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赤らんたんに灯を入れて 前夜

今、貴方には逢いたい人はいますか?

普段からずっと側にいるのが当たり前の
ように感じていた人。
本当は、本当はものすごく自分にとって
大切で、大事で、愛おしい存在であった事を
突然訪れた永遠の別れを経験して改めて
気が付くものなのかも知れませんね。

何故、あの時、あんな事を言ったのか?
どうして、あの時、謝れなかったのか?
もっと、あの時、優しくできなかったのか?

胸に残る後悔の想い。

そんな想いを逢いたい人に話せる所が
あれば貴方はどうしますか?

" 赤らんたんキャンプ場 " 

そこにあるたった一つの赤いランタンに
夜8時25分ちょうどに火を入れると
1時間、たった1時間だけの短い間だけど、
貴方の一番逢いたい人と話す事が出来る
キャンプ場。
ただ、その特殊な性質上、その区画だけ
少し離れた場所にあり、1日1組限定で、
予約を取るのが難しいのです。

意外なことに、ここを管理しているのが、
老女と20代前半の女の子なのです。

「結衣、今日の赤らんたんのお客様は
30歳半ばのお父さんと5歳の娘さんだよ」
「うん、分かってる」
明神結衣はおばあちゃんの明神希衣に
呼ばれた。
「事故かな?病気かな?
どちらにせよ小さな子がいるから
切ないよね、おばあちゃん」
結衣は焚き火用に使う薪を準備しながら
希衣ばあちゃんに話しかける。
「あんたもこの血筋を引いているんだよ、
もうそろそろ慣れないとねぇ。
お客様のプライベートには関わっちゃ
だめなんだよ」
希衣ばあちゃんに窘められる。
「はい、ごめんなさい」

明神家は代々、巫女体質の家系で、
そうした特殊能力は不思議な事に女性に
しか出てこないのでありました。
ですが女性全員が引き継ぐのかといえば、
そうでもないようです。
希衣の娘、つまり結衣の母親は
その能力が覚醒しませんでした。
母親の初衣もそれなりの修行を重ねた
のですが、能力が覚醒めることが
ありませんでした。
しかしそれは巫女体質が、という事で
一般の人よりは少しばかり上なのです。

明神家はその特殊な事情ゆえに入り婿しか
認められて来ませんでした。

そしてあの「赤いらんたん」
希衣ばあちゃんの小さい頃から明神家に
あった様で、明神家の特殊能力のせいだけ
ではなく、ランタンそのものも不思議な力を
持っているとしか思えないのです。

「あの〜本日、赤らんたんサイトに予約を
入れてます本間と言いますが…」

メガネをかけ優しそうな笑みをたたえた
お父さんと、そのお父さんに結んで
もらったのでしょう、少し左右の高さが
違うツインテールの女の子が手を繋いで
そこに立っていました。

「本間様ですね?お待ちしておりました。
こちらの区画は少しだけ離れております
ので、ご案内致します。
さぁ、こちらへ。結衣。頼んだよ」
「はい」

結衣の案内で赤いランタンのあるサイトへ
三人は向かいます。
 

ここから「赤らんたんキャンプ場」で
起きる、不思議な物語が
始まっていく事になるのです。
               つづく

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