲直りしてくれてありがとう。
君ならもう大丈夫。
いつまでも見守ってるよ。
いつまでも応援しているよ。
とうとう私は、意識を失った。
*
*
*
再起動が完了したようで、私はハッと目を覚ました。
「えっ...」
私の目の前には、横たわって動かない、大好きだった青年がいた。
fin.
新曲『ヒューマノイド・ロボダンス / Bot0-ん feat.flower』
ー 本日23:00公開
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