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ボクは愛に殺される⑦

【六章】
涙なんて一週間もあれば止まる。
苦しいなんて1ヶ月もあれば麻痺する。

でも、誰かが言ってた。
"死んで本当の地獄を見るのは
死んだ本人じゃない。
周りに取り残された人だ。"

過剰服薬は、止まらなかった。

一ヶ月も二ヶ月も、止まることはなかった。

『私には支えられない。ごめん』

月も、ボクの世界から消えた。

『私には病んでる人の気持ちがわからない。
同じ病んでる人の方があなたをわかってあげられるよ』

別に、わかってほしかったわけじゃない。

別に、わかってほしかったわけじゃない。
こういう絶望の淵で、味方でいてくれればよかった。

いつからだろう。

大事な人と別れても、泣かなくなったのは。


ODするようになってから小さな心の拠り所としていたSNSの"界隈"がある。

オーバードーズ界隈。
SNSではある特定の趣味や話題を持つものが集まり界隈を形成するが、ODするものたちの界隈もある。

話す内容はODする薬の話、メンタルヘルスの話、とりとめのない日常の話、などだが。

時間に余裕がある人や精神疾患を持っていて理解のある人が集まっているので、
ODを頻繁にするようになったボクもまた常駐するようになっていた。

大抵のODに使われる薬の知識はついたし、
ODする人たちの気持ちや精神疾患についての知識や理解も深まった。

心の支えを失ったボクにとって、
同じ話題で共感しあえる人たちと話し込むことは癒しになった。

そんな中、イレギュラーな人物との邂逅があった。

ADHDや境界性パーソナリティ障害を抱えていて、
ODも頻繁にするという共通点だらけの年下の少女は、どうやら作曲もしているらしく、
それが本業だと教えてくれた。

既に再生回数もかなり多く、後に色々なSNS上でその子の歌と曲を見かけるようになるくらいには、
名が知れたシンガーソングライター。

音楽と人生への希望を打ち砕かれかけていたボクにとって、
その子の存在はきらきらしたものに映った。

同じような精神疾患をもって、同じように苦しみを抱えた少女が書く曲には、歌う歌には、
心の奥底に訴えかけるものがある。

意気投合した2人はいつしか頻繁に遊ぶようになり、
しかし恋愛的な雰囲気にはならず、それでいて安定に面白いので、
ボクはお兄ちゃんと呼ばれるようになり、
ボクも彼女を妹として扱うようになった。


そして、もう1人。

ボクにとっての天使のような存在。

儚くて、壊したくなくて、失いたくない大好きな女性との出会いが。

ボクの心の歯車を、再び動かした。

動き出した歯車が、
止まった時を、
失いかけていた感情を、取り戻してくれる。

思えばボクを殺してしまうのは、

いつも、ボクが愛した人だった。

【六章 完】

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