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レティシア書房店長日記

二階堂和美「負うて抱えて」

二階堂和美は、1974年広島生まれのシンガーソングライターです。数多くのアルバムを発表し、高畑勲監督のアニメ「かぐや姫の物語」の主題曲「いのちの記憶」を作詞作曲し歌っています。


実家は浄土宗本願寺派のお寺で、彼女自身僧侶でもあります。僧侶として寺を仕切る一方で、ミュージシャンとして全国を駆け回る彼女が、自分の生活のこと、音楽のこと、世の中のおかしなことを、中国新聞で連載していました。その後、書籍化したのが「負うて抱えて」(晶文社/古書/1500円)です。

広島に生まれ育った彼女にとって、戦争は避けられないテーマです。地元テレビ局の被爆番組のためにテーマソング「伝える花」を作りました。「集団的自衛権の名の下に、平和憲法の解釈がゆがめられようとしている現在の日本は、とても危うい方向へ向かっている気がしてならない。」と現状を憂い、原爆投下からひと月で焦土に咲いたカンナの花に思いを寄せます。
「直接戦争を体験していない私たちに必要なのは、想像力だと思う。どんなにそれを駆使したところで、本当の恐怖や、覚悟の持ちようなどは計り知れない。だがそこに自分たちを重ねていかないと、過去は生かされない。せっかく教えてくれている歴史があるのだから。」

高畑勲「かぐや姫の物語」との出会いは、監督が彼女のCDを購入して、よく聴いていたことから始まるそうです。監督から、ぜひ主題曲をお願いしたいとオファーがあり、当時妊娠5ヶ月の身で何度も東京、広島を往復しながら曲を作り上げていきました。
「私の代表曲となったこの曲が、音楽家としても、僧侶としても、ひとりの人としても、どこから照らし合せても嘘のないものであるということが、本当に有り難い。音楽は生き物。娘と双子のようなこの曲が、私の計らいを超え、歩んでいってくれたらうれしい。」と述べています。この章では、高畑監督への尊敬と感謝がしみじみ語られていました。

「原発は仏教に反す」これ「脱原発を目指す仏教者ネットワーク岡山」が中心となって開催した「3・11への祈り〜追悼と脱原発の集い」で、このイベントに出演した時彼女が見つけた、パンフレットに大きく書かれていた文だそうです。
「なぜ原発が仏教に反するのか。それは『いのちを脅かすから』だと書かれている。たとえ大きな事故が起こらなくとも、常に放射線とともにある原発。放射線が人体、また自然界全体に及ぼす悪影響はすでに誰の目にも明らかだ。であれば『いのちを脅かすから』という文言にもうなずける。」
宗教者として、歌い手として命を見つめる彼女ならではの視点から、まっすぐに綴られた本です。



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