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ボクは愛に殺される④
【三章】
学校には、毎月企業から『学生の自由な発想で曲を作ってほしい』と、作曲の案件が舞い込んでくる。
うちの学校では、その案件に対し、作曲専攻の先輩から同級生、後輩と世代関係なしに10人程度のチームを自由に結成し、
学校内全ての作曲チームと作曲で戦う、コンペ形式で取り組んでいた。
まるで曲作りのバトロワみたいだ。
実力主義の場面では、ボクは珍しく評価され、
先輩たちにも編曲や発想力の面で頼られるから、居心地がよかった。
学校の日常生活では、(自傷行為はさすがに隠しているものの)人間性がとっつきにくいのか、何か突発的な行動で悪目立ちしてしまったのか、
同級生──とりわけ異性には──
『ステータス音楽全振り、人間性Zero』なんて言われ、誰とも親しくなれずにいた。
ボクは馴れ合いじゃなくて音楽の勉強をしにここに通っているのだから、
それに関してはすぐ諦めがついたのだけれど。
むしろ、こういう性格のせいなのかな。
わからないや。
今回のコンペの題材は
"自然の音と生楽器だけで構成された、
ヒーリングミュージック(癒しの音楽)"だった。
誰もが困惑し、誰もが迷っていた。
案件発表の際、作曲の先生が皆に向けてこう言っていた。
『一般的な曲を作る感覚ではダメ。もっと感性に任せて、音楽理論やテンポに捉われずに、心が震え上がるような曲を作るんだ』
ボクは持ち合わせた記憶力と音楽に全振りした集中力を活かした、感覚よりも知識量で曲作りに挑む"理論タイプ"である。
ボクも悩んだ人間の一人だ。
というか、ボクみたいな人間が一番苦労するタイプの曲作りだと素直にそう思った。
楽器演奏のスキルと吹奏楽部にいた経験があるから、生楽器を中心に扱う曲を作るのは苦手ではない。
ただ、よく天才作曲家が言う『空から曲が降りてきた』『思うがままに書き殴っていたら、売れる曲ができた』なんて話に、全く共感できない。
音楽理論と勉強量にものを言わせて"感覚組"を圧倒していくスタイルのボクにとって、
この案件は、非常に取り組みづらいものだった。
しかも、運命の巡り合わせが少し悪かったのか。
数ヶ月前から親友のアドバイスで、
校内の誰もやっていないような、
有名音大生でも挫折せずに進めるにはかなり苦労するという、
世界の二大作曲理論なんて言われるものを個人レッスンで習いに行き始めたところだった。
それを習ってから、もっとボクの作曲に対する考え方は、
厳しく、より厳格な理論に基づいた曲作りこそが美しい響きを生み出すのだ、という考えに変わっていた。
チームの輪に入れず見学コースにいた親友の
『俺の分まで頑張ってくれ。サポートはするから、一緒に勝ちに行こう』
という言葉に後押しされ、
ボクは、今まで通り理論でヒーリングミュージックと戦うと心に決めた。
チーム内の話し合い。
やはり、感覚で心を揺さぶる音楽を作ろうという方向でみんなの意見が合致した。
チームの全員に、
完成系を作ろうとしなくていいから、
全体的な雰囲気や曲の流れがわかるようなデモソングを作ってこい、とリーダーの先輩から指示が出された。
即座に親友のところに話を持ち帰った。
いつもの空き教室で、二人はノートPCを開き、作戦会議を開いた。
なんと親友、以前からヒーリングミュージックに並々ならぬ興味があったらしく、
ヒーリングミュージックの権威のような人間の曲をたくさん聴かせてくれた。
この人と出会わなかったら、きっと生涯こういう曲とも出会わなかっただろう。
やはり頼もしい親友だ。
けれど、確かに心が揺さぶられる、感覚と調和するような、普通とは違う響きの曲ばかりだったけど。
本当に、理論では作り得ないタイプの曲なのか?
考えに考えた末、出した答えは。
"理論でもって感覚を凌駕する"
ボクのイレギュラーな挑戦はここに始まった。
【第三章 完】
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