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インタビュー|田中手帳株式会社 代表取締役 田中尚寛さん

平時と有事の両局面で、「誰かを助け/誰かに助けられる共助の精神」を持ち、一人ひとりが協力し合い共に学び合うことで、安全で持続可能な“防災社会”を築くことをビジョンとして設立された「防災ユニバーサルデザインブック制作委員会(以下、BUD)」。そんなBUDの代表構成員である田中手帳株式会社 代表取締役 田中尚寛さんにお話を伺いました。


TEAM BUDの設立・防災への思いを教えてください。

恐るべき紙離れ
80余年、愚直に手帳づくりに邁進してきた弊社ですが、やはり社会の流れには抗えず、手帳の需要は減少の一途を辿っています。なおも苦戦が続く手帳製造業界において弊社が生き残っている理由のひとつが「他社との差別化」です。
たとえば、弊社独自の加工である「インデックス加工(見出し抜き加工)」は手帳の端に階段状の切り込みを施す加工のことで、見たいページを容易に開ける助けとなります。

事業再定義
2012年1月に先代が急逝し、私が3代目の代表取締役に就任しました。東京から急遽大阪に戻り、引継ぎもないまま会社の舵取りをまかされることとなりました。今思い返すと1年が1か月間くらいに思えるほど中身の濃い1年でした。就任後1年を過ぎ、弊社そして印刷業界を俯瞰できるようになって危機感をおぼえました。まずは機械設備への投資、特に生産性向上に注目して省人化・標準化を進め、先ほどお話しした弊社の競争力源である「インデックス加工」にブラッシュアップを加えて更なる差別化をはかりました。これらの取り組みは一定の収益を生み出しましたが、スマートフォンの台頭を前にしては焼け石に水の状態です。売り上げがどんどん下がる中で、「手帳は社会において何をしてきたか」を考えるようになり、「手帳は備忘だけでなく人の思いや経験を書き残し未来への戒めや希望を伝えること」を社会に提供してきたのだという結論に至りました。そしてこれは「防災の啓発・教育」に通じるものでもあると感じ、「防災」への取り組みにつながっていきます。

その後、取り組んだのが自然災害伝承碑スタンプラリーです。

自然災害伝承碑スタンプラリーのTシャツを身に着けている田中社長(写真中央)

そして、現在新たな取組として防災ユニバーサルデザインブック制作を進めています。防災アプリが登場すると同時に、「発災時に通信障害がおこった」「スマートフォンの充電が切れ家族の電話番号が分からない」といったニュースをよく耳にするようになりました。デジタル面で役立つ防災アプリとあわせて、アナログの防災ブックがあることでリスクマネジメントにつながるのではないかと考え、「防災ユニバーサルブック制作委員会」の立ち上げに至りました。

防災ユニバーサルデザインブック
防災ユニバーサルデザインブックには「モノ」としての魅力が必要です。たとえば訪日外国人旅行者に配って、「すぐごみ箱へ」とならないためには、コンテンツはもとよりデザインや旅行中や帰国時に持っていたいと感じる仕掛けが必要です。そのため、デザインコンサルティングスタジオと、多方面の防災有識者との親密な連携力・ダイバーシティ防災・防災分野での発信力に長けた組織とのパートナーシップを結び、防災ユニバーサルデザインブックを創りあげて行く取り組みをはじめ、2023年9月1日(防災の日)に設立し、活動を行なっています。

楽しく学べる防災イベント「さきしま防災のチカラ」@咲洲モリーナで防災に関するアンケートをとる田中社長

普段の生活で防災について意識していることを教えて下さい。

普段の生活では、出張でホテルに泊まる際に非常口の位置を確認する習慣が身につきました。電車のホームでは白線を気にして歩いています。また、兄が車いす利用者であることから、子どもの頃より道や建物の段差に注目する癖があったのですが、そこから派生して「発災時には兄はどうやって避難すればいいのか」という視点から避難経路を見るようになりました。防災の取り組みを始めてから、「備え」とそこから生まれる「自助」の大切さを真の意味で理解できたように感じます。

「災害とは自然の一現象に過ぎない」と考えるようになったことから、空気や水のように災害を自然の一側面として受け入れ、それに備えることが防災であるという考えを持つようになってきました。このように考えるようになり、「災害を防ぐ」という言葉に違和感を感じるようになってきました。

防災手帳制作やこれからのBUDの活動に関して、ひとことお願いします!

2019年に(ママコミュ代表、レジラボ専務理事)出水眞由美さんと出会い、防災の奥深さを沢山学びました。出水さんが精力的に開催される様々なイベントに参加するようになり、防災関連の知識のみならず人との「ご縁」が増えていきました。
出水さんがよくお話される言葉の中で最も自分の心に刺さるものがあります。それは、「人は助けるとき、助けられるときがある。だから、大いに助け、大いに助けられよう!」というものです。この考え方は防災のみならず「情けは人のためならず」に通じ、人間の自然な生き方を示しているように感じます。

防災の原点「過去の教訓を書き記し、未来に備えよ」は手帳が社会に提供してきた「こと」だと信じ、老舗手帳屋の三代目として社会に役に立って行きたいと思います。

西尾レントオール株式会社の公式YouTubeチャンネルにてムックと共演している田中社長(写真右から3番目)

【プロフィール】

田中尚寛(タナカ・ナオヒロ)
三代続く田中手帳株式会社会社 代表取締役、防災士
小さい時から通称「手帳屋」で通っている。
大阪府製本工業組合 副理事長。大阪府印刷工業組合 組合員。帝塚山学院泉ヶ丘校同窓会 会長。
公私ともども、おっちょこちょいキャラでみんなに可愛がってもらっている。
無類の釣り好き。どんなに釣れなくても釣り嫌いにならない。自分が怖いくらいです。


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