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「個別最適の思考を外せる貴重な機会です」——株式会社マネーフォワード マーケティング部 城殿努さんに聞く、BMCの存在意義と今後の期待

デジタル時代の到来により、マーケティングの施策は多様化しています。それぞれの領域における専門性が高まる一方、専門性が高まったがゆえに領域間の連携が難しくなるなど、全体で見ると「分断」が生じているようにも見えます。
 
そうした「マーケティングの分断」を解消するために、『BORDERLESS MARKETING COMMUNITY(以下、BMC)』は発足しました。第一線で活躍してきた有識者による基調講演や、マーケティングに関わる多様なステークホルダーとの議論を通して、「真に全体最適化されたマーケティング」を探求するコミュニティです。
 
本記事は、BMCの会員からコミュニティに参加した感想を伺う「コラムリレー」の第一弾です。取材を受けてくださったのは、株式会社マネーフォワード マーケティング部 城殿 努(きどの つとむ) さん。コンシューマー向けの家計簿アプリ『マネーフォワード ME』のマーケターとして、デジタル領域を中心に、Web広告のみならず広報領域との連携やソーシャルメディアを用いた施策などを、幅広く推進されています。
 
城殿さんが考えるマーケティングの課題と理想像とは。BMCに参加した感想と今後期待することをお伺いしました。

城殿 努 様
2008年広告代理店に新卒入社。大手証券会社・金融機関の営業を担当。その後、ITベンダーにて、ナショナルクライアントの広告/CRM/SFAを含めたデジタルマーケティングの立ち上げと支援や、自社サービスの企画開発を経て、2018年7月にアットホーム入社。コンシューマ領域のメディア事業におけるブランドコミュニケーションの戦略立案、メディア戦略、オフライン・オンライン広告全般を担当。2022年~マネーフォワード マーケティング部。

個別最適で利益を追求する業界構造への疑問

——BMCはマーケティング業界の課題を解決するために設立されたコミュニティーです。まずは城殿さんがマーケターとしてキャリアを歩む中で、意識されてきたことを教えてください。

私がキャリアを築く上で意識してきたことは、「苦手領域を無くそう」ということです。
 
教科書的にいうと、マーケティングとは「顧客を満足させて、顧客満足と企業利益を叶える活動」です。そのために必要な要素を考えると、広告だけでもテクノロジーだけでも事業だけでもなく、全ての領域のことを知っている必要があります。
 
その考えをもとに、代理店と事業会社の両方の立場で、クリエイティブや広告、テクノロジーなど幅広い領域に携わってきました。

——「苦手領域をなくそう」と思われるようになったきっかけはありますか?

広告代理店にいた頃に経験したリーマンショックが、ひとつのきっかけでした。当時の顧客は金融系の会社が多く、リーマンショックによって広告費がゼロになってしまいました。マーケティング担当者としての私の仕事もなくなってしまったんです。
 
新たな取引先を見つけるために成長している業界を探して、辿り着いたのがデジタル業界でした。それまでオフライン広告を主軸として私でしたが、「この波に乗らなければ取り残される」と危機感を感じてデジタル領域のマーケターに転身することに。
 
そのあたりから企業は広告費を抑えるようになり、オウンドメディアやソーシャルメディアを使った新しいマーケティング手法が盛んになります。時代の変化に対応して生き残るために、苦手領域を持たないマーケターになろうと考えるようになったんです。

——幅広いマーケティング領域に関わる中で、マーケティングの分断を感じることはありましたか?

「分断」と呼ぶのかわかりませんが、メディアや代理店、事業主、クリエイティブ、テクノロジーなど、マーケティングに関わるそれぞれの領域が「個別最適に利益を追求する構造」になっているのではないか、という疑問は持っていました。
 
例えば、事業会社としては利益を出すために、製作費を抑えようとする力学が働きます。しかし、製作費が十分にもらえなければ、クリエイター側のパフォーマンスは下がる可能性がある。その結果、良い広告が生まれなくて商品もそこまで買ってもらえない。個別最適を求めるがゆえ、全体最適ではなくなってしまうことは構造的な課題だと感じています。

分断があると思うから、分断は生まれる

——「個別最適な利益追求」が「分断」のひとつの原因かもしれません。そんな考え方をもつ城殿さんが、BMCに参加された理由を教えてください。

マーケティングに関する幅広い情報を得られる機会が欲しかったんです。コロナ禍になって人と会う機会が減り、以前と比べて情報が入ってこないことに危機感を感じていました。
 
もちろんオンラインの打ち合わせで、人と話す機会はあります。しかし、必要な話が終わったらすぐに接続を切るのがオンラインの特徴でもある。「そういえば、あの人がいまこれやっています」みたいな雑談が減ってしまったんです。
 
また、マーケティング領域の「ウェビナー」にも参加したこともあります。ただ、登壇者の話は勉強になるものの、どちらかといえば一方向に話を聞いて終わりのことが多く、こちらが意見を発する機会や参加者同士が情報交換する場ではありませんでした。
 
そう考えていたときにBMCのことを紹介していただきました。理事の経歴が多様で、参加者の皆さんもさまざまな立場でマーケティングに携わっている。ラフに交流しながらも、多角的な情報が得られることを期待して参加させていただきました。

——実際に参加されてのご感想を教えてください。

普段お会いできない立場の方々や、自分とは領域の違うマーケターの方々とお話ができて貴重な機会でした。また、ある領域に精通していても他の領域への苦手意識を持っている方がいることもわかり、領域を超えて集まることの大切さを実感しました。
 
また、マーケティングのことが好きで、真剣に考えている方が多いことも特徴です。講義をただ聞いて終わりではなく、「ぶっちゃけ」話を聞き出そうとしたり、自分の業務への活かし方を相談したりするような質問が飛び交っていました。代理店、事業会社、制作、テクノロジーなどさまざまな領域の話が聞けるので、マーケターとしてのキャリアの方向性を考えている方にもおすすめの環境だと思います。

——ありがとうございます。特に印象的だった「学び」はありますか?

一番の学びは、「分断があると思うと、分断が生まれる」ということです。「専門領域以外のことはわからない」と決めつけて、他領域との境界線を引くことで、実際に分断が生じるのだと感じました。
 
分断を生まないためには、日頃の業務から自分の専門領域に対して「自分から見るとこう見えます」と意見を発信することが大事だと思います。これはマーケティング領域の話にとどまらず、例えばエンジニアやPRと連携する際にも同じことが言えそうです。

肩書きを外し、フラットに対話できるコミュニティに

——個人の意識から変えられる部分もあるのですね。BMCは「分断」を解消した理想のマーケティング像を追求しようとするコミュニティです。現時点で城殿さんが思う理想像をお伺いしてもいいですか?

まだ参加して間もないので、明確に答えがあるわけではありません。しかし、個別最適の構造にある各領域のステークホルダーが手を組み、顧客の価値を最大化させるために知恵を集結させられる状態だろうと、ぼんやりとは考えています。
 
これまでマーケティング業界は、生産性や効率の観点から「代理店は代理店、事業会社は事業会社」と役割を細分化して、各領域の専門性を高めてきました。そのほうが設備投資や採用のことを考えると合理的だからです。
 
一度、そうした合理的で短期的利益を重視する経済サイクルに入ってしまうと、抜け出すのは至難の業です。だからこそ、BMCのようなコミュニティで、日頃の思考の枠から離れて客観的にマーケティング業界のことを考える機会が必要なのではないかと思います。

——そうした意味で、今後のBMCに期待されていることはありますか?

まずこのコミュニティから、領域や立場の違いを超えて議論をする機会を作れるといいなと思いました。
 
基調講演をしてくださる有識者の皆さんのお話は学びになるものばかりです。しかし、「実績があるから正しい」というバイアスを参加者側が持ちすぎるのも違うのかもしれません
 
最近よく聞いている、実績のある経営者とZ世代の方が対談するラジオ番組があるんです。時々、私はそれを「Z世代の方のほうが実績がある人」だと思いこんで視聴してみます。すると、回によっては、明らかにZ世代の方のほうが本質的なことを言ってると感じます。バイアスを外すことで、新しい気づきや発見が得られるいい例です。
 
BMCには、マーケティングにおける経験値も専門領域も多様な方々が集まっています。だからこそ、お互いの肩書きとバイアスを外してフラットに対話ができたら、コミュニティとしての価値が高まっていくのではないかと期待しています。

さいごに

BORDERLESS MARKETING COMMUNITYは、広告主、広告会社、メディア、クリエイター、アナリスト、研究者など、マーケティングに関わるさまざまな専門性を持つプロフェッショナルが集まり、領域横断的な知見の交流を行うコミュニティです。会員の知見の交流を通じて、真に最適化されたマーケティングを実現するため、定期イベントの開催やFacebookグループでの活動をおこなっております。
 
BORDERLESS MARKETING COMMUNITYへのご参加をご希望の方は、以下のフォームより、会員登録ください。
https://borderless-mc.jp/#admission

■会員募集条件
(1)マーケティングに関わる業務に従事されているプロフェッショナルの方
 ※専門横断的な交流を図るコミュニティのため、広告主・広告会社・メディア・クリエイターなど、専門領域は問いません。
(2)BORDERLESS MARKETING の考え方に共感される方、実践したい方

■コミュニティ概要
名称:BORDERLESS MARKETING COMMUNITY(ボーターレス マーケティング コミュニティ)
理事:黒崎 太郎 氏(日本テレビ放送網株式会社 取締役 執行役員 営業担当データマネジメント室長)
   佐々木 丈也 氏(三井住友カード株式会社 常務執行役員 マーケティング本部長)
   戸練 直木 氏(カゼプロ株式会社 代表取締役)
   手島 領 氏(螢光TOKYO/DESIGN BOY クリエイティブディレクター)
   星野 崇宏 氏(慶應義塾大学 経済学部 教授 / 慶應義塾大学経済研究所 所長)
   平尾 喜昭 氏(株式会社サイカ 代表取締役CEO)      
設立 :2022年2月
会費 :入会金・年会費とも無料
Web :https://borderless-mc.jp/

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