見出し画像

知恵者たちに畏敬の念を

10年に一度回ってくる町内会。今年度は保健委員の役目を仰せつかった。主な役割はゴミ収集の準備と片付けだ。わが自治体は今年度から分別方法が一部変更となり、可燃、不燃、粗大、プラ、紙製容器、ビン、カンの分類に加えて、発火性危険物(スプレー缶や使い捨てライター類)、電池類という区分が別枠で追加された。(今までは一括で危険物だった)このように列挙するだけでも、捨てる側の配慮がかなり必要になっていることがわかるわけだが、当然ながらこのルールを守らない人たちが一定数いて、このあと処理が保健委員の主な仕事と言っても過言ではない。

特に負担なのが電池類で、処分場での発火や爆発を防ぐために、かならず電池一つ一つは両極にテープを貼って捨てることになっているのだが、これをやらない人が結構な割合で存在する。なかには「一体こんなにたくさんの電池を何に使っているのか?」と思うほど大量の(コンビニの中袋に3分の2くらいの量)をごっそりと、それもひとつも絶縁せずに捨てていく。

回収する人たちは、危険なので回収せずそのまま放置して次の場所に向かうので、それらの電池は再びごっそりとその場に残されていく。回収用のかごを片付けに行ってそれに気づくわけだが、こちらも仕事から帰って片付けることもあって、その日のストレスと相まって結構「イラっ」ときてしまう。

ときには、片付けたかごの中に回収日でもないのにごっそりと電池やカンやビンを隠すようにおいていく人もいて、このマンションにはなかなかの度合いの悪者が住んでいるのだなと思わされることも多々ある。

面倒なので次の回収日まで放っておいて、その日の前日にそれらの不法投棄ゴミや絶縁されていない電池にひとうひとつテープを貼っては、回収場所に置いておく。もちろんそれらは次の日に回収されるわけだが、それらとはまた別の不法投棄やそのまま捨てられた電池が取り残されていることに帰宅時に気づいて毒ずく。「〇〇野郎!〇✕▽■▲※!?」と

注意喚起の張り紙や、回覧版は何度も回しているが、そういうことをする人は大体そんなものには目もくれない。そのような細やかさがあるのであれば(サイコパスでもない限り)そもそも不法なことはしないだろう。そんなわけでこの一年というもの、頻繁にイライラさせられる事態となったわけだが、あるとき「この事態を別の考え方でとらえられないものか?」と考える機会があって、その後からイライラ感はほぼ消失した。前振りが長くなったが、今回はそれについて書こうと思う。

文化的雪かき

僕が好きな作家である村上春樹が書いた「ダンス・ダンス・ダンス」の中で、主人公が自分のやっている仕事を若干揶揄して「文化的雪かき」だと説明しているシーンがある。要約すると、「誰もやりたがらないが、誰かがやらないと先に進まない仕事」といった感じだ。その主人公は飲食店を紹介する記事で雑誌の枠を埋める仕事をしていて、「どうだっていい仕事だし、誰にでもできる仕事だけど、僕は今それをやっているし、どうせやるならきちんとやりたい」というポリシーの元、淡々ときっちりと取材を続けて文章にしているわけだが、これがそこそこ評判がいいといった内容だ。

それを思い出したとき、このゴミのあと処理の仕事も「文化的雪かき」だと考えてみたらどうだろうと考えて、早速取り組んでみたところ、以前ほどイライラすることがなくなった。そればかりか自分の在り方にフォーカスが当たっていることで「どう生きたいか」まで掘り下げて時間を仕えているような気さえしてくる。回ってきた仕事の内容に不満を抱くより、それをどうこなしていくか?あるいはどうやって質を上げていくか?に集中した方が、自分の鍛錬になるなと思えたわけである。

実はもうひとつ「これもいい」と思える考え方に出会っているのだが、多分僕の文章力で説明するとただの炎上案件にしかならないので、ここでは割愛するが、その考え方も群を抜いて「なるほど、その角度があったのか」と思わされる秀逸なものだった。

今あげた二つの考え方は、確かに著名で長くその地位にとどまり続けている方たちの考え方だから、説得力が高いのは当然かもしれないが、考えてみると僕だって彼らと同じ景色を見ているはずなので、同じように考えられてもいいはずだが、そうはならない。どうしたって彼らの知恵(あるいはものの見方)には叶わない部分がある。それにどうしたって叶わないのは多分能力の部分だけじゃない。きっとその分野で長い間輝き続けられるということは、僕らには想像もできないような努力もそこに存在しているのだと思う。

そういった僕には到底出来なさそうな姿勢によって様々なものの見方を作り出している人たちの考え方を知ることができるのは、本当にありがたいことだ。知恵者たちの在り方は、いつの時代も足りていない僕らに「何が足りていないのか」を明確に伝えてくれる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?