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自衛隊の特殊部隊創設者が書く、一気に読めるノンフィクション。「自衛隊失格」

台風上陸。大雨が降る天気予報。しかし雨はそれほど降りませんでした。なのに売上は予報通りに。それが古本屋の日常です。

そんな天気とは裏腹に、とても面白い本と出会いました。「自衛隊失格―私が『特殊部隊』を去った理由―」という本です。内容は自衛隊に特殊部隊を創設した著者が、その半生を綴ったノンフィクション。ページを開いたところから2時間ちょっと。一気に最後まで読んでしまいました。ここまで夢中になって読書したのは久々です。

第一章で自衛隊入隊前の著者の生活が紹介されているのですが、まず著書の家族からして桁違いに変わってる。父親は蒋介石の暗殺命令を受けたという経歴を持ち、自分の子供に「暗殺なんて簡単だ」と言い切ってしまう超変人。そして軍国主義の日本を懐かしむお婆様。更に、若かりし日の著者の自意識過剰なエピソードが面白い。これだけでも小説が一本書けそうです。

第二章からは自衛隊に入隊にしてからの話となる訳ですが、ここからも隅々まで面白い。当然ながら自衛隊に入隊すると最初に様々な訓練があり、更に訓練が終了しても色々なところで研修が始まります。

そして、著者はあろうことか仕官の道に入ってしまい、次から次へと活躍の場が広がっていく。その過程を熱く語る。試行錯誤する。理想と現実の壁に阻まれ悩む。しかしながら知見を集め、成長していく。その著者の後姿をみるようで、これがなかなか面白い。甲子園で頑張っている高校球児を見ているかのように釘付けになりました。

第4章ではスリリングな展開。北朝鮮の工作船から拉致被害者を奪還できなかった(であろう)事件を受け、本気で悔しがる著者。その事件を受けて特殊部隊の創設、そして隊長として奮戦。更に退官、ミンダナオへ。という急ぎ足で物語の幕は閉まる訳ですが、この辺の緊張感やスピード感が素晴らしい。無駄な説明を省き、熱い気持ちが伝わるストレートな文章。そのまま最後まで一気に読み干しました。

そして読了後に「この本の面白さを支えているものはなんだろう?」と店主は考えました。眠くなることも、欠伸することもなく、一気に最後まで読ませてしまう。ここまで夢中にさせてくれる本は珍しい。

すると、1つの答えを閃きました。「読者が理解しやすいようにストイックに文章を書いたのではないか?」ということです。作中で放たれる著者の熱い言葉はもちろんなのですが、著者のストイックな姿勢にも目を奪われました。だからきっとこの文章を書くことについても同じようにストイックなのではないかと思います。読者に読みやすい文章を書くことに腐心したのでは。

先日、芥川賞を受賞された「ハンチバック」を読み、少々感銘を受けましたが、この本はまた違った形で面白い。純文学とは全く違う世界。自分もこんな本を書けるような人間になりたい。店主はもう既におじさんですが、そういった夢を抱いて今日のブログを終わります。

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