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やっさん、母に告る。 ①

本編でもすこし触れているのですが、ある夏の日にやっさんが起こした事件のことを書こうとおもう。
その事件はわれら家族を震えあがらせ、やっさんの認知症は幸か不幸か親戚中に知れわたることとなった。

母が介護うつで倒れるほんの3ヶ月前。
7月の暑い日のこと。

母の姉の四十九日法要のため、母は前日に上京し、母の妹(伯母)の家に泊まっていた。わたしと姉のふたりは、当日に葬儀場のある最寄駅で母と落ちあう約束をしていた。

当日朝、出かける直前に電話がはいる。
母と一緒に葬儀場へむかっているはずの叔母からだった。

「昨日の夜に警察から電話がかかってきて、おとうさんが保護されたって。だから○○ちゃん(母の名)早朝に新幹線で家にもどったから」

ん? ん? どういうこと? 保護ってなに? え、警察?
なにがなんだか話が見えないまま、姉とわたしは葬儀場へむかった。



母方の親戚は6人兄妹でそれぞれの子供たち孫たちあわせるとなかなかの大所帯である。法要が始まる前の待合室での雑談中、叔母に話を聞いてわかったことは以下。

・深夜に母の携帯電話に着信(警察って個人の携帯電話の番号わかるんですか?これ怖くない?)
・真っ暗のなか、ずぶ濡れでふらふらと外を歩いていたやっさんを警察が保護。当初、混乱して名前がいえない。
すこし様子を見て落ちついたころにようやく名前をはなすことができた(住所は元からはなすことができません。あと携帯電話を持っていなかった…)
・転倒したのか目のうえを切っている。顔面を打っているようだ。手や足も擦りキズがある(止血などの処置はすんでいるとのこと)
・とにかくはやく身柄を引きとってほしい。母の名を呼んでいる。

母は、自分の姉の四十九日にどうしても参列したいと戻ることを躊躇していたらしいが、叔母が「早く迎えに行ってあげて」と説得し、朝イチで帰郷したとのこと。
詳細がわからないまでも、だいぶヤベェ話だということは理解できる。

その話を聞いていた親戚たちも口々にやっさんはどのぐらいまで認知症が進んでいるのか、どうしてそんなことになったのか、と思い思いのことを口にしていた。
やっさんが保護されたという安堵と、なぜそんな雨のなかをひとりで出かけたのかという混乱と恐怖。わたしの頭や胸のなかはぐちゃぐちゃだった。

誰かの勝手な憶測などにつきあっている場合ではない。

『時間をつぶすためにやっさんの話をするんじゃねぇ』



やっさんが保護されたその日、地元には台風が直撃していた。


つづきです↓


もれなくやっさんのあんぱん代となるでしょう。あとだいすきなオロナミンCも買ってあげたいと思います。