レティシア書房店長日誌
福田節郎「銭湯」
博多の出版社書肆侃侃房が主催する「ことばと新人賞」の第4回作品賞を受賞した福田節郎「銭湯」(書肆侃侃房1760円)は、選考委員の尾崎由美が「呆れ返ること必至!笑っちゃうこと不可避!なのにグッときちゃうこの不思議」と、推薦の言葉を書いている通り「呆れ返ること」「笑っちゃうこと」間違いなしの小説でした。
キザキさんという顔もわからない人と、何故か待ちあわせることになった主人公の水上君。ところが待ち合わせ場所で、そのキザキさんらしい人はアロハシャツ姿の男とハグして、楽しそうにどこかへ行ってします。えっ?と思っていたところに、「いやいや突然すみませんね〜、なんか、きーちゃん急用ができちゃったらしくて」と若い女性がホントに突然登場し、「ま、いろいろアレなんで、ね、ちょっと飲みながら話しましょうか」と彼女は酒を買いにゆく。
一体どういうことなんだと思って読み進めていくと、ますます意味不明の展開になっていきます。どうやらサカナさんと呼ばれているその女性が働いているような居酒屋で、わけのわからないまま酒を飲んでると、飲んでいる最中にいきなりいなくなって、すぐに再会したものの、またいなくなってしまう。このグタグタ、ダラダラがほぼ改行なしの文章で延々とい続きます。あぁ〜この小説、私には合わんなと思ったのですが、そのうちだんだんとそのリズムが心地よくなってくるから不思議です。
「昨日から起きている時間はほぼ酒を飲み続け、おかしな人たちと鉢合わせ続けたその影響なのか、さっき我が家の敷居をまたいだとき、他人の家に初めて足を踏み入れた時におとずれる、頭がクラッとして一瞬意識が飛ぶあの感じに襲われもして、かなり疲れている。」というような文章が、ひたすら続いていきますが、選考委員の江國香織が「言葉にはこんなことができるのだし、言葉にしかこんなことができない。見事な文章体力の、風通しのいいチャーミングな小説。」と書いています。チャーミングかどうかは私にはわかりませんが、若者が普通に使っている言葉を操りながら、不思議な世界へと導いてゆく力があるとは思いました。
「風呂に入りたい、風呂に入りたい、デカい風呂にゆっくり浸かって身体を思いっきり伸ばしたい、銭湯に行きたい、銭湯に行きたい、と俺は言った。」というのが最後の一行。お疲れ様でした。飲み続けた数日の疲れを癒してください、と水上君に言いたくなりました。
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