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あったらいいなこんなアプリ。「あなたのコーデでバトルします」

「うーん」
そろそろ決めなきゃ。でもどっちがいいんだろう?


ミカは鏡の前に立っていた。着ているのは一昨年買ったよれよれTシャツと、膝が伸びきったスウェットパンツ。
手元のスマホを覗き込む。

スマホの画面には、紺のワンピースを来た自分がスマホをかざしたポーズで自撮りしている。画面下には「こっちにする!」というボタンが点滅している。
ワンピースをよく見ると、袖だけがシフォン素材、しかも水玉模様になっている。
「パッと見は地味だけど、よく見ると可愛いのよね、、、でもワンピースかあ」
普段Gパンばかりの自分が足を出せるのか、少し不安になる。

画面をスライドさせると、別の服を来たミカが出てくる。
今度は太目のホワイトパンツに淡いピンクのトップスだ。袖が大きなフリルになっている。ピンク、といっても新しい呼び名があるらしいがミカにはいまいちわからない。
こちらにも画面下に「こっちにする!」ボタンがチカチカしている。

「でも、ちょっと若作りじゃないかしら」
今年37歳になる自分は、この服が正解なのかいまいちわからない。

「ひさしぶりにランチでもどお?」

麻子からLINEが入ったのは先週だった。
結婚してすっかり遠のいていたが、以前は毎週のように遊びにいく仲だった麻子。

本当に久しぶりだ。急にどうしたんだろう?ついに麻子も結婚かな?彼氏でも紹介してくれるのかしら。
『母親』ではない予定にミカはウキウキしていた。日曜なら、と夫も快く子守りをOKしてくれた。

ミカは8歳長女と5歳の長男、2人の子どもがいる。育児は想像以上に慌ただしく産後はずっとGパンばかり履いていた。スカート派のお母さんもいたが、しゃがんだり、だっこしたりするのにミカはいちいちスカートの裾を気にするのが嫌だった。
いつかそのうち、と思っていたらあっという間に8年だ。

子どもの物が増えてきて、独身の頃の服はほとんど処分してしまったクローゼットを覗くと、ミカの洋服は普段着のGパンと安物トップスばかり。あとは『母親用』で着用する紺のスーツとワンピースくらいしかかかっていない。何より、体型もすこし変わってきた。体重はたいして変わっていないのに、だ。

久しぶりに合う同僚に、何を着て会えばいいのかわからない。

そこで最近流行りの「どっちにする?コーデバトル!」というアプリを使ってみることにした。
自分の身長とサイズ、希望のイメージを入力する。
スタイリスト登録者から、おすすめのコーデを提案してもらうのだ。
スタイリストは素人からプロまでいるが、コーデを選ばれた数だけ名前横の星の数が多い仕組みになっている。
料金はスタイリストが設定するが、実績のすくないスタイリストは500円からスタートするらしい。

ミカは主婦層に人気だという、SNSで人気のスタイリスト2名を選んだ。
この2名が「久しぶりに合う独身時代の友人とのランチ」というミカのお題にあうコーデを考え、提案してくれたのが紺のワンピースとホワイトパンツだった。

このアプリはコーデを選ばれた方が、報酬を貰うという仕組みになっている。
服は基本レンタルで、スポットだと割高だが月額だと買うよりお得になっているようだ。
コーデを気に入ればそのまま洋服を購入することもでき、提案したスタイリストにはボーナスポイントが入る。

服は3日で届くので、火曜の今夜決めないと。

無難に紺のワンピースか、一目で着てみたいと思ったホワイトパンツか。


スマホの中の自分を見る。
アプリを通して撮影したミカは同じ室内で紺のワンピースを着ている。
ふわっとした裾が女性らしい。

スライドして、ホワイトパンツにピンクのトップスを着ている自分を眺める。
「似合うかな?このピンク」
もう一度、ホワイトパンツを選んだ画面で写真を撮る。

カメラ目線の自分を見るのは気恥ずかしいが、ピンクのトップスはミカの顔色を明るく見せてくれる気がした。

どこかワクワクしている上目遣いの自分の姿を見て、
ミカは決心し、点滅するボタンを押した。

「こっちにする!」

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