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幕間 5 とある遺跡にて


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「フンーッ!!」

「「グギャーッ!?」」

 筋骨隆々の女拳闘士は、自身の半分ほどの大きさしかないゴブリン二体をベアハッグでまとめて殺した。汚らしい血泡を浴びる前に無造作に投げ捨て、彼女は咆える。

「サイラス、もっと気張りな! 二匹もこっち通してんじゃないよ!」

「わぁーってるよ! これでもやってんだ!」

 槍使いの青年は応え、自慢の氷冷銀の槍アイスミスリルスピアで五連突きを放った。その穂先は正確に五匹のゴブリンの頭蓋をつらぬき、同時にまき散らした冷気によって後続の足を凍らせていた。

 前方に集中できる狭い通路というロケーションは、槍使いにとっては独壇場だ。しかし雲霞のごとく押し寄せるゴブリンの群れはまだまだ尽きる様子がない。

 荒野の土に埋もれるようにしてその口を開けていた遺跡。彼らは溢れんばかりに刺激された冒険心をみたすため、いつものように探索に乗り込んだ。しかしそこは既にゴブリンたちが棲みつく彼らのねぐらであり、これまたいつものように戦闘となった。よくある話ではあるが、あくびなどしていられる余裕はない。

「こいつら、『ミスト』だけじゃなく『アビス』まで混じってやがる! 数だけじゃなく質もいいぞ!」

「泣き言いってる暇なんかあんのかい!」

「事実を言ってるだけだってんだ、よッ!」

「ゴブ!?」

「ギギ……ッ!?」

 サイラスは槍を下から振り上げ、波のように冷気を放った。二体の赤黒のゴブリンたちは、胸から下を凍らされその場に拘束される。しかし死んではいない。さすがにアビスゴブリン、魔王の眷属たる上位種はしぶとい。

「クソ……ッ! デルフィナ、少し代わってくれ! 霊力がやばい!」

「なんだい、情けないねえ! もう少し男っぷりを見せたらどうなんだい!」

 拳闘士デルフィナは拳を打ち付け、獰猛な笑みを浮かべた。野蛮な雄たけびを響かせながら突進すると、サイラスが凍らせたゴブリンたちを何度も殴りつけ、砕き散らす。

 サイラスはそのさまを見ながら後退し、腰に下げた瓶をつかんで、空色の霊薬ポーションを一気にあおる。消費した霊力が徐々に回復するのを感じながら、彼は後方の仲間に言った。

「おいヨーナス! そのパズルはまだ解けねえのか!?」

「焦らすンでねえ。こういうのは手順が大事なンだぁ。頭ンなかとっ散らかったらまた振り出しになンぞぉ」

 野暮ったい顔の術師ヨーナスはのんびりと答える。その口調とは裏腹に、彼は滑らかに手を動かし、壁に埋め込まれた様々な形状のブロックを絶えず操作していた。砂色の壁のなか、黒く自己主張するこれらのブロックで正方形を作ることができれば、壁の低い位置にある小さな扉がひらくはず。

 だが時間は限られていた。トゲ付きの天井がヨーナスの頭上から迫ってきている。床に偽装されたスイッチを踏んでいるせいだろう。おそらく足を離すと即座に落下する仕掛けだ。ヨーナスの足では逃げ切れまい。

 そこに立った以上、制限時間内に解いてみせろ。さもなくば死ね。遺跡はそう言っている。しかしヨーナスは焦っていなかった。たぶん自分ならば間に合う、という信頼があるからだ。彼は三十年も付き合ってきた己の頭脳を過不足なく評価していた。

「ンーっと、ここを、こう……ンだな、行けるな。ほい、ほい、ほい、ほい、ほいっと」

「解けたか!?」

「おお、解けた解けた。天井も止まったな。ほいじゃあ、中身を拝見、と……あら」

 しゃがんで小さな扉を開けたヨーナスが見つけたのは、古びた一本の羽根だった。お宝などではない。名うての冒険者一党と名高き《自由の翼》が遺跡に残していくというシンボル。「ここにあったものは頂戴しました」という犯行宣言だった。

 ヨーナスはぽりぽりと頭を掻いた。




→ 幕間 6

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