⬜︎朝⬜︎昼⬜︎夕⬜︎夜
わたしは夏がとても苦手だ。苦手というか嫌悪に近い。
夏はできるなら一歩も外に出たくないし、外に飛び出すなら16時以降。(極端)
夏はガンガンに冷えた室内で、甘々のアイスやフルーツを食べながら映画やアニメを観たり、本を読んだり、レコードを聴くのが至高だ。もちろん花も飾ろう。
故に夏の映画鑑賞率と、新しいレコードや音楽を聴きたい欲が爆上がりする。
今回のpopup@FAM では1階にお邪魔させていただいたので、1階レコ屋新人アシスタントとして陰ながら奮闘(?)していた。
お客さんが試聴しているレコードを横でこっそりと一緒に聴かせてもらったり
店主たちがお客さんに説明しているのを 「ほ〜う」と盗み聞きして、気になるものをあとでこっそりとチェックしたりした。
お客さんが、とある1枚を試聴し
「これは朝聴きます!」と言った。
これはまだ少し肌寒い季節の朝ですな〜
と、初春の朝に思いを馳せながら横で聴いていたので、なぜかわたしもうれしい気持ちになった。
店主も「あ〜いいね!やっぱり朝だよねこれ」
と言っていたのを聞いて、わたしもうんうんと大きく頷いた。
そして、この店はやっぱり良い店だと思った。
わたしはFAMのリコメンドの文章と、チェック項目の欄に絶大なる信頼を置いている。
皆さんは、あのチェック項目にはジャンル以外に、時間帯まで記載されていることにお気づきだろうか?
⬜︎朝 ⬜︎昼 ⬜︎夕 ⬜︎夜
という項目がある。
その時に聴く音楽を選ぶ際に
ジャンル、質感、その時の気分や聴く場所、季節、時間帯、気温、湿度...
ものすごく些細なことかもしれないが、そういう部分で選んでいる人間も少なからず居るのだ。
「あの項目すごくいいよね。」と言ったら
ほとんどがその時の気分でチェックを打っているという答えが返ってきたのも、ゆるっゆるで非常によかった。
もちろん映画も本も、衣類も、食べ物も飲み物も、花だってきっとそうだ。
気分や場所、季節や時間帯、空模様や湿度だって影響する。
だって爽やかな季節の朝から超陰鬱な映画を観る気なんか、もちろんしないだろう。
観てるだけで、蒸されているような気持ちになる湿度の高いアジア映画は、冬には欲さないし、6月〜8月に観たい。
花だって、真夏にふわふわパステルカラーの花を手に取る人はきっと少ないだろうし、夏の花はグロテスクで毒々しくて、パワフルで、すこしギラついてて、そこが良いのだ。(しかし花や植物の自然適応力には驚かされる)
まぁ、そう、そういうことだ。最適なタイミングというものがあるはずだ。
わたしは花の市場に行くときは朝の3時半ごろに家を出発する。
眠気はもちろんだが
市場独特のやや殺伐とした雰囲気と
良い花に出会えるだろうか...争奪戦に負けないだろうか...という不安から
わたしは自分の血を激らせるためにひとり車内でヒップホップを爆音で聴く。
ラップの内容は悪ければ悪いほど良い。なぜだか自分が強くなったような気持ちになるからだ。
しかし、四六時中極悪ヒップホップを聴くわけではもちろんない。
朝の3時半(市場前)だから聴くのだ。
そして市場の帰りにはすでに太陽が昇り、世の中の人たちは目覚め、わたしの気持ちも軽くなっている。
当然朝6時に極悪ヒップホップを聴く気にはならない。
そういうことだ。
例えば自分の場合は
早春を感じた日の朝はJudee Sillを聴くし、夏の香りが感じられる朝は、山下達郎のSPARCKLEに決まっている。
夏の黄昏時にはIsleyのsummer breezeだ。
そして熱帯夜にはきっと、ねっとりとした音が聴きたくなるはずだ。
早秋の香りを感じた日の夕暮れ時にはきっとVan Morrisonを手に取るだろうし、落葉と早い冬を感じた日にはJoni Mitchellを選ぶに違いない。
音楽でも映画でも、食べ物でも衣類でも、もちろん花でもきっと最適なタイミングというものがあるはずだ。
そういった季節の移り変わりや気温の変化、1日の時間の流れのたのしみ方があっても良いと思う。
そういうものには敏感で居たい。
次の日店主が
「これはこれからの季節にぴったりな1枚です。カラッとした西海岸の風を感じられます。」
とお客さんにおすすめしていた。なんて粋なんだ!と思った。
試聴したところ、音が流れた瞬間に店内に西海岸の心地よい風が吹き抜けた。
これからの季節に"最高の1枚"だった。
横で聴いていたわたしは
「西海岸の風が吹いている!吹いているぞ!」
と、うれしくてひとりで小躍りしていた。(心の中で)
「ちなみにニールヤングって秋になると特に聴きたくなりますよね?」と、聞いたら
「秋の、特に秋口ですね」
という言葉が返ってきたので、やっぱりFAMは良い店だと思った。