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笑顔をなくしたクオッカ ーbosyuキャラクターに物語を授けよう企画vol.4

これは「bosyuのアイコン用動物キャラクターに物語をつけて」にご応募くださったユーザーさんが創作してくれた、クオッカワラビー↓の物語です。

アセット 6


笑顔をなくしたクオッカ

「きゃー!かわいい~♡」
「おー、ホントに笑ってらー」

オーストラリアの西の端。エメラルドグリーンの海の向こうに『ネズミの巣』と呼ばれる島がある。そこは、世界で一番幸せな動物・クオッカワラビーに会える数少ない場所。世界中からやってきた人間たちの楽しそうな声やカメラのシャッターを切る音が聞こえてくる。

これは、その島に暮らす、ある一匹のクオッカワラビーの子どもの物語である。


***


ある朝、クオッカはペパーミントが群生する湿原で、空っぽのお腹を満たしていた。

「あ、あっちにいたよ〜」

人間の子どもの声に、クオッカはひょいっと顔をあげた。島を訪れた家族連れが離れたところから、こっちを指さしている。いつもなら歓声が上がるところ。クオッカはその声が聞きたくて何度も顔を向けちゃうんだ。

でも、その家族はこちらをチラチラ見ては、小声でひそひそ話をするばかり。いつもと違う薄ーいリアクションに、クオッカは「ん?」と首を傾げた。

しばらくすると今度は、大きなリュックを背負ったカップルが近づいてきた。女性の方がクオッカの横にしゃがんだかと思うと、スマホをこっちに向けてポーズを取った。観光客の間で『世界一幸せな動物とセルフィー』するのが流行っているらしい。

四角い物体の中にぼんやりと「仲間の姿」が見える。クオッカはそれが不思議で、もう少し近くでじっくり観察しようとした。でも、女の人はすぐにスマホを下ろしてしまい、作戦失敗。そして、ガッカリした声で連れの男の人を呼んだ。

「ねえ〜、ちょっと来て〜。このクオッカワラビー、なんか変だよ!?」

男の人はクオッカを頭のてっぺんから足の先まで、まじまじと見つめた。

「ホントだ。ぜんぜん幸せそうじゃないな。これ、本当にクオッカなのか?」
「なんかショック〜。せっかく何時間もかけて来たのに」
「まだ他にもいるさ。あっちに行ってみようぜ」

二人は写真も撮らずに行ってしまった。

ねぐらに戻る途中、売店の前で店主のオヤジが掃除をしていた。

「なんだ、お前。見慣れないヤツだな。しっしっ、店が汚れる!あっち行け!」

ほうきを振り回すオヤジの恐い顔に驚いて、一目散でねぐらのあるトンネルに逃げ込んだ。

「ど、どうしたのー、その顔・・・」
「顔って?ぼくの顔がどうかしたの?」
「かわいい笑顔が・・・き、消えちゃってる・・・」

お母さんクオッカは帰ってきた子どもの異変にオロオロ。

クオッカの顔にあるのは、真一文に結んだ唇と泣いているような怒っているような目元。昨日までの、かわいらしく開いた口や、そこからのぞく小さな前歯、つぶらな瞳は影も形もなくなっていた。

「ぼくのニコニコ笑顔、どこかに行っちゃったの?だから、みんなに嫌われちゃったの?」

笑顔が消えた小さな顔に、涙がポロポロとこぼれ落ちた。『世界一幸せな動物』は『世界一不幸な動物』になってしまったようだ。


翌朝、辺りがまだ薄暗いうちに目が覚めたクオッカ。

「ぼく、笑顔を取り戻す方法を探してくるよ」

小さなクオッカは島を後にして、冒険の旅に出発した。


***


まず向かったのは、ユーカリの森。

細長い緑の葉の間から朝日が差し込んでくる。立ち昇る霧に光が反射して、そこかしこで煌(きら)めいている。ユーカリの爽やかな香りとその幻想的な景色が、クオッカの不安な気持ちを少し和らげてくれた。

明けていく空をバックにして、コアラが高い木の上で食事中。クオッカは、精一杯の声を張り上げた。

「すみませーん、コアラさーん。ぼく、笑顔を失くしちゃったんです。どうやったら取り戻せるか、知りませんか~?」

コアラは、声の主を探してキョロキョロとあたりを見回した。

「こっちでーす。クオッカでーす。下にいますよー!」

コアラは、自分を見上げる小さなクオッカワラビーに気がついた。その顔は、悲しんでいるような怒っているような、なんとも言えない顔だった。

「笑顔の取り戻し方?そんなの知らないわぁ〜。私たちコアラは、この国でいっちばんの人気者でしょ。笑顔なんてなくても人間たちはキャーキャー喜んでくれるもの〜。ありのままよ、ありのまま♡」
「え?カンガルー?あの人たちはダメよー。全然やる気ないもの~(笑)。そのくせ、自分たちがオーストラリア代表とかって勘違いしちゃってね~。あ、ちょっと話がそれちゃったわね。とにかく、他あたってくれる?」

一方的にまくし立てるコアラに圧倒されて、クオッカはそれ以上言葉が出てこなかった。

「クカカカカカカーーー」

遠くからワライカワセミの鳴き声が響いてくる。

ぼくのこと、笑っているみたいだ・・・。クオッカは、しょんぼり肩を落として、とぼとぼと歩き出した。


***


次に向かったのは、広い広い草原。見渡すかぎりの緑の絨毯がサラサラとゆれている。真夏の太陽にさらされた身体に涼やかな風が通り過ぎていく。

風に誘われてピョンピョン飛び回っていたら、目の前に一羽の大きな鳥が現れた。飛べない鳥、エミューだ。

自信ありげに長い首をピンと伸ばして、すくっと立っている。その姿はまるで、どこぞのご令嬢のよう。クオッカはその雰囲気に少し怖気づく。

「あの、、ぼく、笑顔を失くしちゃったんです。一緒に探してもらえませんか。。」

遠慮がちに声をかけるも、ツンと澄ましたまま、反応がない。しばらく待ってみたけど、エミューはあさっての方向を向いて黙りこんでいる。まるで、そこに誰もいないかのように。

はあ・・・。クオッカはまたしょんぼり肩を落として、とぼとぼと歩き出した。


***


次に訪ねたのは、カンガルーの住む茂み。

太陽がちょうど真上に昇っていて、暑さで溶けてしまいそうな時間。最近まったく雨が降らないからか、足元の土はカラッカラに乾いて、ひび割れまである始末。

カンガルーたちは木陰に身を寄せ合って、だらりと寝そべっていた。

「あの。。。」

クオッカは恐る恐る声をかけた。一番大きなカンガルーが片目を薄ーく開けて、ジロリとこっちを一瞥する。でも、すぐに目を閉じてしまった。

クオッカは凹みそうになる気持ちを抑え、出せるだけの勇気をふり絞って聞いてみる。さっきよりもう少し大きな声で。

「あの!! ぼく、笑顔を落としちゃったかもしれないんです。どこにあるか知りませんか?」

さっきのカンガルーが面倒くさそうに、ほんのちょっとだけ瞼を押し上げる。

「んぁ?俺らカンガルーは夜型だからな。昼間は、だいたい寝てんだよ。お前らみてぇに人間に愛想を振りまくなんてことはしねぇ。俺らに聞いても無駄っつうもんだ」

もう一度ジロリとにらむと、目を閉じてイビキをかき始めてしまった。

そうですか・・・。クオッカはまたまたしょんぼり肩を落として、とぼとぼと歩き出した。


***


「もう諦めた方がいいのかな・・・」

フラれ続けて気持ちが萎え、弱音がこぼれた。そんなクオッカを励ますかのように「チチチチチ」「ピーピピピー」と鳥のさえずりが耳に入ってきた。いつの間にか深い森に入り込んでいたらしい。進行方向に小川を見つけ、いったん休憩することにした。

苔むした倒木に座って、さやさやと流れる川面をぼーっと見つめるクオッカ。カンカン照りの中を歩いてきた身体に、水辺のひんやりとした空気が心地いい。

目の前の水面が波打ったかと思った瞬間、ずんぐりむっくりの動物が「ぷはっ!」と水しぶきを上げながら顔を出した。顔の中央にある平べったいくちばしに、クオッカは思わず息を飲む。

「やあ、若いの。わしはカモノハシじゃ。お前は誰じゃ。そこで何をしておる」

カモノハシのおじいさんは、初めて見る小さな動物に興味津々。

「こんにちは。僕はクオッカです。❝世界一幸せな動物❞って呼ばれているんですけど・・・」

クオッカは、これまでの旅のことを話して聞かせた。

こんな小さな動物が故郷から遠く離れたところまで、たった一匹で旅してきたのか・・・。カモノハシのおじいさんは、この勇敢な冒険者を何とかして助けてあげたくなった。

「わしゃぁ、笑顔なんてものはあってもなくても困りゃせん。じゃが、お前には大事なもんなんじゃろ。わしがちょっくら川底に落ちてないか探してきてやろう」

そう言うと、おじいさんは前足をバタバタさせながら水の中を潜っていった。よくよく見るとおじいさんは目を閉じて泳いでいる⁉ 目をつむったままで分かるのかな・・・と心配したけど、カモノハシには特別なセンサーがあるらしい。

おじいさんは何度も「ぷはっ!」と顔を出しては、またすぐ潜って川の中をあちこち探してくれた。でも、どれだけ潜っても、手がかりすら見つからなかった。

「役に立てなくてスマンかったなぁ」
「いえ、ありがとうございました!」

申し訳なさそうなカモノハシのおじいさんに別れを告げると、クオッカはまた歩き出した。さっきよりも足取りが軽い。見つからなかったのは残念だったけど、おじいさんの気持ちが嬉しかったのだ。


***


クオッカはオーストラリア中を探し回った。木の上、草むら、砂浜、丘の上、砂漠、ほら穴、湖。。。探しても探しても、笑顔はどこにも落ちていなかった。治し方も分からない。

冒険の旅も長丁場になってきたある日、夜空に南十字星が望む頃、人間の家がひしめき合う大きな街にたどり着いた。杉の大木が一本、空に向かってそびえ立つ家の前で、クオッカはとうとう力尽きた。「今日はもうここまでだ・・・」クリスマスツリーのような木の根本に倒れ込むと、すぐにこっくりこっくりと舟を漕ぎ出した。

すると突然、頭上から「ドタ、ドタドタドタッ!!」と、鼓膜が破れるかのような音が響いてきた。びっくりして飛び起きたクオッカは音のした方を見上げた。

『震源地』は、赤いトタン屋根の上。そこには、長いしっぽが特徴のポッサムの親子がいた。あっちへドタドタ、こっちへドタドタ。トタンの上を走り回っている。

運動会でもしているのかと思った次の瞬間、2匹はヒョイっとこっちの木の枝に飛び移ってきた。身体はずっと大きいのに、しなやかで軽い身のこなしは北半球のリスにも引けを取らない。

しっぽも使ってスイスイっと木登り。そのまま枝に巻きつけてぶら下がり、ゆらゆらブランコ。細ーい枝に飛び移り、たわむ足元もなんのその。バランスよく器用に掴まっている。楽しそうな子ポッサムの様子に、さっきまでの眠気はどこかに行ってしまった。

「ねぇ!笑顔を探してるんだけど、知らない?」

クオッカは思わず声をかける。子ポッサムはびっくりしてお母さんポッサムのところまで駆け上っていく。お母さんの背中にしがみつき、そぉっと半分だけ顔を出す。まぁるい瞳が4つ、暗闇に光る。

「マミィ、『えがお』ってなぁに?」
「楽しい時や嬉しい時には、お口が大きく開いて、端っこが上がるでしょう。目もキラキラしているでしょう。そんな顔のことよ」
「あのおにーちゃんのおくち、あいてないねぇ。キラキラおめめじゃないねぇ」
「そうねぇ。困ってるみたいね」

仲良く話をしている親子を見ていたら、クオッカの頭にお母さんクオッカの顔が浮かんできた。一度思い出したら、もう会いたくて会いたくてたまらなくなった。

「島に戻ろう」

クオッカは冒険旅行の帰路についた。


***


島に着くと、お母さんクオッカが待っていた。

「笑顔、見つからなかった。。。」

悲しそうに呟くクオッカの小さな身体を、お母さんはただギュッと抱きしめた。クオッカは久しぶりにお母さんのお腹の袋に入ってみた。ちょっと狭くなってたけど、やっぱりぽかぽか温かい。クオッカは「ふーーー」っと息をつくと、一瞬のうちに夢の中へと沈み込んでいった。

***

グ〜〜〜~~ッ!!!

「は?え?な、なんだ?(ふあぁ)」

次の日の朝、クオッカは大音量の腹の虫に起こされた。

帰ってきてホッとしたのか、大冒険で体力を使い果たしたのか。とにかくもう、お腹がぺっこぺこ。

お母さんが特別おいしい葉っぱを出してくれた。息子が帰ってきた時のためにと取っておいてくれたんだって。クオッカは小さな前歯で器用に噛みちぎって食べる。シャク、シャクシャク。その横でお母さんも一緒に朝ごはん。

なんだか温かい空気が身体中を包み込んでいる気がした。それだけで十分だと思った。

「もう笑顔なんて、なくてもいいやー」

スッキリした気持ちで、お母さんがくれた葉っぱをポリポリむしゃむしゃ。少しの間、2匹の噛む音だけが辺りに響いていた。

「あー美味しかった♬」

ふと、満足げな声をもらしたクオッカ。


その小さな顔に、満面の笑みが広がっていた。


お・し・ま・い

この物語の作者

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✍️ あかつき秋さん

リモートでアシスタント業を開始◇自分探しモラトリアム〇〇年。ひょんなことから「強み」に気づき、人生が動き出す◇終わり方より行き着くまでの軌跡を大切にしたい◇AUS在住◇不器用でもアート&モノ作りが好き!ウクレレにも挑戦中。

Twitter:@kikikistory


ーー物語を読んで(bosyuさんの感想文)

オーストラリアにお住まいの秋さんが、オーストラリアの代表的な動物であるクオッカワラビーの物語を書いてくれることになった時、とてもわくわくしました。

この物語を読み進めるうち、クオッカと一緒にオーストラリア中を冒険しているような気持ちになったのは、私だけではないはず。現地の気候や、植物の描写は、実際に住んでいる秋さんだから書けるリアルさを感じ、オーストラリアに行ってみたくなりました。

旅の途中に登場する動物たちも個性豊か。私は、川底に笑顔が落ちてないか見に行ってくれるカモノハシのおじいさんが好きです!😊

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vol.1 悟りを開いたチベットスナキツネ
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