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ホームレス問題を解決するビジネス。ボーダレス史上最短黒字化の裏側を初公開

住所、携帯電話、身分証。一つでも欠けると就職はとても難しくなる。そんなホームレス状態になってしまった人を対象に、寮付きの仕事を紹介する人材紹介「いえとしごと」。市川加奈さんが立ち上げたこのソーシャルビジネスは、創業からわずか8ヶ月で黒字化を実現し、その後も安定した成長を続けています。代表の市川さんに事業の道のりを聞きました。

創業一週間でプラン変更!?そのワケとは


――市川さんの取り組む「見えないホームレス問題」とは、どんな内容なのでしょうか。

市川: ホームレスと聞くと、路上で生活している方をイメージしますよね。でも現代では、様々な事情からネットカフェや友人の家で生活するうちに、手持ちのお金がなくなってしまったり、会社の寮で生活していたのに突然倒産してしまうなど、意図せずホームレス状態になってしまう方がいます。

見た目には困っていることが分からないし、本人に自覚がない場合もあります。正確な統計もなく全容が把握できないので、「見えないホームレス」と呼んでいます。

彼らがいざ仕事を探そうとすると、携帯電話がつながらないことや、住所が不定であることが、突然大きな障壁となって立ちはだかってしまうんですね。そうした方の生活の立て直しを「いえとしごと」がお手伝いしています。

――ビジネスとして成立させるのはとても難しそうです。

市川: うまくいかなかったエピソードなら山ほどあります。(笑) ボーダレスの社長会で承認されて事業をスタートしたのですが、開始1週間後にさっそく事業内容の変更を余儀なくされました。

当初は、社員として自社雇用して運送会社の荷物配達の請け負いを行う事業プランでした。取引先の企業も決まっていたのですが、突然その仕事を外に出せないことになったと言われて、音信不通みたいになっちゃったんです。

事業の下請けだと、今後も同じようなことが起きて仕事が安定しない可能性があるということで、人材紹介業に切り替えました。

400社営業しても取引が決まるのは1社。紹介先開拓に難航する


――建設業、美容業、旅館業などたくさんの求人が並んでいますね。紹介先企業はどうやって見つけたのですか。

市川: ボーダレスグループで先に起業していた、中卒や職歴のない若者の就職支援を行う「ステップ就職」という事業があるんですね。同じ東京オフィスだったこともあり、相談に乗ってもらったり、企業を紹介してもらったりしました。でも、寮付きの会社は限られていて…。

やっぱり自分で開拓しなくちゃいけないと心に決めて、社宅がある会社を片っ端から調べました。そうすると社宅がある業種というのが見えてきて、業種ごとのリストを作って、1社ずつ電話やお問い合わせフォームで連絡を取りました。

電話だと端的に分かりやすく企業側のメリットを伝える必要があるのですが、メールの場合には少し違って、「こういう社会問題のために取り組んでいます。一緒にやっていただけませんか」と思いをしっかりと書いて送っていましたね。

――地道に見つけていったんですね。

市川: いくつかの会社からはいいねという反応をもらいました。それでも300~400社に連絡して、最終的に取引が決まるのは1社あるかどうか。営業はもともと得意じゃないし、やってもやっても全然進まないという焦りもありました。

ただ、紹介先としてつながった会社は、人手さえあれば事業が拡大できるなど採用の需要がずっとあることが分かりました。継続的な関係を持てるところがいいと思い、そういう先に絞って紹介先を開拓していきました。

受け入れ先で共通しているのは、世の中にはいろんな状況の人がいるという理解があること。本人のがんばりたいという気持ちを応援したい、そういうスタンスの会社さんが結果的に残っていきますね。

とはいえ、企業や私たちができるのは、立て直したいと思う人に機会を提供すること。タイミングが合わなかったり、気持ちが変わってしまうことも人間だから当然あります。連絡が取れなくなったり仕事に来なくなっちゃったり、普通に報われないこともありますけど、こういう機会や場所があるということが大事かなと思います。

ボーダレス史上最短!わずか8ヶ月で黒字化できたわけ

――事業開始から黒字化まで8ヶ月。かなり早いですね。

市川: 人材紹介会社って、原価がないので参入しやすくて、コンビニの数くらいあるって言われているんです。でも、はじめやすい分、つぶれちゃう会社も多くて…。

人手が足りない企業はたくさんあるので、求職者をどれだけ集められるかってところがポイントだったりします。

「いえとしごと」は、他社さんだと手間がかかるとか危なそうという理由で切られてしまう人たちを対象にしています。選択肢がそもそもなかった人たちを、企業としっかりつなげられたので、早い段階で黒字化できたのかなと思います。


――サラっと言いますが、実際にやるのは簡単じゃないですよね。

市川: そうですね。携帯ですぐに連絡が取れなかったり、身分証がなかったりする求職者さんたちなので、人材紹介会社からするとすごく手間がかかるんです。

一方で求職者さんたちも、面接をいくつも受ける交通費もなかったり、無駄打ちができないんですね。ほかで受けると、選考が通った後に身分証の話になって、そこで落とされて、かけたお金も時間も無駄になっちゃったり。

私たちの場合、身分証はどこまで必要か、入社までどれくらい時間かかるか、携帯が必要なのか、一社一社確認して、この会社はこういう人なら受け入れできるというのを把握しています。だから、困っている人が来た時に確実に大丈夫なところだけを紹介できる。

みんながやらない面倒なことを、あえてやっているところが、他の人材紹介と違うところかな。本来、企業と人をつなげるってそういうことだと思うんですけどね。

――求職者さんとはどんなお話をされるんですか。

市川: ノウハウがたまってきた今は、15分~30分くらいの面談で必要なポイントだけを確認して、企業さんにおつなぎしています。急ぎの人も多いし、面談をいくらしても実際働いてみないと分からないことも多いですから。

その分、「いえとしごと」では、紹介した人が職場に定着してから紹介料をいただく形にしています。定着しないで辞めたり飛んだりしたら、売上0円なので、私にとってはお腹が痛いことなんですけど(笑)

でも、無理につなげても意味がないし、本人が希望するものにつながったら仕事を続けていけると思うので、紹介より定着を重視して事業しています。初日から来ないという人もいるにはいますけど、みなさん結構がんばってくれていますよ。

より多くの人が生活を立て直すための選択肢を増やしたい

――この先の展望を教えてください。

市川: 今は仕事の紹介がメインなんですけど、それだけだとカバーできない人たちがいるんです。人生相談みたいに話だけ聞いてほしいという人もいるし、家が借りづらいからサポートしてほしいとか。

立て直したい人がもっと簡単にアクセスできて、生活相談ができたり、物件を紹介したり、NPOにつないだり、早期に立て直しできる方法をどれだけ作れるか。次は宿泊業かなってイメージしてますけど、そういう総合窓口をどうビジネスのかたちで実現していくかを構想しています。

――そのサービスによって、変われる人がたくさんいそうですね。

市川: とはいえ、求職者さんには、障がいがある方もいるし、前科がある人もいて、困っている人を助けるっていう綺麗な話だけでは当然ないです。まして、ボランティアじゃないので、ビジネスとしての目線もソーシャルな部分のバランスも必要で。

社会には本当にいろんな人がいて、それぞれしっかり生きていけたら良いよねというマインドの人や、良い悪いといった主観で判断をしたり、過度に感情移入せずに、俯瞰して物事を考えたり、仕組みづくりをしたいという人には、「いえとしごと」はすごく面白い会社なんじゃないかなと思います。

そういう人と一緒に、事業を前に進められたらいいですね。

Relight株式会社 代表取締役
市川 加奈
1993年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒。
国際協力を学び、途上国の貧困問題を調査するうちに、日本にも貧困問題があることに気づき、ホームレス問題の解決を志すようになる。
全国の炊き出しや夜回りに参加し、支援者や当事者と対話をした結果、支援ではなく、持続可能なソーシャルビジネスをするために、ボーダレス・ジャパンに入社。見えないホームレス問題の解決をテーマにした事業を開始。Forbes主催『FORBES 30 UNDER 30 ASIA 2022』選出

転載元:ボーダレスマガジン


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