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ミャンマー貧困農村のソーシャルビジネス、年商11億円の裏側に迫ってみた

ミャンマーでの事業立ち上げから5年、今、急成長中のソーシャルビジネスがあるという。農村部の貧困問題を解決するソーシャルビジネスを次々と立ち上げる、社会起業家の犬井智朗にその内容を聞きました。

たった5年間で年商11億円を見込むビジネスとは?

――犬井さんの手掛けるソーシャルビジネスについて教えてください。

犬井: 2018年、24歳の時にミャンマーに来て、ソーシャルビジネスを始めて5年目になります。今は三つ目の事業を立ち上げているところです。

一つ目の事業は、小規模農家さんを対象にした「アグリセンター」を展開するボーダレスリンクです。外資が入ってこないような貧困農村部で、農家向けのワンストップサービスをしています。

具体的には、マイクロファイナンス、種や肥料の販売、農業指導、作物の買取り。最近では耕作機械のレンタルもはじめました。農家さんにとって必要なものが何でもそろう場所です。

今はシャン州の、街から離れた農村部を中心に6店舗あり、1店舗ごとにバイクや車で40分圏内の50~100村が対象。およそ一万人の小規模農家さんが利用しています。

農家さんへワンストップサービスを提供する「アグリセンター」

――サービスの特徴はありますか?

犬井: 例えば、マイクロファイナンス。村によっては約半分の農家さんが利用しています。

農業って、作付けの時にまとまったお金がいるんですね。日雇いで人を雇い入れて、土を耕したり、機械を借りたり、肥料代も必要です。

その時にお金を借り入れて、作物ができた後、売上から借りたお金や肥料代などを返済します。

小規模農家さんは担保がないし、銀行はそういった小口の融資をそもそもしてません。だから、地域のブローカーかマイクロファイナンスの会社から借りるのが従来の選択肢でした。

ブローカーの金利が月利5%以上、マイクロファイナンスが月利2.3%くらい。それに対して、僕たちのアグリセンターは地域で最低金利の月利2%で貸し付けています。

――小規模農家さんにとって助かりますね。でも、天候不順などで作物が思うように取れなかったなど、返済できないことはありませんか?

犬井: 実は、今のところ不履行は1件もないんですよ。

まず、必要最小額を貸しているので、多少のブレで返せなくなることはないんですね。二つ目に、ある作物がダメージを受けても、ほかの作物も育てているので、「じゃあ3ヶ月待ちますよ」って感じで調整しています。

資材販売でも、ブローカーによっては自分たちの利益を多めに取る方もいますけど、僕たちは農家さんのためのサービスなので。

肥料を買いに来た方に、「どんな作物を作っているのか」「作付け前にどんな肥料を入れたのか」を社員が聞いたり、虫に困っていると聞けば、写真や実際の葉を持ってきてもらったりして、最適な資材をおすすめしています。

――良いサービスですね。

犬井: とはいえ、最初はだれも知らない会社なので、新しい村に行くときは村長さんにご挨拶して、村人全員を集めてもらって、一つひとつ説明をしています。最初に利用してくれた農家さんからの紹介がつながって、ここまで広がってきた感じです。

今、ミャンマーでもボーダレスの知名度が上がっていて、ボーダレスリンク社だけで今年度800万ドル(円換算で11億円)の売上げを見込んでいます。

社員は、1/3が農大出身、2/3が地元からの採用で、今はおよそ60名が働いています。今まで仕事がなかった地域で、学歴は関係なくやる気のある人が伸びていける、そういう組織にしています。

「新規事業は1年以内に黒字化」マイルールの中で今、見据えていること

犬井: 二つ目の事業として、今年5月に始めたのが有機肥料事業「BORDERLESS MYANMAR FERTILIZER」です。

ミャンマーでは今、外貨が高騰してこれまで使っていた化学肥料の価格が3~5倍に上がってしまったことで、逆に有機肥料の方が安く手に取れるようになったんです。

有機肥料の方が土にとっても良いし、価格面で農家さんの負担も軽減する。もともとアグリセンターの中でぼかし肥料の販売を小さくやっていたんですが、今がミャンマー全土に展開する時だ!と思って法人化しました。

この事業の目的は大きく二つ。まず肥料の生産を通して、農村部で仕事がなかった人を雇用すること。二つ目に、肥料の販売を通して、農家さんの収入を向上していくこと。

農村部で土地がないと農業もできないし、学校を中退していたりすると雇ってくれる場所もないんですね。そういう境遇の方たちを、今この事業で約70名雇用しています。

僕は「新規事業は1年以内に黒字化する」というマイルールを置いているのですが、8月に単月黒字化して、ミャンマー国内に広げていく土台ができました。年内には、この事業に別の事業代表を立てて、僕はあたらしい事業を始めるつもりです。

次は都市部でケーキ屋さんはどうかなと思っていて。都市部で仕事がないシングルマザーやシングルファザーの雇用を作れたらと思っています。

――公平なビジネスと雇用創出の両面で社会を変えていく。やりがいが伝わってきます。

先日は、社会問題を解決するソーシャルビジネスを生み出す社会起業家を輩出する仕組みとしてボーダレスミャンマーを立ち上げました。ボーダレス・ジャパンのミャンマー版ですね。

ミャンマーには困っている人って本当にたくさんいるので、そのためのソーシャルビジネスがどんどん生まれる仕組みを作っていきますよ!

※アグリセンターを運営するボーダレスリンクは、2021年10月に安田大志が事業を承継しています。

BLJ Myanmar Co., Ltd 代表取締役社長
犬井 智朗
2017年、ミャンマーに移住。農業ワンストップサービスセンターを運営するボーダレスリンクを創業。2021年に同社の代表を引き継ぎ、現在はボーダレスミャンマー代表として、「ミャンマーで社会起業家のためのプラットフォーム」を創るために奔走中。

転載元:ボーダレスマガジン


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