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レティシア書房店長日誌

頭木弘樹編「イライラ文学館」
 
 ちょっと拘った短編アンソロジーには、おっ、いいな!と思うことが多いのですが、この「イライラ文学館」(新刊1980円)にはぶっ飛びました。日々、私たちが感じる様々なイライラ。自分のことがわかってもらえない時に感じるイライラ、不調の状態のままで仕事を続けなければならない時のイライラ、眠くて眠くても寝てはならない時のイライラ、不安がどんどん溜まっていく時に感じるイライラ、痒くて痒くてたまらない時のイライラ、ストレスが溜まった時のイライラ、なんでイライラするのか理解できない時のイライラなどを描いた小説が紹介されています。

 登場する作家は、筒井康隆、志賀直哉、谷崎潤一郎、内田百閒、チェーホフ、ル・クレジオ、ソ・ユミ、そして漫画家の土田よしこです。
編者は「心について深く描いているある作品を読んで、心が震えるように、身体について深く描いてある作品は、身体で読むことができる。つまり、身体感覚で共感できるのだ。 そういう文学の名作を集めてみたいと思った。」と、あとがきで書いています。
 「身体感覚で共感できる」という言葉がリアルに迫ってくる作品が並んでいます。こんな怖い作品描くんだ!と驚いたのが志賀直哉の「剃刀」です。彼の小説で、なんと殺人が登場するのですよ!
 一方、ル・クレジオの「ボーモンがはじめてその痛みを経験した日」は、主人公が歯痛に苦しむ物語です。どこまで物語が拡大するの??と心配になる小説で、歯痛からスタートして、幻想、象徴、悲惨などを感じさせる世界が登場してきます。谷崎潤一郎も歯痛がテーマの「病辱の幻想」が収録されています。こっちは、歯痛がきっかけに地震にまで描写が広がっていきます。
 中でも、私が一番面白かったのは筒井康隆の「心臓に悪い」です。こんな経験あるぞ!と思われる方も多いはず。特に通販やパソコンのカスタマーセンタとのやりとりで、イライラした思いをした人は、そうだ、そうだとあの嫌なやりとりを思い出されるかもわかりませんね。ラストの意表をついた大展開。著者曰く、雑誌に発表が決まった時に、担当者から「ラストがぶっ飛び過ぎて、わけが分からないから書き直せと言われて、普通のオチに直されてしまった。本にした時には元に戻しましたけど。」というほど。
 偶然の一致かもしれませんが、ガルシア=マルケスが「エレンディラ」を発表した同じ頃に、筒井もこの作品を発表。同じようなエンディングを用意していたのは面白いことです。(マルケス作品のラストも作品解説に掲載されているのでご一読ください)
 ユニークなセレクションで、いわば”読むアンガーマネジメント”を促進したアンソロジーとしてオススメです。


●レティシア書房ギャラリー案内
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」I push and go
よしだるみ新作絵本出版記念原画展
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

⭐️入荷ご案内
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
森田真生「センス・オブ・ワンダー」(1980円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
安西水丸「1フランの月」(2530円)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
「たやさないvol.4」(1100円)
「26歳計画」(再入荷2200円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)

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