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『別冊クライテリオン「中華未来主義」との対決』を読んで中華未来主義になろう

私は加速主義とか、ロシア宇宙主義とか、そういう未来っぽい単語に弱い。だからこういうものをついつい買ってしまう。

ここ2年くらいの、雑誌『クライテリオン』に掲載された中国関連の記事や座談会に、最近おこなわれた『クライテリオン』主催のシンポジウムの記事を加えて出版したものである。

そもそも中華未来主義とはなんなのかというと、ビッグブラザー的に統制されつつも経済活動は自由放任で未来は明るい中国、というオリエンタリズムの変奏である。新反動主義ともわりと相性が良さそうだ(実際、新反動主義の源流とされるニック・ランドは上海に居を移している)。

というわけで、日本に新反動主義や加速主義を紹介した木澤佐登志の論考から読んで見る。中華未来主義という言葉を最初に使ったのは、香港出身の哲学者ユク・ホイとのことだ。そして、新反動主義らのめざす出口、技術的特異点に最短距離で進んでいるようにみえるのが中国であって、彼らは中国の躍進に心を踊らせているというわけである。

次に藤井編集長、柴山桂太氏、與那覇潤氏らの座談会を読んでみる。中国は歴史的に経済は自由放任主義であった。皇帝なり共産党なりを崇めていればあとはOKというわけで、新自由主義や新反動主義と相性がいい。ここに與那覇潤氏の「中国化する日本」という視点を導入することで面白い座談会になっている。
しかし、どうも彼らは加速主義の問題意識が理解できていないようだ。新反動主義直系の右派加速主義や無条件的加速主義と、左派加速主義はかなり異質である。そうでないとニック・ランドに近いところにいて、左派加速主義を支持したマーク・フィッシャーがなぜ自殺しなければいけなかったのかは理解できない。

かくいう私も新反動主義からなぜ左派加速主義が出てきたのか、最近までわかっていなかった。最近邦訳された『暗黒の啓蒙書』を読むまで、新反動主義が労働者の立場ともかなり近いとわかっていなかったのである。これは、実は新自由主義が労働者寄りの側面もあるとようやく気がついたためでもあるが。

それと、カリフォルニアイデオロギーと同じく、中華未来主義とか加速主義って、現世に怨念をもっているギークやエリートの思想じゃないかという指摘はそれなりに妥当と思われた。藤井編集長は以前に、コロナびびりは人とのリアルな交流が苦手という酷いことを言っていたが、それに近いものはあるだろう。

もう一つ座談会があって、劉慈欣『三体』を主題に中国の想像力について語ったもの

この小説は面白くなる要素はいくらでもあるのに、想像力が足りていないのではないか、登場人物の信念にリアリティがない、結局智子(ソフォン)が全部監視するんかい、政治的に自由に書くのが難しいのか、などなど糞味噌に批判されている。

この小説は最初はワクワクするけど途中で失速する。上記のような批判はだいたい同意できる。また、史強というマッチョなボディガードが一番まっとうで面白いキャラではないかという指摘もおおいに同意であった。

ちなみに一番おもしろかった記事は、東アジア史の専門家である岡本隆司氏のインタビュー。
日本は東アジアの中では特異というか、空気の読めない存在だったという。だから聖徳太子は日出処の天子とか書いてしまうし、鎌倉幕府は元の使者を斬り捨てるし、豊臣秀吉は朝鮮に侵攻するのである。他の周囲の国々はちゃんと空気を読んで冊封体制を構築したというのに。
この冊封体制では、ちゃんと皇帝を崇めていれば自由に貿易してよろしいという互恵関係があった。この大人の関係を破壊したのが西洋であり、後には日本である。それ以降は大人の関係を築くことが難しくなり、チベット、ウイグル、香港に苛烈な態度をとらざる得なくなっているというわけである。

このインタビューは大変おもしろかったので、なにか岡本氏の著作を買ってみようかなあと思ったのであった。

関連記事

梶谷さんのこの本は今の中国を語る上で重要らしく、たびたび引用されている。ただこの本は、少なくとも現時点では、中国の監視システムの実用性に疑問符をつけているのだが。。。

もちろん天安門事件も重要である。中国という国はバカでかく、歴史も長いので、雑誌ひとつ読んだだけでは全貌はつかめない。

この記事で読んだ本たちはそういうことを思い知らせてくれた。天安門事件に関わった人々も、いまや中国らしい自由放任のもとよろしくやっていたり、かつて奉じた思想を捨てられないまま余生を過ごしている人もいる。

今回のパンデミックでも崇高な中国人、科学大国中国、ビッグブラザーな中国などいろいろな側面をみることになった。

これからも機会をみつけて中国について学んでいかなくてはいけないなあと思うのであった。

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