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MBA生に人気のサーチファンド。大隈重信の子孫はどのように考え行動してBCGを経てサーチファンドを起業したのか。起業家教育No.1スクール卒業生の挑戦 Vol.6

自己紹介をお願いします

安宅祐樹と申します。母方の先祖が大隈重信で、自分も彼のように何か社会に自分の足跡を残したいという気持ちを子供のときから持っていました。色々な職業選択肢がある中で、高校生のときに、商学部に進学した高校の先輩がいて夏休みに地元に帰ってきてお会いする機会があった時、「100円のこの水を1万円で売る方法って分かる?」と言われました。『100円のコーラを1000円で売る方法』の本が発売される前の話です。全然分からなかったのですが、その先輩がマーケティングについて説明をしてくれました。こうした商売を学ぶのが商学部だよと教えてもらった時に、自分は商売で何か足跡を残したいと思い、起業したいなと考えて、起業が学べる商学部を選びました。大学を卒業するタイミングで起業するのか、会社に入るのかを悩んだ時、既に起業した先輩に相談に行ったところ、1回大手企業に入社して、どういう仕組みで社会が回っているのかを勉強してこいと言われました。経営者にたくさん会える仕事の方がいいんじゃないかとも言われ、証券営業が頭に浮かんで野村證券に入社しました。

最初の3年間は投資信託や株式などの金融商品を富裕層に販売する営業をやっていました。いわゆる飛び込み営業です。1日に100件や150件。潮を吹きながら飛び込んで、お客さまを自分で開拓し、その人たちに金融商品を販売するのです。その後1年間シンガポールに行く機会がありました。当時野村證券には3年目が終わった時の成績上位1割を、好きな国で1年間好きなことをさせるプログラムがあり、選んでもらうことができました。

シンガポールにいる人でも知らないような最北端の外れ町に行き、インド人夫婦の家にホームステイ。私の家族は日本において単身シンガポールに移りました。

シンガポールを希望したのは、当時富裕層の統計データを見ていると、シンガポールはおよそ3人に1人が金融資産を1億円以上持っていることを知りました。世界のどこを見てもそんな比率で1億円以上を持っている人がいる国はありませんでした。さらにはシンガポールには日本人起業家の集う和僑会があり、結構面白いビジネスをしている人たちがいるなと思ったことがきっかけです。シンガポールに行き、シンガポールをハブにして、東南アジアにいる起業家たちがなぜ成功しているのかを、インタビューを通して見つけたいと思ったのです。そして1年で日本人経営者に500人ほど会いました。

私も和僑会に入って、いろいろな人をご紹介いただきながら活動をしていたところ、東南アジアで同じようなビジネスをしている人でも意外とシンガポールの経営者と知り合いではないことを知ったので、東南アジアの経営者をシンガポールに呼んでマッチングできたら面白そうだと思い、日本に帰る直前にマッチングイベントを開催しました。

シンガポールでのマッチングイベントのパネルディスカッションの様子

1年が経ち会社に戻って札幌へ異動しました。ここでも富裕層の営業をやりましたが、最初の3年間と違うのが顧客層です。同じ富裕層とはいえ、中堅企業のオーナーが多く、彼らの事業をお子さんにどう承継していくかといった事業承継のプランニングをやっていました。その時に知ったことが、売上100億円で利益も数億円出しているような会社でも、事業継承に悩んでいたということです。お子さんが会社を継がないと言っているのでどうしよう。会社をたたむのか、M&Aで誰かに売ってしまうのかと悩んでいる方が多くいたのです。こういった優良企業に経営が分かっている人材が入っていけば、この会社はその土地で生きながらえるし、従業員の雇用も守れるし、取引先も守れるなと思うようになり、サーチファンドに取り組もうと思うようになりました。


そこからどのようにサーチファンドを立ち上げたのですか?

実はこの時まだサーチファンドという言葉もビジネスモデルも知りませんでした。野村證券が2016年頃に社内のビジネスアイデアコンテストをはじめ、その第1回に私は先ほどの事業継承の課題解決に取り組むビジネスモデルを提案しました。この時考えたアイデアが、今で言うサーチファンドのアイデアとほとんど一緒だったのです。

この時私の案は採択されず、会社の新規事業としては立ち上がりませんでした。ただ私はこの案がとても良いなと思ったので自分でやろうと思ったのです。自分でやろうと思った時に、これまで営業しかしてこなかったため、マーケティングもファイナンスも分からない。だからMBA留学しようと思いました。

MBAを受験する過程で、エッセイカウンセラーを雇いました。卒業後にはこういうビジネスをやりたいと書いていたところ、その方が『聞いたことのあるビジネスモデルだから調べてみる』と言って調べてくれたら、サーチファンドだと教えてくれました。こういうビジネスがもう既にあるのかと驚いたことを今も覚えています。そこで起業に強くて、サーチファンドの授業がある学校で、かつ世界経済の牽引役であるアメリカという3点で学校選びをして、バブソンに行くことにしました。ただ在学中はサーチファンドの準備はほぼせず、むしろアクセラレーションプログラムを立ち上げたり、学外のコンサルプロジェクトに参加したりしていました。

バブソン卒業後そのまま起業するのではなく、戦略コンサルティングファームへ行くことを決めていました。というのもサーチファンドで求められる素養はソーシング力と経営の課題解決力の2つだからです。1つ目は、買収する会社をどう見つけてくるかで、ここは野村證券時代に中小企業営業をやってきたことを活かせる。ただ2つ目の経営の課題解決については経験が足りないと考えていました。経営の課題解決に取り組んでいる会社はあまりなく、戦略コンサルで力を伸ばそうと考えました。3社ある戦略コンサルの中でも多くの日本の上場企業をクライアントに持つBCGを選びました。BCGなら色々な業種の様々なプロジェクトに参画できるだろうと思ったのです。そして金融機関やカード会社、工作機械メーカーなどのニッチな製造業を含め様々な業種を担当させてもらいました。中期経営計画を作ったり、生産性を上げるための制度改革に携わったりしました。入社前に思い描いていた経営レイヤーが考えるべき課題に取り組むことができた3年間でした。そして今年の1月に当初から考えていたサーチファンドを起業しました。起業したかった私が、札幌の経験で事業承継の会社を作りたいと思うようになり、この二つの掛け算であるサーチファンドがようやく形になりました。

Babson時代に苦楽を共にしたチーム(左から2番目が安宅さん)

サーチファンドの概要を教えてください

サーチファンドとは、経営したい会社を一社探し出し、投資家の支援の下に買収し、自らその会社を経営していくビジネスモデルです。まず経営したい会社を探すためには、活動資金が必要ですので、まずその資金を出資してくれる投資家を見つけてくることがファーストステップです。2回に分けて資金調達をするのですが、1回目は2年間の活動資金を出資してもらいます。その資金をもって買収先を探します。この会社を買収すると決まったら、今度は買収資金を投資家から2回目の調達をします。

買収先を探す方法は大きく2つです。1つ目は紹介。M&Aの仲介会社は日本に無数にあるので、彼らにこういう条件のこういう会社を探して欲しいと伝えて紹介してもらいます。他にも税理士や金融機関、プライベートエクイティファンドのような中小企業の事業承継案件を持っている人たちに紹介してもらうこともあります。

2つ目はダイレクトソーシング。東京商工リサーチのようなデータベースから自らリストを作って、DMやメールを送ったり、電話をしたりしてアポを取る流れです。こうした業務は野村證券時代にやっていたことです。

会社を始めて半年ほどですが、今時点でもう100社以上案件精査をして、既に1社に対して買収の意向表明を出せているので、思っていたより順調に進んでいます。もしその企業がオファーを受け入れてくれれば、2年を待たずして買収先が決まります。当然私以外にもオファーを出している会社は他にもあるので、どうなるかは分かりません。

相手先としては大きく4つの点を重視しているでしょう。まずは金額です。いくらで買ってくれるのか。そしてその会社に対してどの程度理解を示そうとしているのかというところ。3つ目はシナジー。私が買った場合にどんなバリューを提供できるのか。最後は事業戦略。買収後は新規事業に取り組むのか、既存事業を伸ばしたいのか。既存事業を伸ばすのならどれくらいの売上を目指して経営していくつもりなのか。こうした点を踏まえて買収先が決まります。


立ち上げはスムーズに進んだのですか?

今年の1月に立ち上げようと思っていたので、昨年の9月ぐらいから一人の出資者にサーチファンドをやろうと思うのだけどどうかな、どういう投資家に声をかけたらいいかなといった相談をし始めました。そして実際に動き出したのが10月末。投資家に説明するピッチ資料を作り始めました。準備自体はそんなに時間はかかりませんでした。そして11月から投資家に会い始めました。投資は4週間で集まりました。

ただそこからが大変でした。投資家との契約書を作成して投資家全員と契約を結んでいかないといけなかったので、12月はすごい量の契約書を扱っていました。元々サーチファンドの契約書の雛形は英語でしかなく、それを私が日本人投資家のために日本語に訳し、弁護士のリーガルチェックをとって、英語版の正式契約書に日本語版を参考資料として添えて投資家たちに渡しました。この翻訳作業は本当に大変でした。

また、1月1日から事業スタートする上で、12月31日までに全員の投資家から契約書に署名をもらう必要がありました。しかし12月30日に1人の投資家から、ご家庭の事情により出資ができなくなったと連絡を受けました。ファンドの組成金額を決めているため1人が抜けてしまうと、その分誰か新しい投資家を連れてこなければファンド自体が組成できません。そのため12月30日にこのような事態が発生して焦りました。結果的には既に出資を決めてくださっている投資家の方が、抜けた方の金額分を補填する形で追加出資してくださることになり、何とか事なきを得ました。


MBA生にとって人気のキャリアであるサーチファンドを目指す学生にアドバイスをお願いします

今現役MBA生9名にインターンをしてもらい、企業分析や市場分析を担当してもらっています。お願いしているのは、この会社を買収すべきか否かを分析してもらうこと。この企業を買うべきかどうかという大論点に対して、中論点としてそもそも市場が魅力的なのか、次にその対象会社の事業は魅力的か、そして買収における想定リスクは何なのかといったステップで分析をお願いしています。最初は分析に手間取っていたインターン生もフィードバックを重ねるうちにどんどんと成長していることが伝わってきます。

私が立ち上げたのは、自分で投資家を集めて全部自分でやるというトラディショナル型サーチファンドです。日本ではまだ4件しかありません。しかし、それ以外にも投資家が金融機関であるパターンがあります。金融機関の資金の下、金融機関の取引先で事業承継に困っている会社から、買収先を探し出すのです。このスタイルで取り組んでいる方は今30人ぐらいいらっしゃいます。こうした選択肢もあるわけです。

これまで働いてきた中で、今まで培ってきた人的ネットワークはどなたにもあると思います。そこをたどっていけば、資金を投資してくださる方は絶対いるものです。ですので、やるかやらないかだけの話だと思っています。

サーチファンド立ち上げのきっかけとなった野村證券札幌支店時代にお世話になった先輩とのホームパーティーの様子
(今も年に1回程度会われていて、背中を押してもらっているとのこと)



如何だったでしょうか。本サイトでは、「私も一歩踏み出してみよう」と思える。挑戦者の行動を後押しする記事をご紹介しています。
次回の記事もお楽しみに!
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