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海外で3事業立ち上げた社会起業家に聞く!ソーシャルビジネスを成功させる秘訣

ミャンマーで事業を始めて5年。1つ目の事業を社員60名、売上11億円にまで成長させ、今あらたに2つの事業の社長を務める、シリアルアントレプレナーの犬井智朗に、海外でソーシャルビジネスを成功させるための秘訣を聞きました。

ソーシャルビジネスを海外で始めるときに一番大事なこと

――途上国でソーシャルビジネスを成功させるためには、何が必要ですか。

犬井: まずは、現地で本当に信頼できるパートナーを見つけることです。

どれだけその国のことが好きで、長く滞在していようと、やはり母国の人にしか分からないことや慣習があったりします。

事業の成長って、社員の数とほぼ近いところがあります。社員と起業家の間に入ってくれる人、この国のこの人たちのために本気で事業がしたいという志に共感して、一緒に事業を進めてくれる現地パートナーの存在は事業成長のスピードを左右すると思います。

ソーシャルビジネスの成功に戦略よりも重要なのは?

――アグリセンター事業の社員60人。事業数も増えて、順調にグロースしていますね。

犬井: ここに至るまで、組織の危機とも言える大きな出来事が二つありました。

アグリセンターを立ち上げた1年目の終わり。当時はマイクロファイナンスに絞っていて、もがいてもがいて、ようやく黒字化の道筋が見えてきたのに、チームのメンバーに全然スピード感が出ない。

このままだと会社がつぶれてしまうという焦りの中で、ボトルネックは、社員と仲良くなりすぎて、遠慮でものが言えなくなった僕自身の弱さだと気づきました。

「僕は農家の生活を変えるために日本から来ました。だから、これから10倍のスピードで走ります。ついてこれない人は置いていきます。それでも農家のために一緒に走りたい人は、明日からまた頑張ろう。そうでない人は、舟から降りて欲しい。」

兄弟のように仲良くしていたメンバーに伝え、当時いた7人のうち4人が辞めていきました。

辛い経験でしたが、残ってくれた社員と志が一つになったことで、本当にすごいスピードで事業を進めることができました。

次の転機は、その1年後。とにかく前だけを見て突っ走った結果、業績は伸び、社員は12人まで増えました。でも、業務を最優先した結果、社内でのコミュニケーションが希薄になっていました。

ある日、全社員から呼び出され、「あなたについていけません」と訴えられました。というか、ほんとボロクソに言われました。(笑)

そこから2週間、社長なのに会社に行けなくなって。当時住んでいた、壁もない山小屋みたいな家で、布団にくるまって過ごしました。

でも、頭が冷静になるうちに「組織は生き物だな」って思ったんです。からだのサイズに合わせて、入れるべき栄養や手入れが必要なんだと気づきました。

僕がワンマンで引っ張っていた組織を変えて、チーム制や月次ミーティングを導入して、ゴールセッティングを始めたら、社員がやる気になっていって、そこから1年で社員が3倍になりました。

どれだけ良い戦略があっても、組織のかたちに穴があると事業はなかなか動かないんだなって、そう思います。

事業成長=社員の成長。人材育成で大切にしていること

犬井: もう一つの鍵はやはり社員です。1、2年目に事業がババーっと成長したのは、もちろん戦略もあるんですけど、実現させたのは社員の成長なんですよね。

スタートアップの企業、まして農村ではじめた小さな事業なので、力のある人なんて簡単に入社してこないんですよ。

それでもこの場所でビジネスがしたい。それなら、社員が成長しないと絶対に事業は成長しない。逆に言えば、人の成長にすごく可能性を感じています。僕の信条に近いです。

――「社員の成長」は多くの企業にとってのテーマだと思います。犬井さんはどう接しているのですか?

犬井: 仕事の任せ方は、まずぶん投げます。ぶん投げて、めちゃくちゃフォローアップします。

任せるときに大切なのは、自分の中で何をやらないかを決めておくことです。実際はよくそのラインを超えちゃうんですけど、踏みとどまる。

社員に任せてみて、最初は1週間に1度だけ進捗を確認します。2週間経って大丈夫だったらそのまま任せていくし、ちょっと結果やスピードが出てないなと思えば、3日に1回の進捗確認に変えたり。

そんな感じで調整しながら、ステージごとに任せるレベルを少しずつ上げて行きます。

――「ぶん投げる」と言いますが、よく見ているんですね。

犬井: ベースとして、社員のことがめちゃくちゃ好きなんです。2,3歳しか変わらないけど、自分の子どもみたいに大事に思っています。

僕自身の経験を振り返ると、社会人1年目に日本で事業立ち上げをしていた時、たぐっさんは僕に何が必要かをいつも知っていてくれたなって思い出して。

何がしたい人で、どういうことが好きで嫌いで、将来どうなりたくて。だから、今何が必要なのか。社員一人ひとり、ちゃんと知っておくこと。それにすごく気を付けています。

――社員をフォローするには、自分自身ができないといけないですよね。

犬井: 業務に関する知識や、タスクレベルでは、誰よりも高くあるべきだと自分に課しています。ボーダレスのスキルレベルシートの全てに◎が付けられるかをずっと意識してきたので、もう暗記していますね。

でも、あの時こうしたらよかったかなっていう反省は、毎日尽きないですよ。

ボーダレスグループのスキルレベルシート

農家さんのためにって事業が伸びるのももちろん嬉しいんですけど、社員の成長を実感すると「やめらんないな」って。僕はそのモチベーションが結構強いですね。

最初は資材を運ぶ力仕事しかしたことなかったのに、今はマネジャーとして事業をぐいぐい引っ張ってくれていたり。1年目の危機を一緒に乗り越えたメンバーを、数年内に社会起業家にしようと目論んでます。

ボーダレスミャンマーを、学歴に関係なく、頑張る人が伸びていける会社にしたい。多民族国家で民族間のいさかいが絶えないミャンマーですが、同じ志で同じ釜の飯を食った関係性で乗り越えていけることもあるんじゃないかなって。

ビジネスを通して、草の根から民族同士の融和ができるんじゃないかなって、そんな夢を見ています。

BLJ Myanmar Co., Ltd 代表取締役社長
犬井 智朗
2017年、ミャンマーに移住。農業ワンストップサービスセンターを運営するボーダレスリンクを創業。2021年に同社の代表を引き継ぎ、現在はボーダレスミャンマー代表として、「ミャンマーで社会起業家のためのプラットフォーム」を創るために奔走中。

転載元:ボーダレスマガジン


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