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モンゴルで暮らし、モンゴルで生きる - 異文化に飛び込む勇気と学び

シェフであり元公邸料理人の鈴木裕子さんによるエッセイ集『まんぷくモンゴル!公邸料理人、大草原で肉を食う』を読了しました。本書は、著者がモンゴルで公邸料理人として暮らした3年間の体験をまとめたものです。私自身、海外で暮らした経験はありますが、モンゴルほど馴染みのない国で生活するのは勇気のいることだと思います。しかし鈴木さんは、言葉も文化も大きく異なるモンゴルの地で、好奇心と探求心を胸に、現地の人々と交流を重ねていきます。「所変われば常識変わる」という言葉通り、日本の価値観では計れない、モンゴル独特の習慣や考え方に戸惑いながらも、次第にその温かさや合理性を感じ取っていく姿勢に感銘を受けました。

遊牧民の食文化との出会い - 肉を食べ、命をいただく感謝の心

本書で特に印象的だったのは、遊牧民の食文化との出会いです。モンゴルでは、肉こそが命の源。家畜を食べることは日常であり、命をいただくことへの感謝の念が根付いています。一方で、遊牧の暮らしゆえに野菜の摂取が少ないことを危惧した鈴木さんは、現地で料理本を出版するに至ります。「誰かのからだといのちのお役に立つために」という思いを胸に、言葉の壁を越えて伝えたい想いを形にする。その行動力には頭が下がる思いです。食べることは生きること。その原点に立ち返らせてくれる、貴重な体験が本書には詰まっています。

異国の地で問われるアイデンティティ - 日本人として、一個人として

異国の地で暮らすということは、自身のアイデンティティと向き合う機会でもあります。当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなる。自分とは何者なのか。鈴木さんはモンゴルでの経験を通して、改めて日本の文化や美意識の奥深さを実感したと言います。同時に、自身の「好き」を貫く大切さも再認識した。年齢を重ねても新しいことにチャレンジし続ける姿勢は、読者に勇気を与えてくれます。私たちはともすれば、周囲に流されて自分らしさを見失いがち。鈴木さんの言葉は、自分の心に素直に生きることの尊さを教えてくれます。

壮大な草原が教えてくれた、生きるために大切なこと

壮大な自然、動物たちとの共生、白い食べ物と赤い食べ物。星降る夜空の下で感じるいのちの尊さ。本書には、遊牧民の暮らしから学んだ、生きるために大切なことが随所に散りばめられています。現代社会を生きる私たちは、何かと効率や利便性を求めてしまいます。でも本当に大切なのは、目の前にある小さな幸せに気づくこと。「おいしい」を分かち合える相手がいること。鈴木さんの体験を通して、改めてシンプルな幸福の尊さを教わった気がします。

食べることは生きること - 五感を研ぎ澄まし、いのちの喜びを味わう

「おいしいはいつもしあわせ」。鈴木さんの結びの言葉が示す通り、人生の喜びの多くは食卓にあります。モンゴルの厳しい自然環境の中で生きる人々は、舌だけでなく、からだ全体で食べものを味わいます。汗を流して働いた、ほてった身体に沁みわたるお肉の旨み。ミルクから作る乳製品の優しい甘み。食べることは生命をつなぐ営みであり、自然からの恵みに感謝するべきもの。そんな食の原点を思い出させてくれる一冊でした。

鈴木さんの体験を通して、食べること、生きることの意味を考えさせられました。人生の岐路に立ったとき、迷ったとき、「あなたのまんぷくはなんですか?」と自問してみたいと思います。満腹でなく、まんぷく。心の糧を得られた時こそ、私たちは前に進む活力を得るのだと信じています。

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